「人口急減社会=地方消滅」プロパガンダの次は「地方創生」キャンペーンだ、なぜ「地方再生」ではなくて「地方創生」なのか、その政策意図と役割を分析する(その1)

 日本創生会議による「人口急減社会=地方消滅」プロバガンダの口火が切られて以降、政府各省庁から堰を切ったように同種の提言や政策が打ち出された。 
(1)5月8日、日本創生会議が『ストップ・人口急減社会』を発表。
(2)5月13日、政府の経済財政諮問会議有識者会議が「50年後、1億人人口の維持」に関する提言を発表。
(3)6月9日、これを受けた経済財政諮問会議が「50年後に1億人程度の安定した人口構造の保持を目指す」、「2020年をめどに『人口急減・超高齢化』の流れを変える」ことなどを柱にした経済財政運営の基本方針『骨太の方針』(骨子)を発表。
(4)7月4日、国土交通省有識者会議が2050年には現在の居住地域の2割が無人となり、人口が半分以下に落ち込む地域が4割に及ぶとされる事態に備えて、市街地の集約とそれを交通網や情報網で結ぶ「コンパクト+ネットワーク」による国土再編成の構想・『国土のグランドデザイン2050〜対流促進型国土の形成〜』を発表。
(5)7月15日、全国知事会議が人口減少問題に関する集中討議を初めて行い、人口減少が続くと国家の基盤が危うくなるとして、国と地方が抜本的な少子化対策に取り組むべきだとの「少子化非常事態宣言」を採択。
(6)7月25日、 政府が地方の人口減少対策や経済活性化に取り組む「まち・ひと・しごと創生本部」の設置に向けた準備室を発足させ、政権の経済政策「アベノミクス」の効果を全国に普及させる地方版の「ローカル・アベノミクス」の策定など、来春の統一地方選をにらんだ各種施策の検討に着手。
(7)9月19日、政府は人口減少対策などに取り組む「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長・安倍首相)の下に設けた有識者会議の初会合を首相官邸で開き、地方創生の具体化に着手。直面する課題は少子化や東京一極集中の是正、雇用など多岐にわたっており、政府は予算編成作業と並行して今後5年間の「総合戦略」と50年後を見据えた「長期ビジョン」を策定する予定。

この経過からも分かるように、「地方創生」は「地方都市は消滅する」「地方の町は救えない」との「人口急減社会=地方消滅」プロパガンダ(恐怖アピール)を背景にして打ち出された地方対策であり、「地方消滅」に怯える地方住民の恐怖感を巧みに利用した政策宣伝であることが分かる。以下、その意図と役割を順次分析しよう。

第1は、このような政策がいま殊更に打ち出されることになった背景についてである。そこには安倍政権の発足以来、内閣支持率の要だった「アベノミクス」(グローバル企業・大都市・富裕層中心の経済政策)の正体が次第に明らかになり、新たな地方対策を打ち出さなければ安倍政権失墜の可能性が現実味を増してきたことがある。つまり「アベノミクス」一本槍では地方の人心を掌握することができず、地方独自の対策を迫られているということだ。当初は「ローカル・アベノミクス」のネーミングにすることも考えられたが、本体の「アベノミクス」がこけると一連托生の運命になるので、「地方創生」という名称になったらしい。

第2は、「地方創生」が単独政策としてではなく、「人口急減社会=地方消滅」プロパガンダを伴った地方対策として登場した理由についてである。もともと新自由主義を機軸とする安倍政権のアベノミクスには「国境」もなければ「地方」もない。彼らにとっては世界中を駆け巡るグローバル資本にとっての最適環境を整えればよいだけのことであって、地方経済の振興や地場産業の育成などはもともと眼中にないのである。したがって、安倍政権は「地方創生」によって地方経済が潤うとも回復するとも毛頭思っていない。それが実効ある地方振興政策ではなく、政策宣伝活動としての「地方創生」の実体であり本質である。

しかし安倍政権が権力を維持するには、経済政策としては実効を伴わなくても政治対策としての地方対策は必要である。「地方対策をやっている」という政治的パフォーマンスを見せなければ、地方住民の失望を買って自民党が政権を維持できなくなるからだ。ただし勘所は、「地方創生」が成功しなくても、それが安倍政権の失策ではなく「止むを得ない事情」のためだと言い訳できる材料を用意しておかなければならない。それが「人口急減社会」の到来であり、「地方消滅」の危機が目前に迫っているとのプロパガンダが大々的に展開された理由である。

第3は、地方対策が「地方再生」ではなく「地方創生」として打ち出された政治的意図についてである。これは阪神・淡路大震災においても東日本大震災においても「単なる復旧では創造的復興」が強調された文脈と軌を一にしている。つまり地方を再生して住民生活を持続的に安定させることが主眼ではなく、これを機に地方自治体を再編成して行政リストラを断行するというショック・ドクトリン政策(人口急減に便乗した地方再編政策)を遂行するキーワードとして「地方創生」が採用されているのであり、意図するところは新自由主義的な地方再編に他ならない。

ちなみに、「人口急減社会=地方消滅」を打ち出した日本創生会議は、戦後の日本経済の構造改革を推進してきた財界組織・日本生産性本部東日本大震災直後の2011年5月に結成した政策集団であり、東日本大震災に便乗した地方再編政策を具体化するために設立した組織であることを肝に銘じておきたい。(つづく)