日本維新の会の分裂で橋下派はどうなる、地元大阪で渦巻く歓迎と不安、維新と野党再編の行方をめぐって(その16)

 日本維新の会の分裂は、石原氏が仕掛けたという説と橋下氏が仕掛けたという説の両方がある。これまで私は、どちらかというと両氏の対立を橋下側から見ていた。というのも、橋下氏は2015年春の統一地方選大阪維新の会が存続できるかどうかの崖淵に立たされており、その危機を乗り切るためには結いと合流して党のイメージを一新して選挙戦に臨まなければならない、という切羽詰った事情があるからだ。

 そうでなくても、最近の橋下市長の威信は地(の底)に堕ちている。5月27日の大阪市議会本会議では、橋下氏肝煎りの補正予算が野党会派の反対で軒並み否決あるいは減額修正された。否決されたのは、住吉医療センター整備費5億8500万円、大阪都構想法定協議会運営費1億600万円、民間公募校長研修費2800万円、近現代史教育施設関連費2000万円、減額修正されたのは水道事業民営化調査委託費3500万円(8300万円→4800万円)である(各紙、2014年5月28日)。

 否決されたのは補正予算案だけではない。市立幼稚園14園の民営化・廃園に関する条例案も昨年11月に引き続いて再否決され、また新たに「校長を原則公募で選ぶ」と定めている市立学校活性化条例を「公募できる」に変更する案も賛成多数で可決された(その後、市長の再議権行使で賛成は3分の2に達せず否決され現行制度が維持された)。こんな有様を一部始終目の当たりにした市関係者の知人は、「もう市長も維新もボロボロでっせ!」とのメールをわざわざ送ってくれた。

 3年前のあの熱狂的な首長ダブル選挙を経験している人たちにとっては、現在のこんな状況は想像だにできないだろうと思う。当時は眩しいばかりの橋下市長の顔が連日テレビ画面に溢れ、その一挙一動が茶の間に瞬時に伝えられて大阪中が「橋下一色」に染まっていたからだ。だが最近では、ときたま伝えられるニュースでも「橋下色、後退止まらず」「橋下市政、曲がり角」「橋下市長、苦境」といった暗いものばかりで、まるで天と地がひっくり返ったような有様だ。これでは、いくら自信過剰の橋下氏も焦らない方がおかしいというべきだろう。

 今回の維新分裂は、地元大阪にあっては歓迎と不安の両面があると各紙が伝えている。維新・みんな大阪府議団の青野代表は、分裂は「(橋下氏を中心とする)維新の原点に戻り、府民、市民に分かりやすくなる。統一選に向け都構想の実現に集中できる」と歓迎する(読売新聞、2014年5月29日)。また大阪府市特別顧問の古賀氏も「石原氏と分かれたのは良いことだ。野合以外の何ものでもなかった。橋下氏の強みは大衆の支持。純粋な大阪維新に戻ると有権者に期待感が出る。離れていた支持層が戻る可能性がある」と判断している(毎日新聞、5月30日)。

 一方、逆の見方も多い。同じ維新の府議・市議の間でも、「統一地方選の前に急に政党の枠組みが変わると有権者に説明がつかない」とか、「まだ幹部から連絡がない。維新の名前は残るのか」とかいった先行き不安の声が聞こえてくる(日経新聞、5月29日)。またジャーナリストの中にも、「結いの党と一緒になっても統一選を有利に進められるとは考えにくい。連携相手を取っ換え引っ換えする橋下氏は無節操だと判断されても仕方がない」との声がある(読売新聞、5月30日)。

 私はこれまで維新の地元議員に直接話を聞く機会がほとんどなかったので、維新と結いの合流(合併)問題をもっぱら国政レベルの視点から分析してきた。しかし統一地方選を戦うのは彼ら自身であり、有権者の意見が最も直接的に反映するのも地元議員である。その意味で、各紙が今回の分裂について維新府議・市議の多様な声を探った記事には学ぶべき点が多かった。結論的に言えば、地元議員の間では「大阪維新の会」の名で「大阪都構想」の実現のために戦うべきだとする“地域政党”の原点に立ち戻る意見が一番多かったのである。

 このような視点からすれば、国政政党への進出を急ぐあまり旧太陽と野合したツケはあまりにも大きく、そのことが石原氏との間のゴタゴタに維新のエネルギーのほとんどを費やす原因となり、結果として地域政党としての大阪維新の会の存在意義を失うことになったといえるだろう。大阪市の某幹部職員が大分以前に、「橋下維新の致命的誤りは国政選挙に打って出たこと、橋下氏が知事から市長に移ってきたことの2つだ」と私に言ったことがある。その言葉通り、橋下氏は国政で石原氏に体よく利用された挙句捨てられ、地元大阪では「大阪都構想」の具体化に何ひとつ着手できないという四面楚歌の窮状に陥ったのである。

 この窮状の一端を探った興味深い記事がある。それは「維新地元、分派の動き」と題する朝日新聞記事(5月31日)だ。同記事はリードで「日本維新の会の橋下共同代表(大阪市長)は党の分裂を決断したが、おひざ元の大阪でも『分派』の動きが出ている。大阪市議会の維新会派は、議会運営をめぐって内部対立が勃発。維新の存在意義である大阪都構想の実現が見通せず、議員の不満が噴出したためだ」と解説し、分派行動の動きを詳細に伝えている。次回は、その経緯をめぐって維新のこれからを考えよう。(つづく)