柳の下に二匹目の泥鰌(どじょう)はいない、大阪都構想住民投票に「一か八か」を賭けた橋下市長は辞めるしかない、大阪府議選・市議選から都構想住民投票へ(9)、橋下維新の策略と手法を考える(その27)

 大阪都構想住民投票を1週間後に控えた5月9、10日の両日、各社一斉に世論調査が行われた。結果はいずれも反対が賛成を上回っているものの伯仲しており、終盤の情勢次第では逆転もあり得るとの予測だ。終盤になっても賛否が依然として伯仲していることには驚く他ないが、橋下市長の支持・不支持が拮抗しているのでそうなるのだろう。

 世論調査の内容は各社とも時系列変化をみるため変わっていない。またそれぞれの質問に対する回答(比率)にもそれほど大きな変化は見られない。通常の選挙戦ではありがちな終盤での劇的な変化は、目下のところ起こっていないと言える。おそらく情勢はこのまま最後の最後までもつれ込み、ギリギリの段階(投票日)まで勝敗の予測はつかないのではないか。それほどの大接戦だと言うことだ。

 全体の印象としてはそうだが、ただ性別や年代別のクロス集計をみると少し違った様相が見えてくる。毎日新聞共同通信世論調査では、性別では男性(賛成、反対とも45%)よりも女性(賛成34%、反対50%)の方に反対が多く、年代別では若年層(20〜30代)、中年層(40〜50代)、高年層(60代以上)の全ての年代で反対が賛成を上回ると言う意外な結果が出た(毎日新聞、2015年5月11日)。これは若者や女性に賛成票を期待した維新にとっては予想外の結果だったのではないか。橋下人気にあやかって若者や女性から大量の「なんとなく賛成票」を集めるのが維新の戦略だったからだ。

 実は2ヶ月前の毎日調査では、男性は賛成47%、反対42%、女性は賛成・反対ともに40%と全体としては賛成側に傾いていた(毎日新聞、3月16日)。それが今回は女性がはっきりと反対多数になって、全体としては明確に反対側にスウィングしたのである。年代別の変化はもっと顕著だ。2ヶ月前は若年層に賛成が多く(とりわけ30代は賛成54%、反対32%)、中年層は賛否拮抗、高年層は反対多数と、若年層は賛成側に大きく傾いていた(同上)。ところが今回は若者層(特に30代)でも反対が多数派になり、全ての年代にわたって反対が賛成を上回ったのだから、この変化は維新にとっては衝撃というべきだろう。

 それと並んで私が注目するのが新設する特別区別集計の結果だ。3月時点での毎日調査では、企業の本社や繁華街のある「北区」(都島、北、淀川、東淀川、福島)と「中央区」(西成、中央、西、天王寺、浪速)では賛成が共に50%で反対を10ポイント以上も大きく上回っていた(毎日新聞、3月16日)。ところが今回は、「北区」賛成38%、反対50%、「中央区」賛成40%、反対48%と賛否が逆転し、しかもその差が10ポイント前後の大差となったのだから、「両特別区」では差し引き20%程度も世論が賛成側から反対側へ動いたことになる。これは表面的な変化ではなく構造的な変化を示すものと言えるだろう。つまり維新が都構想の牽引車として期待する中核区においても、都構想は受け入れられなくなってきているということだ。

 なぜこんな変化が生じたのか。一言で言えばこの間の賛成・反対両派の活発な論戦によって「わけの分からない都構想」への市民の理解が進み、それとともに都構想の実体(正体)が市民の前に明らかになってきたからだろう。このことは朝日新聞世論調査でもよく分かる。5月9、10両日に実施された大阪市民を対象にした世論調査では、住民投票には「大いに」41%と「ある程度」41%を合わせて82%が「関心がある」と答え、「関心がある」は今年2月調査の66%、4月の76%から飛躍的に増えてきているのである(朝日新聞、2015年5月11日)。

また大阪都構想が実現した場合に新設される五つの特別区の区割り案を「知っている」は78%に及び、「知らない」の20%を大きく引き離した。「知っている」は今年2月調査では53%、4月は60%だから、これも着実に増加しているわけだ(同上)。つまり事態は「知れば知るほど」都構想への反対が増える局面に移行してきたと言うことであり、その結果が「賛成」33%、「反対」43%という10ポイント差になったのであろう。

 この状況を読売新聞は次のように解説している。「大阪市を廃止して5特別区を設ける『大阪都構想』の賛否を問う住民投票(17日投開票)は、報道各社の世論調査では反対が強まっていることが判明した。都構想を推進してきた維新の党や、同党の地方組織・大阪維新の会は危機感を強めている。大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長は11日、市内での街頭演説で『残念なことに反対派が優勢だ。だが、この大阪市のまま、10年後、20年後、どうなっているのか。反対の先には何もない』と声を張り上げた。(略)橋下氏は、住民投票で都構想が実現しなければ、政界を引退する考えを表明している。維新の党内では『発信力のある橋下氏がいなくなったら、維新は雲散霧消してしまう』との声も漏れる」(読売新聞電子版、2015年5月12日)。

 また産経新聞も「党存亡かけた維新、橋下氏に焦り」との見出しのもとで、「橋下氏は自ら退路を断ち、都構想否決の場合の政界引退を公言している。維新の党にとって否決されれば、党の掲げる重要政策の柱に加え、橋下氏と言う創業者も失う。党の存亡がかかった住民投票だけに、賛成が広がらない状況に焦りもにじむ」とさらに辛らつだ(産経新聞、5月11日)。

 この状況は昨年末総選挙時の維新の切羽詰った光景を想起させる。当時、極度の維新不振が伝えられ、選挙結果は議席減(激減)が予測されていた(かくなる私もその一員だった)。ところが橋下氏が維新敗北の場合は政界を引退するとの声明を発するに及んで「橋下フアン」が奮起したのか、維新が息を吹き返すと言う逆転劇が起こった。おそらくいま橋下市長はその「柳の下の二匹目の泥鰌(どじょう)」を狙っているのであろう。最後の1週間は「自らの進退」をキャッチコピーにして最後の一戦に臨むに違いない。

 しかし「一か八か」を賭けたこの作戦はもはや成功しないだろう。なぜなら、「大阪市解体阻止」という大儀の前には如何なるトリックもパフォーマンスも通用しないのであり、そのことを大阪市民が着実に理解し始めているからである。(つづく)