安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(8)、文芸春秋の「安倍総理の『保守』を問う」は、国家保守の総批判特集だ、維新と野党再編の行方をめぐって(その11)

 安倍政権を全面的に肯定する意見の回答者には、右派系雑誌の常連であり、右派イデオローグの代表である藤原正彦氏(数学者、作家)、中西輝政氏(京大名誉教授)、佐藤正久氏(元自衛隊員、参議院議員)などがいる。言わんとするところは大同小異で、その内容は「来年、大東亜戦争敗戦から七十年を迎える。戦いに敗れた国とはいえ、七十年近く『戦後レジーム』から脱却できず、外交、安全保障、教育など広範な分野でそれに縛られているということは痛恨の極みであり、今、安倍政権が取り組んでいる様々な施策について自衛官出身の国会議員として全く意を同じくするものである」(佐藤)ということに尽きる。

 また今後の展望としては、「現在、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の是非が論じられているが、これは通過点に過ぎず、憲法改正を果たし、自衛隊が名実ともに国軍になる時こそが、真の『戦後レジーム』の打破となるのではなかろうか」(佐藤)との見解がストレートに披露される。「戦後レジームからの脱却」すなわち憲法改正にもとづく自衛隊の国軍化をひたすら追及する安倍政権こそが「真の保守政権」であり、「右傾化」などの言いがかりはとんでもないという立場である。

 ところが元大学教授であり文筆家でもある藤原・中西両氏になると、このようなストレートな発言がお気に召さないのか、いろいろ尾ひれを付けた攻撃的文章に一変する。藤原氏は「左翼とは戦後レジームすなわち戦勝国体制、平和憲法東京裁判史観、自虐史観などを堅持しようとする人々だ」と一方的に中傷し、「中韓は最近しばしば日本は右傾化したと言う。彼等の言う右とは軍国主義者とか侵略主義者のことだろう。無論誤りだ。そんな人は狂人を除き我が国にはいないからだ」とまで極言する。

 そして返す刀で「変な保守が多すぎる」と断罪し、「戦後レジームに異を唱えながら経済のためなら何でもする守銭奴保守」、「アメリカ追随だけを信ずる親米ポチ保守」、「ヘイトスピーチなど過激な言動に走るヒステリー保守」などを十把一からげに非難したうえで、「我が国の文化や伝統、世界に誇る国柄を何より尊び、(略)国防や繁栄はそのための単なる手段にすぎないと考える人々だけが戦後レジームの是正という当然だが困難な使命を達成し、我が国の将来を明るく照らすことができる」と国家保守を賞賛する。明示されてはいないが、靖国参拝を強行する安倍首相が歴史的使命を達成する「国家保守」に擬せられていることは疑いない。

 歴史修正主義者の中西氏にいたっては「日本が右傾化しているなんて冗談も休み休みにしてほしい」という。その根拠に「左派=左翼政権=民主党政権」が三年以上も日本を支配していたことを挙げ、民主党政権の掲げたスローガンや政策が「いかに世界の常軌を逸した左翼色―ほとんど極左的と言ってもよい―の強いものであるか、ということも理解できないほど左傾していたことを思い知るべきでないのか」と断じる。そして「保守=右派」が戦後一貫して差別的取り扱いを受けてきたと抗議し、「保守=右派」に対する偏見や差別、排除を取り除くことが正常な姿であり、もっと「正常化=右傾化」しなければ本来の日本は取り戻せないと主張する。

 藤原氏や中西氏に共通することは、「戦後レジームからの脱却」が「戦前体制への復帰」へと一直線でつながっていることだ。そして戦前の軍国主義が正常な姿であるという視点(アメリカが批判する歴史修正主義)から、戦後は全て「左傾化」したと断じ、戦前体制への復帰(いわゆる復古主義)を推進することこそが「保守=右派」の使命であると主張する。世に言う「極右・反動」のポジションが彼等の座標軸である以上、左派はもとよりそこから外れる保守は全て否定の対象になるのである。まるで世界史も日本史も勉強したことのないような荒唐無稽な意見だが、これが安倍首相の「日本を取り戻す」というスローガンに通じているかと思うと、あながち時代錯誤の「狂気の沙汰」とも言えなくなる。

 さすがの文芸春秋誌も、このような人たちの論調だけでは「日本はもたない」と思ったのか、安倍政権が本来の保守政権から逸脱した右派政権との見方をしている多くの論者を起用している。その中にはいわゆる左派陣営に属する人もいるが、興味深いのは通常右派陣営に属している人々の間からも少なくない人たちが安倍政権の危険性を指摘していることだ。私は安倍政権の暴走を止めるためには、「本来の保守」であるこの人たちとの連携が不可欠だと考えているので、何人かの注目すべき意見を紹介したい。大蔵省ОBの榊原英資氏、ソニー元社長の出井伸之氏、元銀行員で作家の江上剛氏などの経済・財政関係者、細川内閣の元官房長官武村正義氏、自民党衆議院議員・総務会長の野田聖子氏、元自民党幹事長の加藤紘一氏などの政治家などがそれである。(つづく)