大阪都構想住民投票をめぐる大阪市民世論調査結果をどうみるか、3月世論調査(共同通信・毎日新聞・産経新聞)と2月調査(朝日新聞)を比較して(1)、橋下維新の策略と手法を考える(その9)

大阪市議会で都構想協定書が可決された直後の3月14、15の両日、大阪市内の有権者を対象とする共同通信社世論調査が行われた。この世論調査の結果は3月16日の毎日新聞産経新聞の紙面で大々的に報じられたので、読者の多くは毎日・産経両紙が独自で世論調査を行ったと勘違いしているかもしれない。しかし共同通信と契約を結んでいる地方紙(京都新聞など)の紙面と毎日・産経両紙の紙面を比べてみると、分析内容は各紙それぞれ異なるものの質問と回答および調査結果の数字はまったく同じだから、同一調査であることには間違いない。したがって、3月調査は共同通信社世論調査として取り扱うことにしたい。

世論調査の結果を分析する時は、調査がいつの時点で行われたものであるかを注意することが重要だ。この点に関して言うと、2月調査(朝日)は公明の寝返りで大阪都構想が生き返り、都構想協定書案が府市両議会に再上程されることが決まった時点の調査、3月調査(共同通信)は都構想協定書が大阪市議会で可決された直後の調査という決定的な違いがある。台風情報に例えるなら、2月調査は台風が来る前の予想段階(ビフォアー)の調査、3月調査は台風が直撃した後(アフター)の調査だと言えるだろう。

「ビフォアー」と「アフター」では衝撃度が異なる。前者はあくまでも都構想住民投票が行われるかもしれない予想段階の調査だから(公明が翻意して協定書が再否決されるとの期待も含めて)、大阪市民の方もまだしも実感が湧かない心理状態のもとでの調査だった。しかし、後者は違う。大阪市議会で「まさか」と思われていた都構想協定書が「現実」のものとなり、いよいよ住民投票が実施されることが決まった直後の調査なのだ。13日から繰り返しテレビで都構想可決のニュースが流され、翌日14日の各紙は挙ってこの現実を伝えた。大阪市民が否応無く「都構想協定書可決」という現実を突きつけられ、住民投票にどう臨むかを考えなければならなくなった段階での調査なのである。

以上を前提にしたうえで2月、3月の2つの世論調査を比較してみると、そこには幾つかの興味深い傾向が読み取れる。以下、私の簡単な比較分析の視点や内容を記そう。

まず大阪都構想に対する賛否は、「賛成35%:反対44%:わからない・無回答21%」(2月調査)から「賛成43%:反対41%:わからない・無回答16%」(3月調査)へと変化した。大阪市議会が都構想協定書を可決したという現実に直面して「わからない・無回答」(ドント・ノー=DKグループ)が減り、その差は僅かとはいえ「賛成」が「反対」を上回って逆転したのである。

この差をどうみるかが比較分析の大きな分かれ目となる。賛否逆転の傾向が今後も継続して維新に追い風が吹くのか、それとも賛否逆転は市議会可決の影響を受けた「瞬間風速」的現象に過ぎないのか、という判断の分かれ目だ。この点では、各紙ともほぼ共通して「賛否拮抗」との評価をしていたのは妥当だと思う。情勢はまだ序盤戦の段階であり、これからどのような「どんでん返し」が起こるかわからないのが今回の住民投票の際立った特徴だからだ。

この点に関しては、協定書可決の市議会議場の模様を伝えた産経新聞(3月14日)の記事が参考になる。「都構想 嵐の予感、維新からの造反、ヤジ飛び交う」との大見出しを掲げた産経記事は、冒頭で次のような導入部分(リード)を書いた。
「最終決戦に向け、さらなる波乱を予感させる幕切れとなった。大阪都構想の協定書を承認した13日の大阪市議会。公明党の方針転換により賛成多数は既定路線だったが、承認の瞬間を見届けた橋下徹市長(大阪維新の会代表)は満足げに小さくうなずいた。しかし、野党からは橋下氏の手法に厳しい言葉が投げつけられ、身内の維新会派からは造反者が出た。議場にはヤジも飛び交い、市議会は喧騒に包まれた」

私は、この記事が今後の住民投票をめぐる情勢を的確に予想しているように思える。確かに2月、3月の世論調査では都構想に対する賛否が拮抗しているように見えるが、この状態は実は「嵐の前の静けさ」に他ならないのであって、住民投票をめぐる情勢は今後「大波乱」状態に突入していくことが予測されるからだ。その兆候は大阪市内や周辺都市で最近相次いで開かれている集会を見れば即座にわかる。2月段階ではまだ比較的冷静な学習会的雰囲気だった会場が3月中旬以降はガラリと色合いが変わり、最近では殺気立った空気にまで変化してきているのである。

たとえば、私が講師として参加した3月上旬の豊中市内の会場は、住民投票の持つ意味を冷静に考えようとする学習会の雰囲気だった。会場の参加者もホワイトカラー中心で質疑応答のレベルも高く、会場は静かな熱気に包まれていた。ところが昨日3月19日の大阪市内で開かれた大阪府民集会は、主催団体がこれまで知事選・市長選を戦ってきた政治団体であることもあってか、会場は怒りに満ちた熱気に覆われていた。(つづく)