安倍内閣・自民党の高支持率を分析する(7)、『文芸春秋』(2014年6月号)の超大型企画・「安倍総理の『保守』を問う」は安倍政権の反動的体質に不安を覚えているのではないか、維新と野党再編の行方をめぐって(その10)

 “自作自演”とはまさにこのことを言うのだろう。それは5月15日の安保法制懇報告を受けての安倍首相の記者会見のことだ。まず自分のお友達グループで作った私的懇談会を「有識者会議」と呼び、いかにも権威ある組織であるかのように見せかける。次にその中から都合のいい部分を取り出し、紙芝居よろしく集団的自衛権の必要性を国民に身振り手振りを交えて「わかりやすく」説明する。まるで自己陶酔そのものの一人芝居なのだ。

 ちなみに産経新聞と読売新聞が掲載した記者会見の写真は、双方とも目を見据え、拳(こぶし)を振り上げて力説する安倍首相のクローズアップ写真だった。両紙は集団自衛権行使に賭ける断固たる安倍首相の決意を強調したかったのであろうが、この写真はひと目見た家人が「怖い!」といったまま黙り込んでしまうほどの迫力があった。私自身も背筋に一瞬戦慄が走ったことを告白しなければならない。

 集団的自衛権を行使するとは、同盟関係にある他国が武力攻撃を受けたとき、自国が攻撃されていなくても同盟国の「敵国」に攻撃を加えるために参戦することだ。要するに、外国への自衛隊派兵と戦争への加担が集団的自衛権行使の最も本質的な中身なのである。それを海外の邦人救出行動に矮小化し、しかも子供を抱くお母さんのポンチ絵を使って日本国民の生命を守るための必要欠くべからざる措置だと力説するのだから、話はまるであべこべではないか。

 言い換えると、日本の自衛隊が他国の戦争のために海外派兵されることに全く触れないで、集団的自衛権を行使しなければ、「まさに紛争国から逃れようとしているお父さんやお母さんやおじいさんやおばあさん、子どもたちが乗っている米国の船を今、私たちは守ることができない」と再度強調するのだから、これでは個別的自衛権集団的自衛権に言い換える「子供だまし」の説明だといわれても仕方がない。

 翌日5月16日夜の集団的自衛権をめぐるNHK討論でも、さすがの安保法制懇の北岡座長代理ですら苦笑交じりで否定できないほど安倍首相の記者会見の稚拙さは際立っていた。ポンチ絵をわざわざ業者に描かせて自らシナリオを練ったといわれる安倍首相は「してやったり!」と得意満面だったが、テレビで報じられた会見の一部始終は、この人物の政治的資質と知的教養(の実水準)を国民に理解させるには十分だったのである。

 こんな安倍首相の姿勢に不安を抱いたのか、これまで安倍応援団の有力メンバーである大衆誌『文芸春秋』が最近になって注目すべき「超大型企画」を組んだ。タイトルは「安倍総理の『保守』を問う」、前文が「日本の針路はどこに向いているのか。我等の漠たる不安に百人の叡智が答える」というものだ。前文に続く企画趣旨には次のようなことが書かれている。

 「三年間、迷走に迷走を重ねた民主党政権安倍内閣は久々の本格的保守政権として発足した。特定秘密保護法制定、集団的自衛権の行使などを手がけ、「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権に対し、国内外から「右傾化」との非難も上がっている。日本はどこに向かうのか。「保守政権の本質」とは何か。少誌は下記のいずれかにお答えいただきたいと各界の識者に意見を募った」

 「①日本は『右傾化』しているのか」
 「②本来の『保守』とはいかなるものか」
 「③安倍政権の『戦後レジームからの脱却』をどう考えるか」

 国民が安倍政権に“深刻な不安”を感じているいま、文芸春秋誌が「漠たる不安」などと言うのは「季節はずれ」としか思えないが、それでも編集子が「漠たる不安」を感じるのは意味のないことではない。保守総本山の宣伝大衆誌を自認する彼らでさえが感じる「漠たる不安」とはいったい何なのか、それは何に根ざすものなのか。このことを解明する上でこの企画は結構参考になる。回答者の多くが同誌の常連メンバーであることを十分考慮したうえで、私なりの考察を若干試みてみたいと思う。

 まず全体の意見の区分は、(1)安倍政権こそが日本の運命を託すべき「保守本流=保守本格政権」だとする全面肯定派、(2)保守政権を名乗るもののその本質は「対米従属政権」に過ぎないという全面否定派、(3)本来の保守政権から逸脱した「右傾化政権」だとする(条件付)否定派にわかれる。また表現の仕方から言えば、質問に対して真正面から答えようとしたもの、自分の意見を明確に示さないで茶化した態度に終始したもの、罵詈雑言に近い発言を並べたものなど、回答者の人格をうかがわせる材料にも不足しない。

 だが意外だったのは、産経新聞系の『正論』や読売新聞系の『中央公論』などの右派雑誌に比べて、文芸春秋誌の今回の企画は、安倍政権の「保守」の中身を点検しようとする案外真面目なものだったことだ。それは、回答者の「百人の叡智」の選択にも反映されているように、安倍政権の全面肯定派と全面否定派はそれほど多くなく、回答者の中核は安倍政権を本来の保守政権から逸脱した「右傾化=反動政権」だとみる(条件付)否定派が結構多かったことである。次回からその具体的な分析をしたい。(つづく)