「大阪都構想」はまだ生きている、維新分裂劇の最中に橋下支持率が上がる不思議、読売新聞世論調査から見えてくるもの、大阪ダブル選挙の行方を考える(その2)

10月19日付の読売新聞をみて驚いた。10月16日から18日にかけて行われた大阪府内の有権者を対象とする同社の世論調査で、「大阪都構想に賛成」「大阪維新の会が都構想実現を(再び)目指す方針を理解できる」が相対的多数を占め(大阪市内では拮抗)、「橋下市長を支持する」「橋下府市政を評価する」「橋下市長は政治家を引退すべきでない」「橋下新党に期待する」が過半数あるいはそれに近い割合を占めているではないか。いったい大阪府民の政治意識はどうなっているのかと一瞬思ったが、今回の世論調査は極めてシンプルな質問なので、これが現段階における大阪府民の政治意識のありのままの姿だと考える他はない。

読売紙の解説では、前回のダブル選に引き続き争点に浮上した大阪都構想への賛否が、今回のダブル選においても投票先を決める基準となっている傾向が浮かんだとされ、僅差で否決された大阪都構想がいまだに大阪府民の間では「生きている」事態が明らかになった。とりわけ住民投票が行われなかった大阪市以外の地域では、大阪都構想に関する理解が進んでいない所為か、住民投票以前の意識状態がそのまま持続しているような感じさえ受ける。もし反橋下陣営が「大阪都構想は終わった」と考えて選挙戦術を組み立てているとしたら、府民の政治意識とはミスマッチ状態になり、維新陣営に足をすくわれる結果になるかも知れない。

実は恥ずかしいことに、私自身も今年5月時点では「大阪都構想は終わった」「橋下維新の命運は尽きた」とばかり思っていた。僅差での否決ではあったが、それほど大阪都構想住民投票の与えた政治効果は大きく、大阪維新の会はもとより維新の党もこれを機に一気に影響力を失っていくと考えていたのである。大阪都構想の否決が首相官邸にとっての大阪維新(ひいては維新の党)の利用価値を低め、そのことが橋下氏の政治生命を絶つ契機になると楽観視していたのである。

その後の事態の展開はおよそ予想通りといえた。橋下氏が起死回生の一打として打ち出した「橋下新党=おおさか維新の会」の結成も、果てしない維新分裂の泥仕合となって日々世論の顰蹙(ひんしゅく)を買っている。毎月行われているNHKの「政治意識月例調査」でも、最新の10月調査(10〜12日実施)では遂に1%を割った。全国的に見れば、維新の党はもはや「泡沫政党」のレベルにまで落ち込んでいるといっても過言ではない。

ところが、大阪では事情が違うのである。日本の中のまるで「独立王国」のように大阪では橋下人気がいまだ衰えていない。地域政党大阪維新の会」が発足して以来、「第3極=改革勢力」として天まで持ち上げてきたマスメディアの「橋下イメージ」がいまも色濃く残っており、彼独特のコミュニケーション力(宣伝能力)も相まっていまだに府民を惑わせているのである。選挙戦の最終盤に「新党結成」を叫んで乗り込んだ枚方市長選では維新候補が現職候補に逆転勝ちし、議席ゼロだった東大阪市議選では定員38人のなかで一挙に8人を当選させた。侮れないというべきだ。

反橋下陣営では、大阪都構想は「使い古された旗印」だとみなされてきた(私もそうだった)。だが、今回の読売調査はその認識が誤りだったことを示しているのではないか。そういう視点からもう一度この間の各紙スクラップを見直していたら、幾つかそれらしい記事が見つかった。「ダブル選会見 主役は橋下氏、大阪維新 都構想再挑戦訴え」(読売新聞2015年10月2日)、「11.22大阪ダブル選インタビュー、大阪維新の会橋下徹代表 都構想の議論終わらせない」(朝日新聞10月15日)、「橋下市長ラスト選挙、大阪会議 狙い通り混乱、党構想待望論を醸成」(毎日新聞10月23日)などなどである。各紙の記事を紹介しよう(抜粋)。

