「改憲勢力3分の2をうかがう...」、各紙の参院選序盤情勢分析をどう読むか、2016年参院選を迎えて(その35)

 先日、「舛添辞職問題が自民党のイメージを低下させている、安倍政権は舛添問題の影響で苦戦を強いられるだろう。次の世論調査が楽しみだ」と拙ブログを書いた。その途端に各紙の参院選序盤情勢分析の結果が6月24日に発表され、1面トップには、判を押したように「改憲勢力3分の2をうかがう」との大見出しの活字が躍っていた。これだけ同じような見出しが並ぶということは、事態がその方向で推移していることを示すものだ。もはや驚きを越して恐怖感さえ覚える。以下は、その見出しである。

 ○朝日新聞、「改憲4党 2/3うかがう」、「1人区は野党共闘効果、選挙区 5割は態度未定」
 ○毎日新聞、「改憲 3分の2うかがう」、「自民 単独過半数の勢い、4割右
 ○日本経済新聞、「自民、単独過半数に迫る」、「改憲勢力 2/3うかがう、民新、改選議席の確保難しく」
 ○読売新聞、「与党 改選過半数の勢い」、「民新、伸び悩み、1人区 共闘は一定効果、18歳、19歳『関心ある』58%」
 ○産経新聞、「改憲勢力 2/3うかがう」、「与党、改選過半数の勢い」
 ○京都新聞、「改憲勢力3分の2視野」、「自民、単独過半数勢い、半数は未定、流動的、民新苦戦、共産伸長、18歳、19歳関心低調」

 これらの見出しから読み取れることは、(1)改憲勢力(自民、公明、おおさか維新、日本のこころなど)が憲法改正の発議に必要な3分の2議席を占める可能性が出てきたこと、(2)その中核である自民党が単独で過半数を獲得する勢いにあること、(3)これに対して野党側は、共産党が頑張っているものの民新党が伸び悩んでいること、(4)ただし、1人区の野党共闘は一定の効果を上げていること、(5)有権者の多くがまだ態度を決めていないこと、などである。

 各紙による政党の獲得推定議席は、自民55+、公明15−、おおさか維新5+、こころ0というもので、改憲勢力は合わせて75+になる。これに非改選議席84を加えると159+となって、まさに見出し通り「3分の2、162議席をうかがう」情勢だ。これに対して、改憲阻止勢力はふるわない。民新30、共産10、無所属5−、合わせて45−、社民、生活が苦戦しているので非改選議席を加えても70+程度しかならず、改憲阻止に必要な81議席に遠く及ばない。由々しき事態だというべきだろう。

 この推計数字は、正直言って私にはショックだった。直前まで自民党が舛添問題で足を取られ、安倍内閣自民党のイメージがすっかり悪くなっていると勝手に思い込んでいたからだ。だが、参院選は大都市選挙とは違って地方の影響が大きい国政選挙である。東京や大阪など大都市の流動的な情勢にくらべて、地方では保守系固定票の占める割合が極めて高い。私は「保守のまほろば」といわれる奈良県出身だから、情勢の如何にかかわらず地域代表としての与党・自民党候補に投票する、そんな地方の投票行動の習性がよくわかる。この岩盤のような保守的政治風土を壊すのは容易ではない。これが第一印象である。

 次にこのことと関係するが、自公両党が憲法改正について一言も語らず、アベノミクス一本槍で勝負に出ていることをどう解釈するかということがある。民進党岡田代表共産党の志位委員長が自公両党の「改憲隠し」「争点外し」を厳しく批判して、「彼らは3分の2議席を取れば必ず改憲に踏み切る」と警告していることは正しい選挙戦術だと思う。さりながら、私の実家がある奈良県あたりの空気は、それに反応するには程遠い状況にあるのが現実だ。「馬の耳に念仏」とまではいかないが、それに近い無関心さが地域一帯を覆っていて動かそうにも動かせないのである。

 共同通信の序盤調査をもとに書かれた京都新聞の注目すべき解説記事(6月24日)がある。そこで指摘されている序盤情勢の特徴は、(1)順風の自民、公明両党は、アベノミクスの「実績」を前面に出して、改憲の争点化を避ける戦術が功を奏していると安堵している、(2)与党幹部は「このままアベノミクスを問う路線でエンジンをふかす」といい、世論の関心が深い政策テーマは経済や社会保障だとみて、憲法論議に目を向けさせない方針だ、(3)安倍首相も憲法問題については、「(衆参の)憲法審査会で静かにしっかり議論し、与野党に関係なく3分の2が賛成するものに国民の信を問う」と議論先送りの理論武装を図っている、というものである。

 また、読売新聞も32の1人区のうち16選挙区で自民が野党統一候補をリードしている背景には、無党派層の支持があると分析している(6月24日)。以下はその一節である。
 ―31の1人区で「29勝2敗」と圧勝した前回2013年参院選のような圧倒的な勢いは影を潜めているものの、(自民党が)手堅く選挙戦を展開している様子がうかがわれる。特に「金城湯池」とされる北関東や北陸3県、さらに西日本の選挙区を中心に野党統一候補を引き離しにかかっている。自民党優勢の背景には無党派層の支持がある。16選挙区の多くで野党統一候補よりも浸透しており、自民党幹部は「高い内閣支持率がそのまま追い風になっている」と分析する―
 
 参院選直前の衆院補選では、北海道5区で無党派層の7割、8割が野党統一候補に投票したという出口調査があった。このときから無党派層は革新支持層であり、改憲を争点にすれば野党側に引きつけられるとの期待(確信)が生まれた。しかし北海道5区は札幌市の一部を含む大都市周辺選挙区であって地方選挙区ではない。大都市選挙区と違って地方選挙区には、無党派層といっても保守系無党派層が多い。北海道5区で通用した戦術が国政選挙である参院選でも通用すると思う方が間違いなのだ。

 とはいえ、参院選の帰趨が無党派層の投票行動に懸かっていることは間違いない。選挙序盤で態度を決めていない有権者の多くが、無党派層であることは容易に推察が付く。とすればこの際、野党側は無党派層対策を大都市型と地方型に分けて選挙戦術を練り直し、大都市では「改憲勢力3分の2阻止」を中心に、地方では「アベノミクスを逆手に取った経済対策」を中心に選挙戦を展開してはどうか。(つづく)