2013年の終わりに際して一言、ОTK売却先選定委員会の“イカサマ配点方式”を指摘した12月25日拙ブログは関係各方面の大きな反響を呼んだ、泉北高速鉄道外資(米投資ファンド)売却議案否決の波紋(その5)、ポスト堺市長選の政治分析(21)

 今日12月27日は「仕事納め」、役所でいえば「御用納め」の日だ。本来ならば2013年を振り返り、気の利いた言葉で総括したいところだが、波乱に満ちた1年をこんな短いブログで締めくくれるはずがない。おまけに昨12月26日は安倍政権発足1年目に当たるとかで、安倍首相から「靖国神社参拝」という(早めの)“デッカイお年玉”まで届けられる始末だ。おそらく国内外はこのことで当分は持ちきりになるであろうが、拙ブログは「泉北高速鉄道外資売却議案否決の波紋」シリーズでおとなしく幕を閉じようと思う。

 幕を閉じるにあたって、改めて「大阪府都市開発株式会社(OTK)株式売却案件」の全体構図を振り返ってみたいと思う。橋下氏が大阪府知事に当選してからまだ日も浅い2008年4月、早くも大阪府がOTK株式を売却する方針が打ち出された。タテマエは「民間にできることは民間に委ねる」という行政理念にもとづくものとされているが、ホンネは行政財産を叩き売って「世界と戦える大阪!」(関西州の州都建設、リニア新幹線の引き込み、カジノリゾート開発など)の開発資金を調達しようという魂胆だろう。

 このため府幹部を集めた「大阪府戦略本部」が設置され(2008年8月に設置した「大阪府経営企画会議」を2009年4月に発展的解消して設置)、会議はもっぱら巨大開発プロジェクトや資金調達の議論に明け暮れることになった。そこで槍玉に挙がったのが巨額の含み資産を抱えるОTKの売却案件である。ОTKは泉北高速鉄道と2つの流通センター(トラックターミナルや流通倉庫)などから構成され、1974年度以来、黒字経営を続けている(最近では年間2億4千万円の配当)第3セクター企業である。しかし、戦略本部会議は鉄道事業と物流事業の持つ公共性や公益性などには一切お構いなく、とにかく「金になるものは売る」という“橋下イズム”の基本方針のもとで売却方針が検討されはじめたのである。日経新聞はその事情を次のように解説する(2013年11月27日)。

 「金融筋によると、ローンスターなど外資系から多くの関心を集めた背景には、ОTKが主要な高速道路に囲まれた内陸部の一等地に、甲子園球場が計10個分の敷地面積を誇る物流拠点を保有する潜在性の高さに注目した結果だという。ОTKは現在、北大阪と東大阪の2カ所に流通センターを持つ。ある物流関係者は「内陸部でこれほどまとまった物流用地はめったにない。老朽化した施設を建て替えたり、最新鋭の仕分け装置を導入したりして効率化すれば魅力がさらに増す」と話す。即日配達が求められるネット通販の隆盛で、都心部に近い物流拠点の重要性が増していることも追い風になったようだ」

 2009年4月、平成21年度第2回大阪府戦略本部会議においてОTKの鉄道事業と物流事業を分割して売却する方針が決定された。その根拠(特徴・メリット)は、「事業ごとに最も相乗効果の期待できる相手に売却可能なため、民間ノウハウの活用が進みやすい」、「公平かつ競争的な民営化が可能」、「各事業を高値で売却可能」などであった。この段階では、少なくとも鉄道事業と物流事業の継続が前提とされていたことがわかる(大阪府公式サイト、戦略本部会議、議事概要)。

 ところが2010年9月、平成22年度第15回大阪府戦略本部会議において、突如、分割売却方針が変更され、ОTKの“全株式一括売却”の方針が決定された。理由は、「早期の民営化が可能」、「経営権が移転するためノウハウ活用に期待」、「手続きが簡単」などである。この点に関して注目すべきは、上記の日経記事「大阪府都市開発(ОTK)の株式売却を巡る経緯」のなかで、“全株式一括売却”が決定される1か月前の2010年8月、橋下知事(当時)が南海電鉄会長とОTKの民営化を巡って会談した事実がことさらに報じられていることだろう。

 両者の会談で何が話されたかは「知る人ぞ知る」だろうが、その記事から読み取れることは、この会談で“全株式一括売却”に方針転換する何らかの新しい事情が生じたということだ。私は次のように推測する。

