舛添都知事問題へのマスメディアの「一点集中」は参院選の争点逸らしだろうか、改憲の「か」の字も言わない安倍首相や自民党候補者に、世論操作の恐ろしさを覚える、2016年参院選を迎えて(その31)

東京都議会が目下開かれているからなのか、このところマスメディアとりわけテレビ報道の関心は舛添知事に集中している。それだけ国民の関心を引きつける光景が連日生々しく展開されているのだから、当然と言えば当然だが、そのことで参院選の争点がかすんでしまうとしたら、それはそれで大問題だと言わなければならないだろう。

つい最近まで、私は舛添問題が長引けば長引くほど参院選自民党が不利になると思っていた。産経新聞が心配するように、事態が長引けば都民や国民の目には「舛添問題=自民党問題」と映るようになり(2016年6月8日)、それが安倍政権のイメージ低下と重なって議席数の減少につながるとの観測も成り立つからだ。自民党東京都連幹部や公明党創価学会本部の心配もそこにあると言われている。

確かに、舛添知事の「頑張り」は驚異的だ。「厚顔無恥」「鉄面皮」「人でなし」などと云われてもビクともしない。どんな質問に対しても、「猛省しております」「私の不徳の至りでした」「皆様の憤りは十分に理解しております」「厳しいお言葉を胸に刻みます」などと神妙な謝罪の弁を繰り返しながら、それでいて最後は、「初心に戻り、謙虚に努力して参ります」「自治体のリーダーとして今後は厳しく自分の行動を律して参ります」「信頼の回復に懸命の努力をして参ります」「今後の都政の発展のために成果を上げていくことで、皆様の理解を一歩一歩得て参りたいと考えてございます」という言葉で締めくくるのだから、その話術や答弁技術は見上げたものだ。

こんな人物に対しては議論など無駄だと誰しも思うだろうが、それでも多くの人がテレビに連日引きつけられるのだから、これがもし世論操作の一環だとしたら、舛添氏ほどの大役者はいないだろうと思う。事実、甘利氏が国会閉会後に合わせて「病気回復」したのも、舛添問題に対する世論の盛り上がりでこれ以上追求の輪は広がらないと踏んだからだ。また、東京都議会という大舞台での舛添知事の大立ち回りは、安倍政権の醜悪な実態を舞台裏に隠し、参院選という次の大出し物から国民の目を奪う効果を上げている。

私は、参院選の争点隠しは二人の役者によって演じられていると思っている。一人は言うまでもなく目下テレビを独占している舛添知事であり、もう一人は改憲の「か」の字も言わない安倍首相だ。安倍首相は解散の「か」の字も考えていないと言って、衆参ダブル選の可能性を最後まで探っていたように、改憲の「か」の字も言わないで参院3分の2議席改憲勢力で占めようと参院選に臨んでいるのである。

 安倍首相は6月1日の記者会見で、「内需を腰折れさせかねない消費税増税は延期すべきだと判断した」「新しい判断について、参院選を通して信を問いたい」 「財政再建の旗は降ろさない」と述べ、その後は「アベノミクス・エンジンを吹かして景気をよくする」の一点張りだ。消費増税を再延期することを選挙争点に仕上げ、手垢にまみれた「アベノミクス」をもう一度持ち出すという前回総選挙の手法を性懲りもなく繰り返している。呆れるほかないが、だがこんなに見え透いた「柳の下の二匹目の泥鰌(どじょう)」作戦に引っかかるところに、国民世論の脆さがある。

 6月4、5両日に実施された朝日新聞世論調査では、消費税10%への引き上げを2年半延期した安倍首相の判断を「評価する」56%が、「評価しない」34%を大きく上回った。また、安倍首相が1年半前に消費税の引き上げ延期を決めた際、「再び延期することはない。断言いたします」と述べた約束を守らなかったことに対しても「大きな問題ではない」53%、「大きな問題だ」37%となった。

 6月3〜5日の読売新聞世論調査でも、安倍首相が消費増税の延期を表明したことを「評価する」が63%となり、「評価しない」31%のダブルスコアになった。 また今回の延期を公約違反だと「思わない」が65%に上り、「思う」30%の倍以上となった。こんな数字を見て、自民党の茂木選挙対策委員長は5日、福島市で記者団に「消費税率の引き上げ延期は高い支持を得た。アベノミクスを更に進めていきたい」と語り、世論調査の結果を歓迎した。また増税延期は公約違反だとする回答が3割にとどまったことで、「参院選へのハードルを一つ越えた」(自民党幹部)と安堵する声も出ているという(読売新聞、2016年6月6日)。

 そして一方では、毎日新聞が「候補者 演説で触れず、自民『改憲、票逃げる』」(2016年6月5日)と伝えている。改憲極右派の三原じゅん子参院議員(神奈川県選挙区)でさえが、5月末の30分の街頭演説では改憲の「か」の字も語らず、福祉や子育て支援の話題に集中したという。「自民党関係者は『改憲を訴えると票が逃げる』と明かす。『改憲自民党の党是。隠しているわけではないが、今は声を潜めた方がいい。参院で3分の2が取れたら改憲に動き出す。それが政治の世界だ』」(同上)というわけだ。(つづく)