安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(10)、世論調査結果は質問次第で大きく変わる、集団的自衛権の「限定的行使」容認をめぐる世論調査をどう見るか、維新と野党再編の行方をめぐって(その13)

 安倍首相が5月15日の記者会見で表明した集団的自衛権の「限定的行使」について、このほど自民・公明の与党間で協議が始まった。事態は急迫しつつあるが、同時にこの1年間は護憲世論が過去のいかなる時期よりも顕著な高まりを見せ、安倍政権の改憲路線に対する国民的批判が飛躍的に広がっている状況もまた見ておかなくてはならない。

 この間の憲法に関する世論動向の特徴は、第1にマスメディアの如何を問わず(読売・産経も含めて)護憲世論が改憲世論を一貫して凌駕するようになったこと、第2にその変化の程度が過去の如何なる時期よりも大幅なものであること、第3に保守・革新の支持政党を超えて護憲世論が広がっていることの3点であり、この状況は戦後においても稀有の事態だと言わなければならない。

 しかし、各紙の世論調査に関する記事は全体の回答結果が主となり、社会調査の分析に不可欠な性別・年齢別・職業別・支持政党別といった各回答に関する基本属性別クロス集計は通常掲載されない。だが安倍政権は集団的自衛権の行使を選挙公約に掲げたわけではなく、また有権者も「改憲」をシングルイッシュー(単一争点)にして自民党に投票したわけではないので、自民・公明支持層が今の安倍政権の改憲政策をどのように評価しているかを知ることは極めて意義がある。

 そこで、私が入手できる世論調査のクロスデータ(『Journalism』、朝日新聞社、2014年5月号)でその分析結果をみよう。それによると、2014年2月から3月かけて実施された朝日新聞憲法世論調査(郵送法、回収率68%、4月7日公表)における自民支持および公明支持層の各質問に対する回答は、安倍政権が掲げる「戦後レジームからの脱却」を明確に否定し、戦後憲法体制の根幹である平和主義、立憲主義を支持する結果となっている。

(1)憲法第9条について、「変える方がよい」自民43%、公明23%、「変え
ない方がよい」自民49%、公明68%
(2)非核三原則について、「維持すべきだ」自民77%、公明86%、「見直す
べきだ」自民18%、公明9%
(3)憲法第9条を変え、自衛隊を正式の軍隊である国防軍にすることについて、
「賛成」自民37%、公明18%、「反対」自民56%、公明76%
(4)集団的自衛権について、「行使できない立場を維持する」自民52%、公
明69%、「行使できるようにする」自民40%、公明27%
(5)いまの日本の憲法は全体として、「よい憲法」自民61%、54%、「そう
は思わない」自民29%、公明38%
(6)いまの憲法ついて、「変える必要がある」自民52%、公明47%、「変え
る必要はない」自民41%、公明49%
(7)憲法第96条を変えることについて、「賛成」自民42%、公明35%、
「反対」自民49%、公明53%

 この数字を見ると、公明支持層はもとより自民支持層の間でも歴史的とも言える明確な“護憲シフト”が進んでおり、革新政党支持層の数字とほぼ変わらないまでに変化してきていることがわかる。とりわけ、自衛隊の国軍化や集団的自衛権行使など海外での軍事行動へ反対する世論がほぼ3分の2近くのレベルに達したことは、国民の護憲意識がいまや“国論”になったと言っても過言ではなく、改憲を推進する「1強多弱体制」の国会状況が如何に国民世論から乖離しているかを示している。

 朝日新聞(2014年4月7日)は、この結果を踏まえて「集団的自衛権 63%否定的」「昨年比7ポイント増 行使容認は29%」と報じ、「安倍内閣支持層や自民支持層でも『行使できない立場を維持する』が5割強で多数を占めている。安倍首相は政府による憲法解釈の変更で行使容認に踏み切ろうとしているが、行使容認層でも『憲法をかけなければならない』の56%が『政府の解釈を変更するだけでよい』の40%より多かった。首相に同意する人は回答者全体で12%しかいないことになる」と分析している。

 ところが安保法制懇報告が出される直前、2014年5月12日付けの読売新聞が1面トップで「集団自衛権71%容認」、「本社世論調査、『限定』支持は63%」、また2面では「集団自衛権 世論調査、自民、公明説得に追い風、『国民理解 深まりつつある』」と鬼の首でもとったように大々的に報じたのだから驚いた。それによると、読売新聞社が5月9〜11日に実施した全国世論調査では以下のような結果が出ている。
【質問】
「日本と密接な関係にある国が攻撃を受けたとき、日本への攻撃とみなして反撃する権利を『集団的自衛権』と言います。政府はこれまで、憲法上、この権利を使うことはできないとしていました。この集団的自衛権について、あなたの考えに最も近いものを一つ選んでください」
【回答】
「全面的に使えるようにすべきだ」8%、「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」63%、「使えるようにする必要はない」25%

 読売新聞はこの調査結果をもとに、「政府が目指す集団的自衛権の行使に関して、『必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ』とした『限定容認論』を支持する人は63%に上ることがわかった。『全面的に使えるようにすべきだ』と答えた8%と合わせて計71%が行使を容認する考えを示した。行使容認論の国民への広がりが鮮明となり、近く本格化する集団的自衛権を巡る与党協議にも影響を与えそうだ」と煽り、「支持政党別にみると、限定容認論への支持は自民支持層で7割を超えた。公明党集団的自衛権の行使容認に慎重だが、限定容認論を選んだ同党支持者は7割近くに上り、党と支持者の間で考え方に隔たりがあった」と公明党を牽制した。

 同じ国民を調査対象にした世論調査でありながら、立場を異にする新聞社によってなぜこれほど調査結果の違いが生まれるのだろうか。回答者は新聞社によって答える内容を変えるのだろうか。それとも新聞社の方が自らの主張を強めるために世論調査を操作するのであろうか。また世論調査はそれほど簡単に操作できるものなのであろうか。朝日・読売両紙の世論調査結果をみていると、こんな疑問が沸き起こってくる。次回はその原因を考えてみたい。(つづく)