「橋下対決型市政」から「吉村対話型市政」への転換は本物か、協調型手法で公明・自民を取り込む「維新翼賛体制」の可能性も否定できない、橋下引退後の「おおさか維新」はどうなる(最終回)

 それでは橋下引退後の大阪市政は今後どう展開するのであろうか。橋下氏の市長引退に際しては各紙から様々な評価が寄せられているが、共通するのは「破壊のエクスタシー」とも称される橋下氏の敵対勢力への激しい攻撃性だ。例えば、読売新聞は次のように解説する。

 ―橋下徹大阪市長は18日の任期満了に伴い、政界を引退した。「大阪から日本を変える」をキャッチフレーズに、地方発の国政政党を率いて新風を巻き起こし、地方分権改革の機運を高める火付け役にもなった。ただ、対立構図をあおって注目を集める独特の手法は、反発と離反も招き、非自民・非民主を目指す第3極の失速につながった。(略)橋下氏の真骨頂は、敵対勢力を激しく批判する劇場型の政治手法だ。舌鋒鋭い発信力は一定に支持を集めたが、反面、根深い対立も生んだ。(略)身内だった維新の党を「偽物」呼ばわりするなど、対話よりも対決姿勢で突き進むやり方に嫌気がさし、たもとを分かった議員も少なくない(2015年12月19日)。

 ところが12月18日に任期満了を迎えた橋下大阪市長の口からは一転して、これまでの言動とは真逆の(信じられないような)発言が相次いでいる。「臨機応変=豹変」を政治信条とする橋下氏のこと、にわかには信じ難いがとにかくその言い分を聞いてみよう。

 ―(12月12日の「おおさか維新の会」代表の退任あいさつ)、「僕が知事に就いたときは時には大阪は破壊的改革が必要だった」とし、「破壊の後には再構築が必要。敵をつくりながら改革をやるところから、対話をしながらやっていくステージに入る」と指摘。「とにかく実行して結果を残し、選挙で評価してもらうのが維新政治の本質」と強調した(日経新聞2015年12月13日)。
 
 ―(12月17日の市議会本会議での市長退任あいさつ)、自身が議会とたびたび対立してきたことを踏まえ、「新市長の下では(互いに)攻撃的な主張は控え、修正や妥協で一致点を探って少しでも大阪を前に進めてほしい」と要望した(読売新聞12月18日)。

私はこの発言の中に、「第1ステージ=橋下市政」から「第2ステージ=吉村市政」に移行する大阪ダブル選後の維新戦略(橋下院政)が明確に出ていると思う。有体に言えば、府市両議会で維新が多数派を形成していないにもかかわらず、橋下氏個人の突破力で強行してきたこれまでの専制政治を(力量不足の)吉村新市長の下では継続できないので、今後は公明・自民を取り込んで議会多数派を形成し、維新主導の「オール与党=翼賛体制」をつくっていくということだ。

戦略転換の目的は、言うまでもなく吉村市長の任期中に「大阪都構想(改訂版)」住民投票を成功させることだ。このためにはまず公明党を翻意させ、与党入りさせなければならない。維新と公明が手を組めば府市両議会で多数派形成が可能になり、後は黙っていても「自民(民主)は付いてくる」という算段だろう。こうなるとこれまでの「オール大阪」体制は跡形もなく消え、代わって「オール与党」体制が出現することになる。地元保守の「大阪自民」が国家保守の「おおさか維新」に吸収されることで、大阪は首相官邸の「直轄地」になる。橋下院政の下で大阪は来夏参院選(あるいは衆参同時選)以降に成立が予想される「自公お改憲政権」のモデル地域となり、そこで様々な先行実験が行われるだろう。

