「大阪都構想」はなぜ生き続けるのか、大阪ダブル選挙が「東京対大阪」の対決構図にすり替えられるおそれ、「阪神タイガース王国・大阪」を「橋下王国・大阪」に絡めとろうとする大阪維新の選挙戦略、大阪ダブル選挙の行方を考える(その3)

10月19日発表の読売世論調査に引き続き、26日に毎日新聞共同通信等との共同調査)、27日には朝日新聞世論調査が発表された。ほぼ1週間を挟んでの大阪府世論調査なので、選挙戦直前の大阪府民の政治意識をだいたい把握することができる。私がこれらの世論調査から得た結論は2つ。ひとつは維新の党の分裂泥仕合にもかかわらず橋下氏の影響力が依然として薄れていないこと、もうひとつは死んだはずの「大阪都構想」が府民の間に根強く生き続けていることだ。これを毎日・朝日両調査の結果で見よう。

まず維新の党の分裂を巡る橋下氏の対応については、「評価しない」47%、「評価する」33%と「評価しない」が一応上回ったが(朝日)、驚いたことにはそれが橋下氏個人や橋下政治に対する評価にほとんど影響を与えていないのだ。橋下市政・松井府政に対する評価は「評価する」63%,「評価しない」28%と評価する声が極めて高く(毎日)、橋下市長へは「支持する」48%、「支持しない」33%、松井知事へも「支持する」44%、「支持しない」30%(朝日)と支持が不支持を大きく上回っているのである。

 また「大阪都構想」に関しては、すでに住民投票で否決されているにもかかわらず依然として「賛成」47%、「反対」33%と賛成意見が多く(朝日)、今回のダブル選で大阪維新が「大阪都構想」を再び選挙公約に掲げることに「納得できる」48%、「納得できない」37%(朝日)、「理解できる」47%、「理解できない」44%(毎日)とこれまた理解を示す方が多数意見なのだ。

政界引退表明している橋下氏の将来についても、「政界に復帰してほしい」49%、「復帰してほしくない」35%(朝日)、「国会議員や知事・市長になってほしい」60%、「政界を引退してほしい」34%(毎日)と復帰期待派が多数を占めている。大阪を滅茶苦茶に壊してきた張本人である橋下氏がなぜこれほどの人気と期待を集めるのか、私はその中に大阪人の捨てきれない「大阪王国」願望をみる。天下の台所として東京を凌駕するほどの大阪をもう一度取り戻したい、大阪を日本の冠たる王国として再び輝かせたい――、こんな大阪人の捨てきれない(諦め切れない)願望が大阪維新の「大阪都構想」と二重写しになり、橋下氏らへの期待を集めていると考えるのである。

 今回の維新分裂劇においても、橋下氏は「分党」協議が頓挫するに及んで政党交付金を返納して新党結成に踏み切るという「一か八か」の勝負に出た。理由は2つある。ひとつは新党結成が「金絡みの泥仕合」にまみれることを回避してイメージ低下を防ぐこと、もうひとつは維新執行部との対決を演出して大阪ダブル選に弾みをつけることだ。毎日新聞はその背景を次のように分析している(10月25日)。
 ―「大阪の皆さんは、東京に言われっぱなしではなく、やり返すのを応援してくれる。永田町のへなちょこ(ヘナチョコ)国会議員約30人にやられていたら、東京の一極集中是正や地方分権はできない」。橋下氏は23日、記者団にこう語り、執行部との対立を「東京対大阪」の対決構図にすり替えてみせた―。

 読売新聞や産経新聞も同様の見方をしている。「橋下氏の狙いは『対決構図をあおる得意の手法』(大阪系議員)で、新党『おおさか維新の会』の結党や11月22日投開票の大阪府知事大阪市長のダブル選へ弾みをつけることにある」(読売10月25日)。「一連の分裂騒動による橋下徹氏らの言動について、自民党府連関係者は『ダブル選の資金がほしかったがうまくいかなかった。このまま問題を引きずると、選挙戦で命取りになりかねないと考え、収拾に躍起になっているのだろう』と推察。『自分たちは金にこだわらないというクリーンなイメージにして終わらせようと、パフォーマンスをやっているだけだ』と突き放した」(産経10月25日)などなど。

