「ポスト成長時代=人口減少時代」の現代都市計画の主役は(役人ではなくて)市民・住民なのだ、神戸の「まちなか再生」は住民が住み続けなければ成功しない、住み続けるかどうかは住民の意思(愛着)で決まる、阪神・淡路大震災20年を迎えて(その27)

人口減少時代の象徴的な都市問題である「空き地、空き家」問題を解決するにはどうすればよいのか。「ゴミ屋敷」になった空き家は壊すしかないだろうが、それでも跡地の空き地はどこにも持っていけない。空き家の修繕費を補助して新しい入居者を迎える、「空き家バンク」を作って中古住宅の流通を促進する、空き家を借り上げ公営住宅にして埋めるなどなど、いろんな情報が飛び交っている。考え得ることは全てやらなければならないと思うが、しかし、こんな「もぐら叩き」のような対症療法だけで「まちなか再生」が可能だと考えるのは楽観すぎる(知恵がなさすぎる)。

本気で大都市神戸の衰退を食い止め、インナーエリアの空洞化を防ごうとするのであれば、「まちなか再生」を住民主体で進める「まちづくり」の方法を考えなければならない。神戸市は言うだろう。「我々はすでにまちづくり行政のノウハウをふんだんに持っている」、「全国ではじめて『まちづくり条例』を作ったのは神戸市なのだ」、「まちづくりコンサルタント派遣制度を作ったのも神戸市ではないか」、「阪神・淡路大震災後の復興都市計画(2段階方式)もまちづくり手法で実行した」などなど。

しかし肝心なことは、それが誰の意思にもとづいて行われるかということだ。市当局が基本方針を決定し、それを具体化するための制度・手法(メニュー)のひとつとして「まちづくり」があるのであれば、これは従来の上意下達方式と変わらない。市当局が主体(主人)、コンサルタントは補助要員(代理人)、住民は客体(対象)という位置関係は同じなのだ。市当局が肝心の方針を決め、住民がそれに協力する(反対すればまちづくりは日の目を見ない)という構図が変わらなければ、「まちなか再生」は不可能というしかない。

いま安倍政権は、地方統一選を前にして「地方創生キャンペーン」を展開している。その謳い文句が「まち・ひと・しごと創生」というキャッチコピーだ。私は地方再編を意図する「地方創生」ではなくて、地方の暮らしと生業を再建する「地方再生」でなければと批判しているが、実は「まち・ひと・しごと」というフレーズは「まちなか再生」にぴったりだと思っている。空き地・空き家問題は地域衰退の表面に浮き出た現象であって、それが衰退の原因ではないからだ。神戸のインナーエリアの衰退と空洞化を食い止めるためには、「まち・ひと・しごと」の再生が必要だからだ。

それでは、「まち・ひと・しごと」の再生は誰が進めるのか。インフラ整備の土木事業は市役所の仕事だが、「まち・ひと・しごと」の再生は住民自身が担わなければ不可能であることは誰もが認めざるを得ないだろう。しかし高度成長時代のように人口移動が激しく、住民が「住み替え」を繰り返すような時代ではなかなか実現しなかった。まちづくりの主役であるべき住民の主体形成の条件が整っていなかったからだ。だが人口移動が落ち着き、住民が定住する条件が整ってきた時代になってはじめて、「地域に骨を埋めるひと」、「まちを愛するひと」、「しごとを始めるひと」がそこに生まれてくる。

私の提案は、「まちなか再生」の主役に住民を位置づけ、住民に「まちづくり提案権」を保障し、それを実現するための条件を市役所が整えることだ。そのためには神戸市はこれまでの都市計画のやり方を根本から転換しなければならない。こんな小論では言うべくもないが、少し例を挙げて具体的に説明しよう。

第1は、市全体のマクロなゾーニングは維持するとしても、インナーエリアではゾーニング手法を超えた「モザイク方式」のまちづくりを進めることだ。「モザイク方式」のまちづくりとは、まちづくり提案の手を挙げた地域を「まちづくり特区」に指定して建築基準法の適用を一部緩和し、「計画された混合地域」を作り出すことを意味する。言い換えれば、そこで住む人びとが創意工夫して仕事を起せるように、「まち・ひと・しごと」が一体として機能するような都市構造を意図的に作り出すのである。

第2は、「まちづくり特区」に指定された地域には、専門性と独立性を保障されたまちづくりコンサルタントを派遣することが求められる。現在でもコンサルタント派遣制度はあるが、コンサルタント料として支払われる額は「雀の涙」ほどしかない。これでは良心的なコンサルタントは食っていけないし、事務所の経営もままならない。少なくとも数年間にわたる経済保障と市当局が「余計なことを言わない」保障が求められる。

矢田市政によって市職員の3分の1が大幅リストラされた現在、もはや神戸市には住民のまちづくりを支援する人材が枯渇している。今後、「まちなか再生」を本格的に進めようとすれば、どうしても外部からの優秀な人材支援が必要であり、その人材をどこから調達するかが大きな課題となる。大規模プロジェクトであればまだしも、こんな「手間と時間がかかる」まちづくりを手伝ってくれる専門家を探し出すことは至難の業だからだ。

この点、神戸にはまちづくりの専門家集団が結集した「阪神・淡路まちづくり支援機構」の存在がもっと活用されてよい。同機構は震災の翌年に結成され、それ以降20年近くにわたって、弁護士、建築士不動産鑑定士、土地家屋測量士、税理士などの専門職能団体が互いに協力して被災地の復興支援に当たってきた。こんな分厚い経験を持つ専門家集団を「ほっとく手はない」と思うがどうだろうか。

また東日本大震災で大活躍しているUR(都市整備公団)の手を借りるのもひとつの方法だ。同公団は民主党政権時代の「仕分け」で不要不急の組織として名指しされ、早晩リストラされることになっていたが、東日本大震災が起こってから流れが変わった。1955年の創設時から60年もの住宅・都市づくりのノウハウを蓄積している公的組織なのだ。これからは「都市再生公団」と名称を変え、各自治体と協力して「まちなか再生」に取り組む体制を整えれば、「冴えない神戸」の貴重な助っ人になることは間違いない。(つづく)