憂鬱な2016年の夜明け、新年早々から安倍首相の表情は猛々しい、このまま「改憲最短コース」を突っ走るのか、それともどこかで躓くのか、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その1)

 2016年の新年は元旦から透き通るような晴天に恵まれた。それも1日や2日のことではない。毎日が春のように温かく、穏やかな日が続いた。私は人が混み合う神社を避けて(近くの伏見稲荷神社などはごった返していて歩けないほどの大混雑)、いつものように静かな雰囲気の唐招提寺法隆寺に初詣に行った。法隆寺の近くには斑鳩神社という法隆寺の守り神がある。そこにもハシゴして地元の人たちと一緒にお参りした。お屠蘇をいただき、おみくじも引いた。おみくじは「末吉」で「時が来れば幸せになる、そのときまで待つように」と書いてあった。その通りだと思うが、何だか心はいっこうに晴れない。神社の太鼓を力いっぱい打って気晴らをした。

 新春早々から否が応でも安倍首相の顔を見ることになる。テレビでは表情がよくわかるので、彼がどんなことを考えているかが手に取るように分かるのだ。4日から始まった国会演説や答弁を見ても、顔も声も猛々しいというか傲慢というか持ち前の品性がそのまま表れていて、このままいくと大変なことになりかねないという気持ちに襲われた。毎日の新聞を読んでも首相発言は強気一点張りで、それも国民世論をまるでリードしているかのようなトーンに溢れている。「安倍サンは目下絶好調!」と言わんばかりの空気なのだ。

 こんな安倍首相の言動を見ていると、今さらのごとく大阪ダブル選で敗れたことの影響の大きさに自覚せざるを得ない。振り返ってみれば、大阪ダブル選は「安倍代理選挙」だったと言ってもいい。橋下氏など大阪維新が安倍首相の事実上の代理として選挙戦を制し、改憲コースへの道を一気に開いたのである。安倍首相とのスリーショットを撮った自民推薦候補が完敗したのは、もはや「パロディ」と言うしかない。官邸自作自演の「だまし絵」に大阪自民がすっぽりとはまり、そこから抜け出せなくなって完敗したのである。

 一方、「だまし絵」だとわかりながらダブル選を戦った共産党などリベラル陣営も大きな傷を負った。自戒して言うが(私も含めて)橋下氏の動きに目を奪われ、背後の首相官邸の動きに対する注意が足りなかったと思う。「橋下(特殊)危険論」に目を奪われ、「安倍・橋下連携プレー」に対する警戒心が薄れていたのである。これはあくまでも結果論であるが、橋下氏が安倍政権の代理人として大阪ダブル選に臨んでいるという認識に立てば、もっと別の選挙戦略があったのかもしれないし、反維新候補の立て方も支援方法も別の選択肢があったのかもしれない。

 当然のことながら、「済んでしまったことはもう仕方がない」としてこのまま済ますわけにはいかないだろう。私は毎月連載している『ねっとわーく京都』(京都のローカル誌)のコラムで、「安倍自民に屈した大阪自民―都構想住民投票『オール大阪』はなぜ崩れたのか―」(2016年1月号)、「大阪ダブル選はなぜ敗北したのか―『ポストオール大阪』の戦略構築が急務だ―」(同2月号)と総括絡みのコラムを2回書いた。またこの分析を材料の一端にして、近く大阪市役所ОBたちと議論することも予定している。

だが、大阪ダブル選の総括は途上に就いたばかりで、まだ明確な方向が出されていない。ダブル選に参加した人たちがみんなでキチンと議論しないと、これからの安倍戦略には対抗できないことをもっと深く認識すべきだろう。すでに大阪自民は「共産党と手を組んだことが最大の敗因」と明確に総括しているのだから、共産党の方もはっきりした総括をするべきだ。それがダブル選を戦った政党としての有権者に対する責務であり、責任政党としての身の処し方だろう。ダブル選の責任者たちは責任ある態度を身を以て示してほしい。

 大阪ダブル選の圧勝によって、安倍首相は「改憲最短コース」の道を選択したことはほぼ間違いない。安倍晋三首相は1月4日午前、首相官邸で年頭にあたって記者会見し、今夏の参院選の獲得議席目標について「自民、公明両党で過半数を確保したい」と表明した。ここまでは通常通りの発言で、それほど目新しいことはない。ただ今年の内政・外交運営は「挑戦、挑戦、そして挑戦あるのみ。未来へと果敢に挑戦する1年にする」と20数回も「挑戦」連呼したところを見ると、相当前のめりになっていることは確かだろう。

ところが1月10日のNHK番組では、夏の参院選について、自民、公明両党だけでなく「おおさか維新の会」など一部野党も含めた改憲勢力憲法改正の国会発議に必要な参院の3分の2議席を目指す考えに早くも修正した。首相は4日の年頭記者会見で参院選では憲法改正を訴えると発言したが、具体的にどのような政党の枠組みで改憲を目指すかには言及していなかった。自民・公明の与党で過半数を制したとしても改憲議席3分の2には届かない。改憲に必要な3分の2議席を確保するためには、「責任野党」と言う名の補完勢力が必要なのだ。

私はこの発言で安倍首相の意図がはっきりしたと思う。自民、公明、おおさか維新の3党で「改憲最短コース」を選択することに舵を切ったのである。大阪ダブル選はそのための前哨戦であり、橋下氏らは「安倍代理選挙」を戦ったのである。となると、参院選はともかく衆参ダブル選が日程に上がる。橋下氏らを存分に働かせるには参院シングル選よりも衆参ダブル選の方が効果的だからだ。安倍首相の眼中にはもはや公明党の存在など無きに等しい。消費税10%増税の際に軽減税率分1兆円も大盤振る舞いをしたのだから、「彼らは黙ってでも付いてくる」と言うわけだ。(つづく)