日本世論調査会の「参院選全国面接世論調査」(2015年12月5,6日実施)の結果に驚いた、参院選で改憲議席が3分の2以上占めることへの賛成意見が過半数を占めているではないか、2016年参院選(衆参ダブル選)を迎えて(その2)

全国の地方紙などが加盟する日本世論調査会が、昨年12月5、6両日に行った2016年夏の参院選に関する全国面接世論調査の結果が年明けに発表された(京都新聞、2016年1月5日)。通常、新聞社などマスメディアの世論調査は「RDD方式」(ランダムに電話をかけて質問を読み上げ、回答を選択させる方式)で行われるが、今回の世論調査は調査員が直接面接して回答してもらう方式なので、調査精度はより高いと言える。調査対象者の抽出は、全国有権者の縮図になるように250地点から20歳以上の男女3千人を選び、会えなかった人を除く1698人から回答を得た。回収率は57%である。

そのなかで全13問中8番目の質問が「現在、衆院では憲法改正を掲げる議員が3分の2以上を占めています。実際に憲法改正を発議するには衆院参院それぞれで3分の2の賛成が必要です。あなたは参院参院選の結果を受けてどうなるのがよいと思いますか」という内容だった。驚いたのは、回答が「憲法改正に賛成する議員が3分の2以上を占めた方がよい」57%、「3分の2以上に達しない方がよい」33%、「分からない・無回答」11%となり、6割近い回答者が改憲議席が3分の2を超えることを望んでいるとの結果が出たことだ。

念のため昨年末の各種世論調査を調べてみたが、この種の質問と回答は類例がなく比較することができなかった。これまで改憲をめぐる世論状況は「反対」が優勢で、しかも改憲勢力が「3分の2以上」の議席を占めることには「圧倒的反対」が多いものとばかり思い込んでいた私は、この意外な結果に驚くとともに衝撃を受けた。権威のある調査機関だからまさか間違はないと思うが、発表されたのは数字だけで分析がないので納得できないのである。いったいこの数字をどう読めばいいのか、手掛かりがないままに少しばかり考えてみた。以下はその仮説的推論である。

まず第8問の前の第6問に「国会は今、衆参両院で与党が多数を占めています。あなたは参院選後、参院与野党の勢力はどうなるのがよいと思いますか」との質問がある。その回答は「与党が引き続き参院過半数を占める方がよい」30%、「与党と野党の勢力が伯仲する方がよい」54%、「野党が参院で多数を占める方がよい」8%、「分からない・無回答」8%となり、これまでの傾向とそれほど変わらない。要するにこの回答からは、自公与党だけで暴走するのではなく、与野党伯仲の下でバランスの取れた国会運営をすべきとの声が読み取れる。

これを受けた第7問は、「あなたは、参院選に向けて野党はどうしたらよいと思いますか」というもので、回答は「いくつかの党が一つの党にまとまるべきだ」35%、「選挙協力を進めるべきだ」39%、「それぞれ単独で戦うべきだ」19%、「分からない・無回答」7%となって、与野党伯仲の情勢を作り出すために野党は何らかの形で協力関係を結ぶべきとの声が明確に出ている。野党勢力の伸長で「自民1強体制」「安倍1強体制」を牽制しなければならないというのが世論の大勢なのである。

ところが第8問にきて、いきなり「憲法改正に賛成する議員が3分の2以上を占めた方がよい」57%となるのだから、前後の脈絡からしても全く理解できない。あえてその原因を考えるとしたら、第6問、第7問は「政党」が主語であるのに対して、第8問は「議員」が主語になっていることぐらいだ。言い換えれば、政党レベルでは自公与党のチエックは必要だが、個々の議員レベルでは「改憲派憲法改正発議に必要な3分の2以上になっても構わない」ということであろうか。

だが、この分析にはかなりの無理がある。憲法改正のような立憲主義の土台に関わる大問題に対して、政党が党議拘束をかけないで個々の議員に憲法改正の判断を委ねるなんてことはあり得ない。だから「議員」を主語にした質問を作ること自体がナンセンスであり、調査機関がどうしてこんな質問を作ったのかが問われることになる。

だが深読みすると、このような質問の背景には憲法改正問題に関してはもはや「与党」「野党」のカテゴリーが流動化しており、従来の与野党の枠組みを前提にして質問しても正確な回答が期待できないという背景があるのではないか。例えば、「おおさか維新」は与党なのか野党なのかということが国会質問の持ち時間を巡って話題になったし、同じようなことは民主党内部でも起こっている。護憲グループと改憲グループが同一政党のなかに併存しているのだから、こと憲法改正問題に関しては政党単位で国民が判断できなくなっているとの読みがあるのかもしれない。

さはさりながら、たとえ議員単位にしても「憲法改正に賛成する議員が3分の2以上を占めた方がよい」が57%にも達することは、私の想像をはるかに超えている。この数字は国民世論に新しい変化が現れたことを示すものか、それとも単なる質問のミスリードの結果なのか、他の世論調査機関でも検証してほしい。

理研の「スタップ細胞」事件では、その真偽をめぐって膨大な追試が行われた。今年夏の参院選を控えた今回の日本世論調査会の世論調査は、(私個人としては)それにも匹敵する大事件だと考えている。読者諸氏のコメントも欲しいし、何よりも世論調査専門家の意見を求めたい。世論調査と言う名のデマゴギーが世の中を攪乱しないためにも。(つづく)