大阪ダブル選の終盤戦模様は、大阪維新の優勢が伝えられているにもかかわらず演説内容の空虚さが目立った、大阪都構想も個別政策も語らずただひたすらに「公務員・議会攻撃」に終始する松井・吉村・橋下3氏の街頭演説はもはや聴衆を引き付ける力を失っている、大阪ダブル選挙の行方を考える(その8)

 大阪ダブル選がいよいよ終盤戦に差し掛かかった11月14日(土)午後、大阪市内で行われている維新・反維新両陣営の選挙演説を聞きに行った。ひとつは柳本・栗原両候補の応援に来た谷垣自民党幹事長らのなんば高島屋前の自民党街頭演説、もうひとつは心斎橋に近いアメリカ村の公園前で行われた大阪維新の松井・吉村・橋下3氏の街頭演説だ。この日はあいにく雨で聴衆は両方とも少なかったが、それでも両陣営の選挙作戦の違いや聴衆の雰囲気の差を感じることはできた。

 選挙戦の序盤や個人演説会などに比べて、終盤戦の街頭演説は両陣営の力点がどこにあるかを分析する上で分かりやすい。選挙期間中の有権者の反応を見てどこに力点を置けば勝てるかを分析し、配布するビラや演説内容も次第に絞られていくからだ。大阪維新の松井・吉村・橋下3氏の街頭演説の内容とそこで配られた選挙ビラを紹介しよう。

 まず驚いたのは、この日が土曜日だということもあるが、知事候補の松井氏が(地元八尾市での個人演説会1回を除いて)市長候補の吉村氏と1日中行動を共にしていることだ。橋下氏はもちろん大阪市内に張り付いていて、それ以外の場所に出かけることは滅多にないというから、大阪維新がいかに市長選を重視しているかがわかる。前半の各紙世論調査で松井氏が優勢、吉村氏は接戦という結果が出たので、松井氏は府下の市町村はそっちのけにして大阪市内の吉村応援に集中しているのである。しかしこのことは、たとえ松井氏が勝っても吉村氏が負ければ「大阪都構想」は完全消滅するので、大阪維新が「崖際」まで追い詰められていることの裏返しでもある。

 11月14日の維新側の演説スケジュールを見ると、大阪市内では朝11時の街頭演説から始まり、夜8時からの個人演説会まで計13回の演説が予定されている。場所によって松井・吉村・橋下3氏の分担が決められているらしく、吉村氏の単独演説は1回だけであとは全て松井・橋下氏の応援を受けてのものだ。内訳は、吉村・松井両氏の演説が3回、松井・吉村・橋下3氏の演説が4回というもので、知事・市長選を「ダブル」で勝たなければならない大阪維新の作戦を反映している。

 だが注目すべきは、橋下氏の単独演説が市内一円で5回も行われていることだろう。橋下氏が「自分の選挙以上にやる」と言ったように、候補者そこのけで大阪市内、それも都構想住民投票で負けた地域を中心に駆け回っているのである。吉村候補と同行すればいいのではなく、橋下人気で独自に吉村票を稼ごうという作戦なのだ。事実、吉村氏単独ではほとんど聴衆が集まらないが、橋下氏が来ると単独でも結構人が集まるのだという。橋下人気がまだまだ衰えていないことを実感した。

 本題に戻って演説内容と選挙ビラを見よう。まずビラの内容だが、メインタイトルは「過去に戻すか、前に進めるか」、サブタイトルは「既得権にまみれた過去のなれ合い政治‥‥自民・共産・民主相乗り候補にNO!を」というもので、ここには選挙前にあれほど強調していた「大阪の副首都化」も「バージョンアップされた大阪都構想」も何一つ書かれていない。また大阪維新が何をするのかという個別政策もどこにも書かれていない。書かれているのは「ひどかった過去の大阪」と「維新の実績」だけだ。

 「ひどかった過去の大阪」は、(1)税金のムダ遣いは1・5兆円、(2)大阪市役所は役人天国、(3)大阪市の財政は破綻寸前、(4)自らには甘い大阪市会議員の体質の4点が挙げられ、これに対応する「維新の実績」として、(1)住民サービスへの重点投資、(2)公務員改革で役所組織を適正化、(3)まずは市長自らが身を切る改革、(4)数々の改革で財政を健全化の4点が挙げられている。これがメインタイトルの「過去に戻すか=ひどかった過去の大阪」、「前に進めるか=維新の実績」の内容だ。

 サブタイトルの「既得権にまみれた過去のなれ合い政治‥‥自民・共産・民主相乗り候補にNO!を」の具体的内容は、「ハコモノ行政の自民党政治」「職員労働組合から支援を受ける民主党政治」「税金バラマキの共産党政治」が3点セットで列挙され、最後に「身を切ることができない既存政治家」で結ばれている。ここには「既得権にまみれた既存政治家」として公明党が一言も触れられていないところをみると、公明党大阪維新と同じく大阪を前に進める「改革勢力」との位置づけなのだろう。

 選挙ビラの解説はこれぐらいにして、松井・吉村・橋下3氏の街頭演説についての私の印象を簡単に述べよう。一言でいうと、これは公務員と議員を敵に祭り上げて「既得権勢力」として攻撃し、自らは「改革勢力」として演出した「過去劇」の再上演にすぎないというものだ。3氏のセリフも使い古しの台本そのままの引き写しで、聞き慣れた慣用句の羅列ばかりだった。これではかっての「改革イメージ」で大阪維新を見ていた有権者は、演説を聞けば聞くほど彼らから離れていくのではないか。選挙前の世論調査が今後どのように変化していくか、次の世論調査が待たれる。

 ただ興味をひかれたことは、街頭演説が若者の集まるアメリカ村だった所為か、3氏が幾度も「若者は選挙に行こう」と呼びかけたことだ。橋下氏などは「国会前でいくらドラムを叩いてデモをしても世の中は変わらない。変るのは選挙の一票だけだ」という始末。要するに「選挙で投票さえしてくれればいい」「あとは政治家に任せて遊んでいればいい」と言わんばかりの演説だった。また「若者が選挙に行かないと政治が老人向きになる。若者が高齢者の犠牲になる」と世代対立を煽ったことも印象的だった。

 思うに高齢者を中心に橋下政治への疑問が高まり(理解が進み)、支持率が低下していることへの危機案があるのだろう。だから「若い候補者」と「若い有権者」の親密さを強調して若者の投票率を上げようと必死になっているのである。私は演説を聞きに来た人たちの様子を観察していたが、アメリカ村なのに意外に若者の姿が少なかった。熱烈に拍手していたのは橋下氏の「追っかけ隊」らしき中年のオバサンたちで、若者は結構冷めていた。(つづく)

●谷垣自民党幹事長の演説は次回に紹介します。