議会政治を否定してまで大阪都構想にしがみつく「橋下ポピュリズム政治」の末路や如何に、大阪維新の会の「プレ住民投票」はお騒がせと悪あがき以外の何ものでもない、2014年総選挙を分析する(その12)

2014年総選挙の結果が大阪で思わぬ余波を生んでいる。予想外の「善戦」に気をよくしたのか、橋下氏(大阪維新)が前代未聞の大阪都構想の「プレ住民投票」に乗り出したのだ。「プレ住民投票」とは「(大阪都構想を)住民投票で決めるかどうかを決める住民投票」をおこなうもので、具体的には大阪都構想の賛成・反対を「市民自らが決することを求める住民投票条例」の制定を求める直接請求運動のことだ。

 署名を集めるのは「住民が決める大阪の未来委員会」という名の市民団体、12月21日以降、市内各地で「署名ステーション」を設けてプレ住民投票への賛同を呼びかけるという。来年2月10日までに約4万3000人の市内有権者の賛同署名を集めることができれば、橋下市長は市議会に住民投票条例案を提出する予定だ。市長が発意した住民投票を「市民団体」に実行させ(やらせ)、それを市長自身が市議会に提出するというのだから、この「市民団体」はさしずめ橋下氏の私兵集団か大阪維新の翼賛団体といったところだろう。

 そもそも大阪都構想の実現のための住民投票は、大阪府・市両議会で大阪都構想の協定書(制度案)が可決された後に実施されることになっており、そこで大阪市民の賛成多数を得てはじめて大阪都構想が実現する。ところが、この住民投票の前提となる大阪都構想の協定書が大阪府市両議会で10月に否決されたことから、大阪都構想はもはや存在せず、住民投票も必要でなくなった。なのに、橋下氏は「架空の住民投票」を実施するための「プレ住民投票」を実施するというのだから、常識ある大阪市民なら「なんでこんなことをするのか?」との疑問を抑えることができないだろう。

同じようなことは国政の舞台でもあった。安倍政権との関連で言えば、安倍首相は憲法9条を改正(改悪)するため、当初は改正手続きを定めた憲法96条をまず改正してハードルを下げようとした。憲法改正は、衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成を得て国会が発議し、国民投票にかけて過半数の賛成を得なければならないことになっているが、「3分の2条項」を「2分の1条項」に下げて国民投票にかけようと企んだのだ。

しかしこの企ては国民世論の猛反撃を喰らい、安倍政権は憲法96条改正という「明文改憲」の道を当分断念せざるを得ない状況に追い込まれた。その代わり安倍首相が持ち出したのが、内閣法の職権を乱用して集団的自衛権の行使容認を閣議決定するという「解釈改憲」の道だった。国会の討論や発議を回避して閣議決定憲法改正が(自由自在に)できるようになれば、時の政府が思うように政治を操ることができる。これは間違いなく「ファッシズム」への道であり、「専制=独裁政治」への道に他ならない。

橋下氏(大阪維新)の「プレ住民投票」策動は、安倍政権の経験に学んだものだろう。つまり議会制民主主義に基づき法律に照らして行政執行するという首長の責任を放棄し、大衆を扇動して議会の意志や決定を覆そうという「ポピュリズム政治」の手法に打って出たというわけだ。「ポピュリズム政治」が蔓延すれば、議会政治は生命を失う。一独裁者が大衆を扇動して議会決定を覆そうということは事実上の「議会クーデター」といってよく、橋下氏(大阪維新)の「プレ住民投票」策動の行き着く先は、危険極まりない「ハシズム=ファッシズム」への道なのだ。

この事態に大阪市民は如何に対応すべきか。基本的にはこの前の「出直し市長選」のときのように冷静に「無視」すればよいのであって、なにもこんな「お騒がせ」や「悪あがき」の行動に付き合うことはない。「プレ住民投票」策動の本質や狙いを市民に丁寧に説明し、それに乗せられないようなキャンペーン活動や学習活動を展開すればよいのである。

ところが、ひとつ気になることが出てきた。それは「プレ住民投票」に対抗すると称する政治団体府民のちから2015』が、大阪維新側の「市民団体」の旗揚げ日と同じ12月20日に結成されたことだ。マスメディアは「維新vs 反維新 火ぶた、プレ住民投票へ集会×対抗団体結成」(朝日新聞、2014年12月21日)とか、「反維新 いざ冬の陣 維新」(毎日新聞、同)などと面白おかしく囃し立てているが、対抗団体の母体や賛同者をみるとなんだか「キナ臭い」匂いがしてならない。

というのは、政治団体府民のちから2015』は、2011年の大阪市長選で橋下氏に破れた平松前市長の支援団体『元気ネット大阪』を母体に連合大阪などが改変して結成したもので、どうやら来年11月の市長選を睨んでの立ち上げではないかとみられることだ。そうなると、本来は橋下氏(大阪維新)の「プレ住民投票」策動を批判する市民世論が両者の「泥仕合」に巻き込まれ、却って橋下氏の意図するポピュリズム政治の後押しにならないかと私は憂慮する。

もうひとつは、賛同者の中に安倍内閣官房参与の藤井聡氏(京大工学部土木工学科教授)の名前があることだ。藤井氏はいうまでもなく安倍政権の成長戦略「国土強靭化計画」の旗振り役として起用され、ゼネコンの代弁者として大活躍している人物である。その御仁がなぜ「府民のちから」の賛同者として登場するのか、まったく訳がわからない。折角、橋下氏(大阪維新)を土俵際まで追い詰めてきた大阪市民の輪が、このような政治的思惑の渦中に投げ込まれて分断されないようにと祈るばかりである。(つづく)