日露首脳会談の「期待肩すかし」と米軍オスプレイ飛行再開の「言いなり容認」が安倍政権の命取りになるだろう、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(1)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その32)

 悪い時には悪いことが重なるもので、日露首脳会談が行われる直前の12月13日夜、沖縄県名護市海岸に米軍オスプレイが「不時着」(墜落)して大破した。しかし、その後の米軍の態度がいけない。在沖縄米軍トップが謝罪するかと思いきや、抗議に訪れた県副知事に「民家を避けて海岸に不時着したことに感謝すべきだ。パイロットは英雄だ」と逆に居直る始末、「占領軍」意識丸出しの対応だ。

 本来ならこの段階で世論が沸騰するところだが、15、16日の日露首脳会談が迫っていたこともあって、オスプレイ事故へのマスメディアの関心は「沖縄ローカルニュース」並みの取り扱いで真相が十分に伝わらなかった。安倍政権にとっては勿怪(もっけ)の幸いで、日露首脳会談で成果を上げれば米軍事故など「帳消し」になると踏んでいたのではないか。

 これまで安倍政権は、「今度こそは歯舞、色丹2島返還」とばかり国民に散々期待を持たせてきた。今年に入ってからというものは、安倍首相の「新たなアプローチ」への期待とも相まって政府・与党内でも「2島返還」が実現するとの観測が広がり、「領土問題進展で首相が衆院解散に打って出る」との「北方領土解散」がささやかれていた。だが、結果は「大山鳴動して鼠一匹」に終わり、安倍政権への失望が一挙に広がった。12月17、18日の各紙見出しは以下の通り。これを見るだけも、国民が如何に「振り回されただけ」なのかがよくわかるというものだ。
 
毎日新聞
「日露首脳会談、領土交渉の出口見えず、外れた安倍首相の思惑、外交戦略の立て直しを」(社説)、「日露首脳会談、与党内にも落胆・不満、二階氏『国民がっかり』」、「しぼむ1月解散論、『来秋以降』の見方強まる」、「領土解決ほど遠く、露、『特別な制度』抵抗、平和条約優先、安保懸念にも言及」、「経済協力 具体性弱く、領土への進展見通せず」、「日露どこへ、誤算の首相新構想、2島返還 期待は霧散」

朝日新聞
 「日露首脳会談、あまりに大きな隔たり」(社説)、「四島 共同経済活動へ協議、日ロ首脳会談 合意、領土問題進展せず、平和条約締結へ『細い糸』」、「領土交渉 険しさ鮮明、日本 進展期待肩すかし、ロシア 日米安保に懸念、日本安倍首相 ロシアプーチン大統領 二人の同床異夢」、「共同経済活動実現には…四島を特区に? 法的課題山積」、「『国民の大半がっかり』『日本、振り回された』、日ロ会談 与党にも不満」

日経新聞
 「出方見極め冷静に対ロ交渉継続を、共同経済活動は慎重に、経済協力は採算重視で」(社説)、「首脳会談 日ロ共同経済活動で合意、四島に『特別な制度』検討、領土帰属進展せず」、「平和条約へ『重要な一歩』、譲歩にリスク 見えぬ展望」、「領土返還 道のり遠く、『特別な制度』主権の壁、『平和条約は容易でない』、『すぐ解決の考え捨てよ』、「故郷の島『いつ返る…』、日ロ首脳会談 元住民、落胆広がる、自由往来は『半歩前進』、漁業『共同操業も』期待、経済活動 具体策は今後」、「日ロ共同宣言『2島引き渡し』、首相『日ロ、見解隔たり』、共同宣言 立場の違い鮮明」

 日露首脳会談が終わった17、18日の両日、マスメディア各社では一斉に世論調査が始まった。ここでは共同通信社の結果を中心に紹介する。今回の共同通信調査の特徴は、日露首脳会談のみならず今国会で成立したTPP・カジノ・年金各法の評価についても回答を求めていることだ。注目されるのは、安倍政権が今国会で強行採決したすべての重要法案について国民の否定的な評価が下されていることであり、その結果が内閣支持率の下落になってあらわれていることだ。以下、その結果を列挙しよう(京都新聞、12月19日)。
(1)日露首脳会談について「評価する」39%、「評価しない」54%
(2)今後の北方領土問題の進展について「期待する」43%、「期待しない」54%
(3)日本でカジノを解禁することについて「賛成」25%、「反対」70%
(4)カジノを中心とするリゾート施設を住んでいる地域につくる計画について「つくってもよいと思う」22%、「つくらない方がよいと思う」75%
(5)国会がTPPを承認したことについて「よかった」39%、「よくなかった」45%
(6)年金制度会改革法の成立について「よかった」36%、「よくなかった」55%
(7)オスプレイの日本への配備について「配備を続けてよい」28%、「配備を見直した方がよい」67%

 支持政党別の結果は、カジノ解禁とオスプレイ配置の2つしか掲載されていないので詳細は分からないが、野党の民進・共産支持層は両方とも圧倒的反対(8〜9割)、与党の自民・公明支持層でも同様の傾向(6〜8割が反対)が出ている。特異なのは維新支持層で、カジノ解禁では賛否が拮抗、オスプレイ国内配備では賛成が反対を上回っている。将来、維新が極右政党へ「大化け」する前兆かもしれない。

 京都新聞の見出しが「全国世論調査 内閣支持率下落、国民の『カジノ反発』響く、オスプレイの国内配備、自民支持層も批判的」とあるように、内閣支持率は前回調査(11月26、27日)に比べて61%から55%へ6ポイント下がり、不支持率は30%から34%へ4ポイント上がった。政府・与党関係者は「一喜一憂しない」「内閣支持率は50%台でも十分高い」と冷静を装っているというが果たしてそうなのか。

 ところが、機体が原形をとどめないほど大破した「不時着」事故からたった1週間足らずの12月19日午後、米軍オスプレイの国内飛行が全面再開された。稲田防衛相は19日午前、米軍の強い再開意向を受けて「オスプレイの機動力、搭載人数、飛行距離など、優れたところがあり、その配備が(日米同盟の)抑止力向上につながる」と飛行再開に「理解」を示したという(各紙、12月19日)。この「言いなり容認」と「言われたまま理解」の構図は、米軍占領統治下の政治構造がそのまま再現されたような光景だ。これでは安倍政権はアメリカの「傀儡(かいらい)政権」だと言われても仕方がない。しかしながら、国民は沖縄県民を先頭に日本がアメリカの「属国」でないことを示さなければならない。次回ではその動きをみよう。(続く)