女性閣僚辞任問題で「地方創生国会」が吹き飛ぶ可能性が出てきた、「地方創生」はおろか「アベノミクス」が崩壊する日も近い、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その9)

 安倍内閣が女性閣僚(小渕経産相)の「政治とカネ」問題で大揺れに揺れている。今日10月20日時点では「小渕、辞任必至!」というのが各紙の共通した見方だ。11月上旬発行の『ねっとわーく京都』(2014年12月号)の連載原稿のためにこのところ少しブログを休んでいたが、その間に安倍政権を女性閣僚の「政治とカネ」という大型台風が直撃したのである。今回のブログは「地方創生」キャンペーンの裏にある財界の「都市国家戦略」の分析を一時中止して、女性閣僚辞任問題が「地方創生」に与える影響について考えてみたい。

『ねっとわーく京都』の拙稿のタイトルは、「地方創生でアベノミクスの危機を打開できるか〜『まち・ひと・しごと法案』を解剖する〜」というもので、その結びは次のような言葉で締めくくっている。
「安倍政権にとって閣僚の『政治とカネ』の問題は、第1次安倍内閣の命取りにもなったように『鬼門中の鬼門』であり、今回の小渕辞任劇は今後の『辞任ドミノ』の前触れとも言われている。女性閣僚の登用で内閣支持率の回復を狙った策略が裏目となって安倍政権そのものが危機に直面し、『地方創生』はおろかアベノミクスそのものが崩壊する日が間近いのかもしれない」

意味するところはこうだ。もともと「地方創生」という政策は、アベノミクス(グローバル企業・大都市・富裕層中心の経済政策)の対象外に置かれてきた「地方対策」を形ばかりの政策に仕立て上げたもので、いわば宣伝文句の域を出ない。今国会に上程された「まち・ひと・しごと法案」を読んでみても、そこには基本理念、国と自治体の責務、総合戦略の策定、本部の設置など法律の「枠組み」は書いてあるが、具体的な中身は何も書かかれていない。いわば「餡子(アンコ)のない皮だけの饅頭」みたいなもので、私の友人の行政学者の言葉を借りれば「スカスカの法案」なのだ。

要するに「まち・ひと・しごと法案」は、「こんな法律をつくりますので期待してください」といった程度の代物であり、地方対策の単なる「前口上」「前宣伝」にすぎない。だから基本理念を実現するための具体案は「全てこれから」ということになっていて、財源の手当てができなければ「総合戦略だけを作って終わり」ということにもなりかねない。その審議の出入り端に女性閣僚の「政治とカネ」問題が発覚したのだから、「地方創生国会」は「政治とカネ国会」に変貌して「地方創生」どころではなくなったのである。

周知のように安倍内閣の支持率は、集団的自衛権の行使容認に関する閣議決定の強行を機に低下傾向をたどり始めた。これを「危険信号」だと見た安倍首相が内閣改造に踏み切り、支持率低下の歯止めの「切り札」に起用したのが5人の女性閣僚の登用だった。今国会の議題が「地方創生」と「女性活躍」が2大テーマだというので、地方創生担当大臣に話題の石破氏を据え、女性閣僚の大量起用によってイメージチエンジを図ろうとしたのである。

5人の女性閣僚のうち高市・山谷・有村各氏の3人は、言わずと知れた首相肝煎りの「極右印3人組」だ。彼女らは安倍首相の期待に応えて(代理として)10月18日、靖国神社の秋季大例祭に参拝し、高市氏は「総務大臣」、有村氏は「国務大臣」と記帳した。「私的参拝」だとは口の上では言っているが、大臣名を肩書きにしての参拝だから「公式参拝」であることは明らかだろう。

この3人にくらべて、小渕・松島両氏は少し「毛色が違う」といわれている。松島氏についてはよく知らないが、小渕氏は毛並みもよく、結婚していて幼児もいる「若いお母さん」のイメージがとりわけ評価されたらしい。原発再稼動の最前線に立つ経済産業相に起用されたのも、このソフトイメージで「原発は安全です」と言えば、地元のお母さんたちがなんとなく安心してくれるという政治効果を期待してのことだ。

ところが、この「毛色が違う」2人に辞任問題が発生したのだから政治の世界はわからない。小渕氏は「政治とカネ」問題で、松島氏は「うちわ」問題でそれぞれ議会の追及を受けている。マスメディアは目下のところ小渕氏に的を絞り、辞任すれば安倍政権への「政治的打撃が大きい」としきりに伝えている。だが私は、松島氏の「うちわ」問題もそれに劣らず安倍政権への大打撃になると思う。理由は簡単だ。松島氏の国会答弁の有様があまりも拙劣(むしろ醜悪)で、これをテレビで見た女性たちが顔を背けるような反応を示しているからだ。

国民の反応は面白い。小渕氏と松島氏の問題の性格を考えれば、小渕氏の方が「重罪」であることはいうまでもないが、(私の周辺では)テレビでの釈明を見た限りでは小渕氏の方が「潔く見える」という人が多い。おそらく小渕氏が辞任した後は松島氏への批判が一挙に高まり、安倍首相の恐れる「辞任ドミノ」が始まるのではないか。

安倍内閣の支持率低下を一時食い止めたのは、女性閣僚の大量起用だった。そして内閣支持率の回復に寄与したのは、この女性閣僚の起用に好感を持った女性たちだった。このことは男女別の内閣支持率の内訳を見れば一目瞭然だ。当時、私は「男もいろいろ、女もいろいろ、そのうちに化けの皮が剥げる」などとブログに悪口を書いて顰蹙(ひんしゅく)を買ったが、「女もいろいろ」どころではなくて「最悪最低」になってくると、逆に内閣支持率の足を引っ張る存在になる。

安倍政権は「地方創生国会」と銘打ったものの、中身は「政治とカネ国会」になり、しかも「地方創生」に関する議論がどこかに吹き飛んでしまう―――、こんな状況を目の前にするとき、政治不信と政治劣化の輪が一段と広がることを懸念するのは私ひとりではないだろう。(つづく)