「東京一極集中に歯止めをかける」といいながら、東日本大震災の被災地を見捨てて、なぜ「東京オリンピック」開催に血道を上げるのか、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その2)

9月29日から臨時国会が開会される。安倍首相は集団的自衛権関連の法案提出を一切避けて、「地方創生」と「女性の活躍」を二枚看板にして国会論戦に臨む構えだそうだ(毎日新聞、2014年9月24日)。しかも念の入ったことに臨時国会を「地方創生国会」などと名付け、安倍政権があたかも「地方重視」をしているかのようなパフォーマンスまでやるのだから、広報戦略としてもなかなかのものだと言わなければならない。
 
これまでおよそ「地方」など眼中になかった安倍政権が、なぜいま突如として「地方創生」を打ち出してきたのか、その背景と理由については前回のブログでも簡単に触れた。今回以降は、安倍政権発足以来の重要政策との対比で、「地方創生」がいかに口先だけの政策キャンペーン(宣伝活動)にすぎないかを具体的に検証しよう。

まず政策検討にあたって押さえなければならないことは、現在の安倍政権を取り巻く政策環境が「いいこと取り」をできるほど甘くはないということだ。経済成長のうえでも人口動向のうえでも、大都市圏と地方圏がともに成長できるような「プラスサム」状態はもはや消滅しており、両者の関係はどちらかを優先すればどちらかが後退するという「ゼロサム」もしくは「マイナスサム」状態に陥っていると考えた方がよい。これは、グローバル経済と国内経済の関係においても同じく言えることだ。

したがって「地方重視」の政策を貫こうとすれば、海外と国内の関係では国内経済を、大都市圏と地方圏の関係では地方経済を優先する姿勢を明確にしなければ政策の有効性を担保できない。この政策のプライオリティ(優先順位)を間違えると、「地方創生」は口先だけの宣伝文句になってしまい、言葉が如何に踊ろうとも結果は全く期待できないことになってしまう。たとえば、「東京一極集中に歯止めをかけ、地方を創生する」という安倍政権の謳い文句についてはどうか。

この政策が安倍政権にとってどれだけ矛盾に満ちたもの(嘘八百)であるかは、少しでも常識のある人間なら即座に分かることだ。安倍首相が東京以外に関心がないことは、2020年東京オリンピックの招致にかけた首相自身の言動が余すところなく説明してくれる。東京オリンピックを招致することが東京一極集中をどれだけ加速させるか(その反動で地方が如何に疲弊するか)を百も承知しているにもかかわらず、安倍首相は東日本大震災の復興を後回しにして東京オリンピック招致を最優先したのである。具体的経過はこうだ。

2013年9月7日の国際オリンピック委員会(IOC)総会を控えて、東京五輪招致委員会は相次ぐ福島第1原発の汚染炊漏れ事故によって苦境に陥り、オリンピック開催時の安全性に対する各国の懸念を払拭できない状況に追い込まれていた。IOC総会直前の8月20日、東京電力は福島第1原発の地上タンクから高濃度の放射性物質を含んだ汚染水約300トンが漏れていたことを公表し、しかも1カ月近くこの状態が放置されていた可能性があることを明らかにした。漏れた放射性物質の総量は約24兆ベクレルと推計され、原子力規制委員会は8月28日、原発事故の国際評価尺度(INES)で「レベル1」(逸脱)と暫定評価していた今回のトラブルを、レベル3(重大な異常事象)に引き上げざるを得なかった(各紙、2013年8月29日)。

 「嘘も方便」というが、この苦境を乗り切るために用いた安倍政権の作戦が、「福島と東京は250キロ離れているので東京は安全」と全く根拠のない強気発言を押し通すことだった。まず9月4日の記者会見で竹田五輪招致委員会理事長が口火を切り、次いで9月7日のIОC総会では安倍首相が「(原発汚染水漏れの)状況はコントロールされている」、「港湾内の0.3平方キロ範囲内で完全にブロックされている」、「(汚染水が)東京にダメージを与えることはない」とまで言い切った(朝日新聞、2013年9月10日)。

だが、「福島と東京は離れているので東京は安全」と強弁することは、2020年の東京オリンピック開催時に東日本大震災から「復興した日本」を見せるという「復興五輪」の理念にも反する。「福島と東京は別」と強調することは、被災地と東京を分断する発想であり、東京さえよければ東北地方の復興が遅れても構わないとする「東京一極集中主義」の表明に他ならない。当然のことながら、被災地現場では「『東京が安全』と強調するのは『福島の現状がひどい』ということ。馬鹿にしている」、「東京が安全ならいいのか。差別的だ」との激しい抗議の声が上がった(東京新聞毎日新聞、2013年9月7日)。

安倍首相の発言は、東京オリンピックの招致に成功したとはいえ、国内外の人心を欺きかつ福島原発被災者の気持ちを深く傷つけた。安倍首相は、原発汚染水が「完全にコントロールされている」など当の東電さえ認めていないウソを(世界の前で)公然とつき、あまつさえ「福島と東京は離れているので東京は安全」と強弁することで、一時は掲げた「復興五輪」の理念さえも完全に放棄したのである。

原発汚染水漏れ事故は当時もいまも未解決であり、福島原発の事故収束と廃炉にいたる行程の最大の障害になっている。IОC総会中に行われた朝日新聞世論調査(2013年9月10日発表)でも、安倍政権の汚水水対策について「対応が遅かった」72%、東電まかせにしないで「国がもっと前面に出るべきだ」89%、原発事故への取組みを「評価しない」50%というように、安倍政権の原発事故対策は国民の徹底的な不信を買っていたが、その事態はいまも変わらない(それどころかますます深刻化している)。

臨時国会に提出される「地方創生法案」がどのような形になるか、現在のところはまだよく分からない。9月25日の朝日新聞によれば、法案の名称は「まち・ひと・しごと創生法案」というもの。第1条に「少子高齢化に対応し、人口減少に歯止めをかけ、東京圏への人口の過度の集中を是正する」との目的が掲げられ、第2条には「結婚、出産、育児で希望の持てる社会」、「地域の特性を生かし、魅力ある就業機会の創出」などの基本理念が並べられているという。また「国、地方の相互連携」を担保するため、都道府県や市町村が政府の策定する戦略を勘案し、「総合戦略」を策定する努力義務を設けたのが特徴だとされている。

これまで各省庁が取り組んできたこれらの諸課題が、こんな「地方創生法案」1本で達成されるなどとは誰一人思わないであろうが、それにしても気になるのが、第1条の「東京圏への人口の過度の集中を是正する」との文面だ。「東京圏への人口の集中を抑制する」と明確に書けばよいものを、「過度の集中を是正する」というのだから、「適度の集中」であれば「是正しなくてもよい」と読める。要するに、安倍政権は依然として東京一極集中に本気で歯止めをかける意思がないのであり、「言葉の遊び」として「東京圏への人口の過度の集中を是正する」目的を掲げているだけのことなのだ。(つづく)