「東京一極集中」を煽る発言の背後には、財界(不動産・金融資本)の「都市国家戦略」がある、安倍政権における目玉政策と経済動向の乖離(2)、「地方創生」キャンペーンの意図と役割を分析する(その8)

 前回のブログで紹介した市川氏のような「東京一極集中が日本を救う」といった勇ましい発言が、「大学教授」という肩書きで発表されると如何にもアカデミックな響きに聞こえるかもしれない。だがマスメディアでの露出度が高い「大学教授」には、官僚出身者やジャーナリスト(右派)、財界系シンクタンク研究員などが突出して多いことに注意する必要がある。

 アメリカではこの種のシンクタンク出身者が代表的なイデオローグとしてマスメディアを独占して世論を誘導し、政界では活発なロビー活動を通して国や地方の政策を実質的に支配しているのが普通だ。それが日本でもその傾向がますます強まり、「学者のアメリカ化」が恐ろしいほどの勢いで進んでいるのである。

 気付いておられる方も多いと思うが、この種の人たちは実名で華々しくマスメディアで活躍しているばかりではなく、新聞や雑誌での「コラム欄」(通常はペンネーム)の常連でもあるので影響力が非常に大きい。世論形成(操作誘導)で無視できないのは「コラム欄」だという人もいるくらいなので、「コラム欄」の意見にはもっと注意する必要がある。

というのは、活字文化のなかで育ってきた人たちには「コラム欄」を愛読する人が多いからだ。短い文章の中に鋭い批判や風刺、最先端の情報などが散りばめられているからで、毎朝新聞を広げてまず見るのは、まず見出しとコラムだという人も少なくない。たとえば、日本経済新聞には「大機小機」、「時流地流」、「時事解析」などのコラム欄がある。それらを丹念に読んでいると、実名であれペンネームであれ、社説以上に言わんとするところが分かって面白い。東京一極集中に関して言えば、最近のコラムにはこんなことが書いてある(要旨)。

 「みずほ総合研究所の岡田主任研究員は、『今や国の競争ではなく都市間競争の時代。人口規模を維持しないなら大都市への集積を高めるべきで、維持するつもりなら小手先の外国人労働者の導入ではなく移民問題を真剣に考える時だ』と指摘する。JR東海が計画するリニア中央新幹線が東京、名古屋、大阪を結べば、人口6千万人以上のメガシティーが誕生する。『地方都市のネットワーク化など中途半端な分散化政策で、人口流出の歯止めにならない。大都市圏で出生率を引き上げる対策を充実して成長のけん引役にすべきだ』と主張する」(日経新聞、時事解析、2014年8月7日)

 「政府は東京への一極集中の是正と地域創生に力を入れている。これまでも同様の取り組みはあったが、今回は人口減少に歯止めをかけるという少子化対策と一体化しているのが大きな特徴だ。(だが、この政策は)第1に地方の活力をそぐ可能性がある。出生率が低いという理由で分散を促進すると集積の利点が発揮しにくくなり、その地域の魅力を損なう可能性がある。第2に地方で少子化対策に力を入れても、空振りになる可能性がある。就労機会が増えないと、結局は成人した後に東京などの大都市圏に流出してしまうからだ。第3に地方部での出生率が高いという状態がいつまでも続くという保証はない。少子化対策は国が中心となって全国的な施策を講じ、その上で、むしろ東京のような都市部に力を集中させる方がよい」(日経、大機小機、9月23日)

 「高度成長期には地方から都市部への人口移動が経済全体の生産性を高め成長の源泉となった。今後の高齢化社会で、人々が分散して生活していては病院や介護のネットワークが間に合わない。むしろ医療や介護のサービスが充実している都市部の高層住宅に、高齢者を誘導する必要がある。人口減少を止め地方を創生するには、産業誘致やハコモノ整備よりも、過疎地から都市部への住民移動を支援する『モノを作らない公共事業』がカギとなる。公共投資のバラマキで地方経済が活性化しないことは経験済みである地方の衰退を止めるために大都市への人口集中を抑制する『地方保護主義』は、日本全体の活力を失わせる』(日経、大機小機、9月27日)

 「『消滅可能性都市』で話題を呼んだ論文をもとにまとめた増田寛也氏の『地方消滅』を読んだ。印象深いのは地域の今後の生き残りモデルを挙げるくだりだ。『産業誘致型』『ベッドタウン型』など本書は6つの型を示すが、産業がない本当の過疎地にはそもそも無理そうなものばかりだ。多くの自治体にとって比較的実現性のある『コンパクトシティ型』では実際に人口増で上位に入っている例が1つも挙がっていない。生き残りがいかに厳しいものかを再確認した。それでも忘れてはならない重要な課題がある。それは地域が消滅するにしても、地方自治体はあくまで最後まで住民の安全を守り、不便や負担を極力抑える義務がある、という視点だ。これから始まる退却戦で自治体はそのしんがりを努めなくてはならない。いかに平和裏に消滅させるか。『地方創生』という言葉に潜む甘い幻想を断ち切るべき時である」(日経、時流地流、9月29日)

 ここまで書いてくると、安倍政権の「地方創生」を経済界(財界)がどのような眼で見ているかが明らかだというべきだろう。経済成長と人口維持のためには、「大都市集中が最も効果的」、「地方維持よりも地方から都市部へ住民を移動させるのが得策」、「地方保護主義は財政の無駄」、「地方自治体の最後のお努めは地域の消滅(安楽死)を見守ること」などなど、好き放題のことが書いてある。こんなエゲツナイことは普通の人間なら言えるはずもないが、資本を代表してなら幾らでも言えるのだろう。東京一極集中を唱える「大学教授」がいかなるバックを持っているか、次回に分析しよう。(つづく)