大阪ダブル選挙は自民党の「ダブルスタンダード選挙」と化している、首相官邸が維新派候補を支援し、大阪府連が反維新派候補を支持する「二枚舌構図」が有権者を惑わせている、大阪ダブル選挙の行方を考える(その4)

ダブルスタンダード選挙」(二枚舌選挙)は公明党の特許とばかり思っていたら、そうではなかった。ここ大阪ダブル選では公明党に劣らず、自民党も「ダブルスタンダード選挙」なのだ。その「二枚舌構図」が大阪府民を惑わせ、自民支持層の分裂を招いている。各社世論調査の解説記事を読むと、維新支持層は維新派候補支持で固まっているのに比べて、自民支持層は反維新派候補と維新派候補に分裂しているのが目につく。自民党本部や大阪府連はいったいどっちの方向に向いているのか、これでは自民支持層ひいては大阪の有権者全体への説明が付かないだろう。

たとえば、読売世論調査(10月16〜18日実施)によると、大阪市長選では自民支持層の5割が反維新派候補(柳本氏)と回答しているとはいえ、2割が維新派候補(吉村氏)に流れている。これが知事選になると松井氏と栗原氏が双方とも4割というのだから、自民支持層にとっては「どっちが知事になってもいい」と言っているのと同じことだ。この傾向は毎日、朝日世論調査にも共通するもので、要するに、自民支持層は首相官邸の支援する維新派候補と自民党大阪府連が支持する反維新派候補の間にさまよっているのである。

首相官邸と橋下・松井両氏との間のパイプは極めて太い。今年6月14日夜の安倍首相、菅官房長官、橋下・松井両氏による都内ホテルでの3時間にわたる4者会談は、大阪都構想住民投票に敗れ、いったんは「政界引退」表明をしたはずの橋下氏を「安倍補完勢力」として再利用するため持たれたものだ。話し合われたのは、維新の党を安保法制国会における自公与党の補完勢力にするための政界工作であり、橋下・松井両氏はそのための任務を与えられたのだろう。いわば「トロイの馬」の役割である。

だが、松野代表らの強固な反対に遭って維新の党を安保法案賛成側に引き寄せられないと見るや、橋下・松井両氏は8月27日、維新の党を離党すると突如表明し(その時は党を分裂させないと言っていた)、一夜明けた翌28日には一転して大阪系議員と新党をつくる方針を表明した。維新の党全体を補完勢力にできないと見た橋下氏らが、大阪系議員だけでも賛成側に回らせようと画策して新党結成に踏み切ったのだ。ここでも橋下・松井両氏の「早変わり」の緒を引いていたのは首相官邸であり、すべては8月25日夜、東京・赤坂のホテル内の日本料理店での菅・松井会談で作戦が練られていたのである。

そして、今度は大阪ダブル選を目前にして10月28日に首相官邸で行われた「これ見よがし」の菅・松井会談だ。読売新聞は「菅官房長官は28日、首相官邸松井一郎大阪府知事地域政党・おおさか維新の会幹事長)と会談した。大阪維新の会自民党らが争う大阪府知事大阪市長ダブル選(11月22日投開票)を前に、松井氏は官邸との親密ぶりをアピールする狙いがあるとみられる」と報じている(10月29日)。自民党大阪市議団は菅氏が松井氏と会談しないように中山府連会長に要請したというが、それが一瞥すらされなかったことに、「立候補予定者の松井さんと会うなんて反党行為と言われても仕方がない」(読売、同上)と憤慨している。毎日新聞も「自民党内には官邸がダブル選で橋下氏側に肩入れするのではないかという疑心暗鬼もくすぶる」と伝えている(10月29日)。

しかしより重大なのは、自民党本部内では橋下氏らと取引することが公然と話し合われており、それが実行されても不思議ではない「党内世論」が存在していた(いる)ことだ。朝日新聞はそのことを、「自民党谷垣禎一幹事長は27日、11月の大阪府知事大阪市長のダブル選の対策を協議する党内の会合で、党執行部内で一時、橋下徹大阪市長側との協力を探ったことを明らかにした。『市長選は我々の候補者、知事選は向こう、という分担を模索された向きもなきにしもあらずだった』と語った」(10月28日)と報じている。毎日新聞自民党大阪府連幹部の言葉として、「党本部は『ダブル選は市長選だけでいいのではないか』と言っていた。松井知事はつぶすな、という官邸の意向だろう」(10月29日)と伝えている。自民党本部では官邸の意思を忖度(そんたく)して、橋下氏らと自民党が手打ちする可能性すらあったのである。

しかしそれが「ダメ」になったのは、そんな取引をすれば大阪維新自民党大阪府連も「同じ穴の狢(むじな)」ということになり、大阪府民から一挙に信頼を失う恐れがあったからだ。朝日は28日の同じ記事の中で、谷垣氏が「きちっと戦わなければ大阪の自民党の勢力は立ち直れない」との首相の言葉を引いて事態の収拾を図ったと書いているが、これはおそらく安倍首相自身の言葉ではなく、谷垣氏が大阪府連の意向を代弁したものだろう。腹心の菅官房長官を通して橋下氏らを支援している首相がそんなことを言うはずがないからだ。

しかしよく考えてみると、自民党大阪府連も一枚岩ではない。今年5月の「大阪都構想住民投票を「オール大阪」で戦った竹本大阪府連会長がなぜかタカ派中山泰秀氏に取って代わられたのもその表れだ。中山氏は開口一番、反共丸出しの姿勢で「5月の『大阪都構想』の住民投票のように、イデオロギーが相反する政党と一緒に街宣活動をしてはコアなフアンを失う。他党に呼びかける前に自己を確立し、自身の足元を固めることだ。今月12日の府連会長就任時にも『こちらから共産に支援要請することはない』と述べた」などという始末だ(毎日新聞10月29日)。

この中山発言は「首相官邸代理人」の言葉としてもおかしくない響きに聞こえる。「オール大阪」でしか勝てないダブル選に自民党セクトを持ち込み、大阪府民の結束にひびを入れて維新派候補に塩を送る役割を果たしているとみられても仕方がないのである。今回の大阪ダブル選が複雑で難しいのは、首相官邸維新派候補を支援し、大阪府連が反維新派候補を支持する「ダブルスタンダード選挙」(二枚舌構図)が有権者を惑わせているからだ。しかもそれが首相官邸レベルにとどまらず、大阪府民レベルにまで降りてきているのだから事態はなおさら「ややこしい」と言わなければならない。

大阪府民の真の力量が試されていると思う。ブレーキを踏み続ける内部勢力を抱えながらダブル選を戦う――、こんな複雑怪奇な選挙に勝ち抜くのは並大抵のことではない。でもそんな高いハードルを越えないことには勝利をもぎ取れないとすれば、我慢に我慢を重ねて頑張るしかほかに道はない。大阪府民はきっとそんな頑張りをみせてダブル選を戦ってくれると思う。住民投票で見せた大阪の底力を私は信じている。(つづく)