これらの分析はいずれも橋下氏らが「対決構図」を煽ろうとしている点では一致しているが、問題はそれがどんな「対決構図」になるかということだ。この点では上記の毎日新聞が指摘するように、橋下氏の本当の狙いは、自らの野心のために仕掛けた維新分裂を「東京対大阪」の対決構図にすり替えることにあるとみてよいだろう。この戦術は大阪人の中に潜んでいる「大阪王国」願望をくすぐり、劣等感の裏返しである東京への対抗心を逆利用してダブル選に勝利し「橋下王国」の結成に結び付けようとするものだ。朝日新聞のインビュー(10月15日)で、橋下氏は次のように答えている。
【問】:国政政党「おおさか維新の会」結成はダブル選挙を意識したものか。
【橋下氏】:いびつな東京一極集中の是正には、まず法律で大阪を副首都と位置づけなければダメ。省庁分散や国の予算措置、リニア実現には大阪都庁という強力な行政機構に加え、それらを牽引する強力な政治集団が必要だ。

ここではかって大阪府市の「二重行政の解消」のためと称して打ち出したローカルな「大阪都構想」が、いつの間にか「東京一極集中是正」「大阪副首都化」のための手段に塗り替えられている。そして国際競争に勝ち抜く「大阪副首都化=大阪王国」の実現のためには、「大阪都庁」という強力な行政機構と「おおさか維新の会」という強力な政治集団が必要だというグローバルな「橋下シナリオ」が展開されているのである。

この「橋下シナリオ」には、実は第1幕と第2幕がある。第1幕は、住民投票後に橋下市長が突如「引退」表明を行い、これまで7年余りの大阪府市政の悪行をすべて「リセット」(ご破算)にしようと大芝居を打った時のことだ。住民投票で否決された「大阪都構想」をいったん手仕舞いして矛を収め、「去る者は追わず」の庶民心理を利用して巧みに批判をかわし、敗北の鎮静化を図った。そして今度が第2幕である。今度は色褪せた「大阪都構想」をバージョンアップしてお化粧し直し、橋下新党のデビューを兼ねて「大阪副首都化=大阪王国」実現の旗印に染め直した。こうなると大阪人は弱い。橋下氏らが悪行の限りを尽くしてきたことをつい忘れて目先の色鮮やかな大籏に目を奪われてしまう。そしていつの間にか橋下氏を「大阪副首都化=大阪王国」の旗手として期待をかけるようになるのである。

「橋下シナリオ」は、橋下氏が新党結成を街頭演説でぶち上げた8月末の大阪府枚方市長選ですでに実験済みだ。投票日直前までお話にならなかった維新候補が橋下演説で突如息を吹き返し、現職候補を僅差で破るという大番狂わせを演じた。この時から橋下氏は「東京対大阪」の対決構図で維新分裂を主導し、新党結成で大阪ダブル選を戦うことを決意したに違いない。またこの「橋下シナリオ」はどこか大阪人の心情に訴えるものがあり、「巨人対阪神」の対決に熱狂する阪神フアンの気持ちにも通じるものがある。大阪人は阪神タイガースが「ダメトラ」と言われようと何と言われようと、とにかく阪神タイガースをまるごと愛してやまない人が多い。阪神がボロ負けしようとエラーをしようと、最後まで「六甲降ろし」を歌って健気に選手を励ますのが生粋の阪神フアンなのだ。こんな阪神フアンの気持ちをすくい取り、「阪神タイガース王国・大阪」を「橋下王国・大阪」に絡めとろうとする「橋下シナリオ」に要注意だ。

 今年5月の大阪都構想住民投票で訴えた「二重行政の解消」といった古ぼけたスローガンはもはや霞んでいる。一度は死んだはずの大阪都構想が「東京一極集中是正」「大阪の副首都化」を実現するためと称して「東京対大阪」の対決スローガンにバージョンアップ(格上げ)され、大阪人の前に再デビューしている。大阪を棚に上げて大阪を制する―、これが大阪ダブル選を戦う「橋下シナリオ」なのであり、私たちはその対抗シナリオを立てなければならない。(つづく)