「新党結成と大阪府知事大阪市長のダブル選(11月22日投開票)に向け、大阪維新の会が1日開いた記者会見で、主役を演じたのは、知事選候補の松井一郎氏でも、市長選候補の吉村洋文氏でもなく、橋下徹代表だった。『(12月18日の)任期終了後は政治に関与しない』と改めて政界引退を口にしつつ、選挙戦では『自分の選挙以上にやる』と宣言した。(略)新党についての説明が終わり、松井、吉村両氏が立候補の決意を語る場に移ってからも、橋下氏は冗舌に都構想に再挑戦する目的を語り続けた。計約2時間の会見中、橋下氏の発言回数は32回と、ダブル選の主役である松井氏の3倍、吉村氏の5倍に上った」(読売新聞10月2日)

―ダブル選挙の争点は。「過去の既存政党の政治に戻すか、維新の改革を進めるかだ。僕が代表だった第1ステージは破壊的改革。やりすぎた部分があるかもしれないので、松井一郎氏と吉村洋文氏が旗を振る第2ステージは修復と再構築、創造をテーマとする」
―なぜまた大阪都構想か。「反対派が提案した大阪会議で二重行政が解決するのならば不要だ。だが反対派は住民投票後、改革を全く進めず、大阪会議がポンコツであることが明らかとなった。ダブル選挙で問われるのは議論を続けるか、完全に終わらせるかの選択だ。議論を終わらせず、市民とより良い都構想にバージョンアップさせたい」
―都構想の目的は。「大阪を『副首都』にし、活気ある国際都市にすることだ。中央省庁の分散で企業の本社機能が大阪にも集まる。(略)首都機能のバックアップ都市に位置付けながら、経済成長戦略を進める」
―国政政党「おおさか維新の会」結成はダブル選挙を意識したものか。「いびつな東京一極集中の是正には、まず法律で大阪を副首都と位置づけなければダメ。省庁分散や国の予算措置、リニア実現には大阪都庁という強力な行政機構に加え、それらを牽引する強力な政治集団が必要だ」(朝日新聞10月15日)

「『11月の大阪府知事選、大阪市長選で大阪都構想のバージョンアップを掲げて戦いたい』、8月29日、大阪府枚方市の街頭演説で、大阪維新の会代表の橋下徹大阪市長が叫んだ。『都構想が間違っていたことになるんでしょうね』と語った住民投票から3カ月余り。一転して再挑戦を目指す考えを表明した。都構想の旗を再び掲げるのか、降ろすのか―。大阪維新も揺れていた。『我々の原点が否決されたら存在意義はない』『次の旗印を見つけないと』。幹部から弱気な声も漏れていた。都構想待望論を醸成するために目を付けたのが自民党の提案した『大阪戦略調整会議』だった。(略)橋下は大阪維新のメンバーと作戦会議をした。自民が反発する府市の統合案件が議題となれば議論は停滞し、大阪会議は頓挫する―。(略)迎えた初会合。橋下は突然、大阪会議の規約に『都構想の対案』と明記するように要求。自民議員らが反発し、会議は本題に進めなかった。(略)この日を境に、橋下は大阪会議を『ポンコツ会議』と呼んで批判を強め、都構想の再挑戦へ舵を切り始める」(毎日新聞10月23日)

こうした記事を通読すると、残念ながら橋下氏の「大阪都構想再挑戦戦略」は一定の効果を収めていると考えざるを得ないし、その結果が読売調査に表れていると考えるべきだ。反橋下陣営は、今度のダブル選に臨むにあたって橋下府市政の実績(悪行)暴露に重点を置いてきた。それが「真面目に大阪を考える」「まっとうな政治を取り戻す」というスローガンになったのだろう。このスローガンは正道を歩む政治のキーワードとしては正しいが、しかしそれだけでは不十分だと思う。橋下氏が都構想再挑戦を掲げる戦略に出てきた以上、もう一度「バージョンアップされた都構想」を正面から批判するキャンペーンが必要だ。とりわけ、住民投票の洗礼を受けていない大阪市以外の地域でのキャンペーンが重視されなければならないと思う。(つづく)