大阪ダブル選後のマスメディアの変わり身は早い。吉村新市長へのなりふり構わないエールが山積み状態となり、それを象徴するのが吉村新市長の登庁記事だ。これらの記事を読めば、吉村新市長の就任を契機に大阪市政がこれまでの「対決型」から「対話型」へ変わるような印象を受ける。吉村市政への移行とともに橋下・松井8年間の失政が全てリセットされ、橋下流政治が肯定・継続される空気が意識的に作り出されてきている。以下は、登庁記事の典型的な見出しである。

―吉村市長は協調型、トップダウンの橋下氏とは対照的、大阪新市政始動、市議会他会派も好意的、橋下氏なお党内に影響力(産経新聞2015年12月19日)
―初登庁、吉村市政 穏やかな船出、都構想 問われる推進力、「話し合い路線」未知数(読売新聞12月21日)
―吉村新市長「改革へ対話」、大阪都構想住民投票 任期中に、初登庁で決意表明(日経新聞12月21日)

吉村市長は当選直後に公明市議団控室を訪れてあいさつし、21日の初登庁の就任あいさつでも最初に公明市議団を訪れた。吉村氏は「(民意を代表する市長と議員の)二元代表制が機能するよう議論したい」と公明の意向を尊重する姿勢を強調し、「(与党の)維新にも、対立ではなく議論を進めてほしいと話した」と明かしたという。これに対して公明市議団団長も「私たちが一歩踏み出さなければならないこともあるかもしれない」と語り、議会と対立する場面が多かった橋下徹市政からの転換を歓迎した(産経新聞12月22日)。

吉村市長は12月25日の市議会本会議での施政方針演説で、「全ての子どもが等しく教育、医療を受けられる無償化都市を目指す」と宣言し、5歳児の幼稚園・保育所の保育料を2016年度から無償化する方針を発表した。17年度以降は対象年齢を拡大し、任期中に3、4歳児も無償とする考えだという(毎日新聞12月26日)。橋下府政時代の私立高校授業料無償化に引き続く大胆な施策を打ち出すことで、「吉村新市政」のイメージアップを図る算段だろう。

 大阪ダブル選での維新圧勝を契機に世論の節目が変わり、大阪府民の意識が大きく変化(リセット)していることに私たちはもっと敏感であるべきだ。朝日新聞社が実施した大阪府民への世論調査(郵送方式)によると、11月の大阪ダブル選で当選した松井知事・吉村大阪市長が「大阪都構想」の実現を再び目指す方針に対して「賛成」は63%に達し、「反対」は29%にとどまった。都構想が住民投票で否決された大阪市でも「賛成」59%が「反対」32%を上回った。橋下氏の評価についても、府知事・市長としての実績を「大いに評価する」28%、「ある程度評価する」50%で「あまり評価しない」13%、「まったく評価しない」7%を大きく上回った(朝日新聞12月24日)。

 「オール大阪」体制を支えてきた革新陣営は、いま橋下氏の引退にともない、8年間に亘って築き上げてきた維新戦略の再構築を求められている。しかし京都の岡目八目子である私には、その後の大阪の情勢がいっこうに伝わって来ない。大阪ダブル選は大阪はもとより全国的関心を集めた首長選挙であるだけに、「内部だけの総括」では済まされない性格を持っている。総括をあいまいにして今後の戦略再構築に関する議論を放置すれば、維新の「第2ステージ」には到底対抗できず、革新陣営の孤立化は避けられない。都構想に反対し、反維新候補のために奮闘した府民・市民の間で総討論の輪を広げ、維新の「第2ステージ」に対抗する新戦略を生み出してほしい。

●今日12月28日は、役所で言えば「御用納め」の日です。拙ブログも今年は一応これで終わりにします。冗長な文章を辛抱強く読んでいただいた読者諸兄に感謝し、コメントをお寄せいただいた諸氏にお礼を申し上げます。来春は1月中旬に再開するつもりですが、コメントに関しては随時掲載するつもりですのでどうか遠慮なくご意見、ご批判をお寄せください。新年が皆様にとって良いお年でありますように。広原 拝