「井の中」の都議会自民党、国政の「大海」を知らず、自民都議の「みそぎ質問」は国民の怒りを倍加させ、参院選を敗北に導くだろう、2016年参院選を迎えて(その32)

 2016年6月13日午後、舛添都知事の公金流用疑惑に関する都議会集中審議をテレビ番組で断続的に見た。冒頭に質問に立った自民党都議は口調だけは厳しかったが、質問の中身はカラッポでいたずらに時間を空費しただけだった。原稿を横目で見ながら、これまですでに明らかになっていたことをただ表面的に繰り返しただけだ。それもお説教調に言うものだから、舛添氏は「反省します」、「申し訳ありません」、「胸に刻みます」、「重く受け止めます」などなど、神妙に謝罪の弁を述べただけで何一つ新しい事実が明らかにならなかった。

 こんな自民党都議の質問を見ていると、これは舛添疑惑解明のための質問ではなく、テレビ中継を利用して公衆の面前で舛添氏を謝らせ、観衆のストレスを解消させるための「やらせ芝居」ではないかとさえ思えてくる。自民党都議が水戸黄門よろしく肩を怒らせて知事を叱咤する。すると、あの傲慢な知事がひたすら頭を下げて、都民のみなさまや都議会のみなさまに「申し訳ない」と詫びる。こんな場面を繰り返し演出することで観客の怒りを「ガス抜き」し、これだけ謝っているのだから「もういいだろう」とか、これだけ反省しているのだから「これからは真面目にやれよ」とかの都民感情を呼び起こす作戦なのだ。とにもかくも知事の居座りを画策するための猿芝居なのだ。

 このような猿芝居は極めて悪質であり、かつ都民を愚弄するもので許し難い。東京都議会が舛添知事と最大与党自民の手で牛耳られ、東京都が彼らの食い物にされている有様を完膚なきまでに示したのが昨日の集中審議だった。おそらく都議会自民党はこれを機に舛添知事を完全に屈服させ、東京五輪に絡まる膨大な利権を手中にする機会として集中審議を利用したのだろう。彼らの手中に落ちた舛添知事は貴重な「金づる」であり、しゃぶればしゃぶるほど味が出てくる存在なのだ。

 だが、都議会という「井の中」でうごめいている自民党都議団には、舛添疑惑がもはや国政の「大海」に出ていることを知らないらしい。東京選出の自民党国会議員も「同じ釜の飯」を食ってきた仲間であるだけに、「井の中」の事情はよくわきまえている。なにしろ石原伸晃自民党東京都連会長は、石原慎太郎元知事の子息なのだ。石原元知事の豪華外遊や公金流用疑惑は、舛添知事とは比較にならないスケールであることは誰もが知っている。だから石原都連会長は自民党都議団に何一つ文句が言えない。もしそんなことを口にしたら、途端に父親のスキャンダルに火が付くことが目に見えているからだ。

これはマスメディアの世界でも同じことだ。石原元知事に(とりわけ)弱いマスメディアは、彼が現役当時どれほど巨額の公費を無駄遣いしていても何一つ批判らしい批判ができなかった。いまでも石原元知事の子息がタレントとして出ているテレビ番組では、石原元知事の話題はタブーになっている。私などは、子息のタレントが舛添疑惑をテーマにしている番組でどのような発言をするかに注目しているが、彼自身もそこはよく自覚しているのか、あまり踏み込んだ発言はしない。すれば、「返り血」を浴びる危険をよく知っているからだろう。

しかし、情勢は変わりつつある。前回の拙ブログでも述べたように、舛添疑惑への一点集中が参院選への焦点をそらし、安倍首相の改憲意図の目くらましになっていることは事実だ。だが政治の世界は流動的で、「井の中」の自民党都議団がこのまま頑張り、舛添疑惑に蓋をして知事の居座りを許すようなことになると、その批判は一転して国政の「大海」で自民党批判に向かうことになる。予想されるのは、まず参院選で東京選出の自民党候補が軒並み苦戦を強いられ、次にそれが全国に波及して大幅な議席減につながるという構図だ。こうなると、安倍政権は改憲意図を隠し、アベノミクス一本やりで素朴な国民を騙すという「セコイ」選挙戦術を取れなくなり、何らかの対応を求められることになる。

すでにその兆候は出ている。同じ東京選出の国会議員でありながら東京都連会長代行の下村議員は、安倍首相の側近という立場もあって舛添知事の続投(居座り)に難色を示している。私などは下村路線が昨日の都議会集中審議であらわれるのではないかと思っていたのだが、ことはそう簡単に運ばなかった。自民党東京都連の内部では、目下激烈な綱引きが行われているのだろう。

東京都議会は「井の中」でも巨大な「井の中」だ。その大きさは「大海」に匹敵するという政治評論家もいる。それはそうかもしれないが、しかし私の見方は違う。舛添疑惑は、政治資金規正法がいかに「ザル法」かということを国民の前にさらけ出したことで、「大海」の問題になった。舛添疑惑に蓋をして続投(居座り)を許すことは、政治資金規正法の改正に背を向けることと同じであり、国民の税金を私物化することを容認するものだ。

参院選が目前に迫った今、市民連合野党共闘は「政治資金規正法の抜本改正」を選挙公約に掲げるべきだ。舛添疑惑を彼自身の特異なキャラクターの問題として矮小化するのではなく、その背景にある政治資金規正法改正という「大海」のテーマを参院選の焦点にしなければならない。「井の中」の澱んだ水を一掃するには、「大海」の塩辛い水を注ぐほかはない。(つづく)