(1)鉄道事業を売却することは社会的にもきわめて困難なので(府議会や沿線自治体、沿線住民などから必ず反対運動が起る)、大阪府泉北高速鉄道と相互乗り入れしている南海電鉄に売却(随意契約)を持ちかけた。
(2)しかし、南海電鉄泉北高速鉄道を引き取るだけではうまみが少ないので、広大な用地が高値で売れるもうひとつの物流事業も含めてなら交渉に応じてもよいと回答した。
(3)橋下知事南海電鉄会長との会談で“全株式一括売却”に関する合意が成立し、表向きは「公募」でも「本命」は南海電鉄が買収することが事実上決まった。
(4)この談合を受けて、府戦略本部会議で“全株式一括売却”に方針転換することが決定された。

 以降、2013年6月に府議会の議決を経て公募が始まったが、すでにそれ以前から売却条件などの秘密情報が(なぜか)外資投資ファンドにもあまねく行き渡っており、サブプライムローン問題で世界金融危機の引き金を引いたゴールドマン・サックスをはじめとして名だたる外資投資ファンドアメリカでは「バイアウト・ファンド」といわれるいわゆる「ハゲタカファンド」)が多数応募するという事態になった。そしてこうした事態に備えて、“出来レース”のシナリオがつくられることになったのである。

 おそらく府担当部局と松井知事との間では「南海か、外資系か」の綱引きがあったと思われる。しかし最終的には、裏取引も含めて「誰でもいいからできるだけ高く売れ!」との橋下・松井両氏の(投機的デベロッパーともいうべき)意向が通り、それに沿った売却条項や選定方法(配点評価)のシナリオがつくられ、そしてセリフを忠実に読む選定委員が「選定」されたのである。

 「大阪府都市開発(ОTK)」の株式が米投資ファンドに高値で売却される見通しになった2013年11月28日、橋下市長は大阪市営地下鉄民営化政策の宣伝も兼ねて定例記者会見に臨み、得意絶頂の面持ちで次のような見解を述べた(msn産経ニュース関西、2013年11月28日)。
 「まだ大阪府が(米投資ファンドに)優先交渉権を与えた段階で交渉はこれからだが、(米投資ファンドが提示した買い取り額は)約780億円で、全国の行政資産を持つ自治体に手本にしてもらいたい好事例だ。松井知事は売却で得た資金を交通網の整備にあてる方針であり、大阪市交通局も同じようなことを考えるべきだ。なぜ外資が入ると日本人は恐れるのか。安全保障に関わること以外では、外国企業を呼びこむことは成長戦略の最たる例。株式売却で地下鉄に投じたお金を回収し再投資に回せる。いわゆる“錬金術”だ」

 だが“出来レース”の大舞台は、松井知事が「やっつけられた!」と思わず漏らしたように最後の一幕でひっくり返った。“出来レース”を見ていた観客(府民)が「これは八百長レースだ!」と騒ぎ出し、着差判定委員会(府議会)のなかの何人かの維新府議が動揺して判定を覆したのである。松井知事は「再レース」をできるだけ早くやりたいというが、観客は不正ルールや不正に加担した騎手を変えない再レースなど認めるはずがない。再レースをするかどうかは(中止も含めて)、大阪府府議会が第三者機関としての検証委員会をつくって“出来レース”の不正を検証してからでも遅くないのである。

 最後に、12月25日の拙ブログに対してОTKの関係方面から大きな反響があったことを付け加えたい。反響は堺市など沿線自治体はもとよりОTKの共同株主であった関西電力大阪ガスにも広がり、内部でもいろんな意見が交わされていると聞く。またコメント氏諸兄からも貴重な意見を頂いた。特に下記のコメントは傾聴に値すると思うので、再掲をお許しいただきたいと思う。

 「最低設定価格715億円に対して720億円ですから、南海は予定価格を知っていたでしょう。ところが、式を見ると、12項目30点ですから、提案点は10点以上の差がつかないのが明らかなので、780億出せば、確実に落札できると踏んだハゲタカが参入したのです。年間5000万人の乗客から70円づつ余分にとれば差額60億は軽いものです。橋下と結託した南海のボロ儲けに、ハゲタカが分け前を要求した構図です。5年後に南海に売るつもりだったでしょう。今でもすでに南海の子会社化している泉北鉄道の行き先はどっちみち南海しかありません。そのときは、民間企業どうしの売買ですから、運賃値下げの条件も消えていますから、南海もハゲタカ経由で入手する事を納得済みだったのだと思います。売却先が問題なのではなく、売却自体が利権そのものなのです」

 来年は「いい年」になるとはとうてい思えませんが、それでも恒例のご挨拶を読者のみなさまに申し上げます。どうかいい年をお迎えください。