「第3極=改革政党」を掲げてスタートした橋下維新の行き着いた場所は、結局のところ「極右=改憲政党」だった、大阪ダブル選挙の行方を考える(その16)

 おおさか維新の会は12月12日、大阪市で臨時党大会を開き、18日で大阪市長の任期が終わる橋下代表の引退を了承し、後任に松井幹事長(府知事)を選出した。橋下氏は党の「法律政策顧問」として政策立案に関わる方針だという。松井氏は大会後の記者会見で「憲法は改正しなければならない。改正(発議)に必要な3分の2の勢力の中に入る」と述べ、安倍首相が意欲を示す憲法改正に協力する考えを示した(毎日新聞2015年12月13日)。

 橋下氏も大会後の会合で、所属議員らに「来夏の参院選が勝負。自民、公明、おおさか維新で3分の2を獲得し、憲法を改正したい」と語った。さらに大阪選挙区(改選数4)について、「3人を取るくらいのことをしないと大阪の本気度は全国に伝わらない」と述べ、複数人を擁立する考えを示した(毎日、同)。

橋下氏はまた12月13日のツイッターでも、「来夏の参院選挙の争点は明確だ。1、消費税増税の延期 2、憲法改正 3、安全保障法制の範囲の厳格化。国民の選択が日本の将来を決める、ワクワクする選挙になることは間違いない。投票率が低い、とにかく投票を!とメディアや自称インテリは言うが、しょうもない選挙には誰も行かない」と公言している。

これら橋下・松井両氏の発言は、大阪ダブル選の圧勝で新党「おおさか維新」に弾みをつけ、勢いを駆って一挙に「極右改憲政党」として国政にデビューしようとする意図を赤裸々に示すものだ。地域政党としての「大阪維新」が大阪都構想や副首都化を掲げ、国政政党としての「おおさか維新」は改憲を掲げる――、この二枚看板を巧みに使い分けながら、安倍政権の先鋒隊(最右翼)として位置を確保しようとする算段なのである。

 大阪ダブル選の応援に行った京都の人たちから聞いた話によると、選挙戦では安倍政権批判も憲法改正反対も「自粛」するように言われたそうだ。勝手連とはいえ、安倍自民党総裁から推薦状を受け取った候補を支援する反維新陣営が、安倍政権批判をするのはまずいとの政治的判断があったからだろう。また、改憲推進派の維新候補と改憲慎重派の大阪自民候補を「ごっちゃにしない」との政治的配慮があったのかもしれない。

 しかし安保法案反対運動が空前の規模で広がった直後のダブル選だっただけに、この「ごっちゃにしない」作戦は功を奏しなかった。安倍政権批判や憲法改正反対を棚上げにした自民党推薦候補の応援に対しては、反維新陣営からも「力が入らない」との苦情をしばしば耳にした。首相官邸の支持を背景にした維新候補を「安倍政権の走狗」として批判することが必要だったにもかかわらず、それが「諸刃の剣」となって反維新候補に撥ね返ることを恐れた結果が、ダブル選での維新圧勝になったのはけだし当然だった。

 なにしろ稲田政調会長や荻生田副官房長官など札付き右翼の安倍側近が、反維新候補の応援にやってくるのである。本来なら橋下・松井陣営の応援隊であるはずの彼・彼女らが、こともあろうに反維新の側に立つという「政治的倒錯状況」が生まれたのだ。これでは有権者の間に、憲法判断を棚上げにして維新候補を支持するという投票行動が生まれたのも不思議ではない。橋下維新は「異質の危険な存在」というのが大阪自民候補を勝手連的に支援する革新陣営の論拠だったが、橋下維新は安倍政権と「同質の危険な存在」だという認識に立てば、もっと別の選挙戦術があったかもしれない。

 結果論の話はもう止めにしよう。それよりも「極右改憲政党」としての姿を公然とあらわした「おおさか維新」とどう対決するかが今後の最大の政治課題になる。大阪府市両議会では「大阪維新 vs オール大阪」といった図式はもはや通用しない。大阪自民と公明の変質が一挙に加速し、場合によっては両党の与党入りも考えられるからだ。議会内での駆け引きなど一切通用しない「維新1強体制」が成立するかもしれない新しい情勢の下で、反維新陣営はいかにして体制を立て直すのか。

 私は参院選が迫るなかで(衆参同時選の可能性も大きい)、「おおさか維新=極右改憲政党」との対決が至上命題になると考える。大阪を取り巻く政治情勢はもはや大きく変わったのであり、それに対応する新しい政治方針が求められているからだ。これまでの大阪は、国政上の政策は棚上げして「事実上の反維新統一戦線=オール大阪」が成立していた。しかし国政選挙が中軸となって展開されるこれからの政局においては、「おおさか維新+自民+公明=改憲勢力」との対決が最大の政治課題になると考える。

 次の都構想住民投票のことを考えると、「オール大阪」体制を清算するのはまずい、形だけでも残すべきだとの声もあると聞く。また議会内では、水面下での大阪自民との連携も欠かせない事情もある。それはそれで努力すればいい。しかし改憲勢力に対する徹底的批判がなければ、都構想住民投票の展望も開けないし、大阪府市民の期待に応えることもできないだろう。

 最近の世論調査では「おおさか維新」の支持率が比較的高く出ている。大阪ダブル選の維新圧勝が世論に驚きを与え、そのことが高支持率の背景になっているようだ。また橋下・松井両氏の参院選に対する強気発言もこの世論動向を睨んでのものだろう。だが、誤解していけない。大阪府市民は「極右改憲政党」としての「おおさか維新」を選んだのではなく、「大阪を改革したい」という大阪維新のスローガンに一票を投じたのだ。

 私は早晩、「大阪維新」と「おおさか維新」の二枚看板が大阪府市民に見破られる時が来ると思う。来る参院選はその第一歩であり、ここで彼らの素顔が明らかになるだろう。いや、明らかにしなければならない。参院選を通じて「おおさか維新」の「極右改憲政党」としての本質を暴露し、「改革政党」のイメージを徹底的に打破しなければならない。「第3極=改革政党」としてスタートしたはずの大阪維新が、行き着いたところは安倍政権と同じ場所の「極右改憲政党」だったということを知らせるのが、次の国政選挙の最大の課題だと思うからだ。(つづく)