米軍オスプレイ飛行の「言いなり再開」問題は、安倍首相の真珠湾訪問で帳消しにできない、真珠湾訪問の効果は泡と消えるが、オスプレイ事故の不安は時とともに大きくなるからだ、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その33)

 「歴代首相で初めて」―と鳴り物入りで打ち出された安倍首相の真珠湾訪問が12月26、27両日に迫った。今年5月のオバマ大統領の広島訪問が国内世論の予想以上の好感を呼び、各紙の世論調査でも8〜9割がオバマ大統領の広島訪問を評価するという結果になった。同行した安倍首相に対する評価もまずまずのものとなり、内閣支持率も若干上昇した。

 これに味を占めたのか、今度は安倍首相がオバマ大統領とともに真珠湾の慰霊訪問に出かけるのだという。一説によれば、安倍首相のトランプ氏(私宅)訪問がオバマ政権の不快感を招いたことから、そのお詫びをかねての訪問というが、国民の目には日露首脳会談に引き続くビッグな外交イベントと映り、こちらの方も内閣支持率上昇間違いなしと(当初は)見込まれていたからだろう。

 前回の拙ブログで紹介した共同通信社世論調査(12月17、18日実施)によれば、日ロ首脳会談のみならず今国会で成立したTPP・カジノ・年金各法についての評価はいずれも「総スカン」となったが、唯一、安倍首相の真珠湾訪問だけは評価されるという結果になった。
「安倍首相は、今月末、日米開戦の地となった米ハワイの真珠湾を訪問し、戦争犠牲者を慰霊することになりました。あなたは、この訪問を評価しますか」という質問に対する回答は、「評価する」85%、「評価しない」11%という圧倒的な結果になったのである。

この傾向は、同時期に行われた各紙世論調査でもほぼ同様で、朝日は「評価する」81%、「評価しない」12%、毎日は「評価する」75%、「評価しない」15%となって、安倍首相の真珠湾訪問は圧倒的な支持を受けている。戦没者や戦争犠牲者を慰霊することは、その政治的背景を抜きにして誰もの共感を呼ぶ行為であり、国民の心情に広く訴えるものがあるからだろう。ましてや、今回の真珠湾訪問は「歴代首相はじめて」という尾ひれがついたものだから、その宣伝効果は抜群だった。

少なくともこの時点までは、安倍首相の真珠湾訪問の目論見は順調に推移していた。ところが12月19日(世論調査の翌日)になって、事故原因の究明はおろか大破した機体の回収すらが終わらない段階で、米軍オスプレイの国内飛行が全面再開され、稲田防衛相は飛行再開に即刻「理解」を示したことが明らかになった。これは、首相の真珠湾訪問を前に沖縄米軍と政府との間で対立が続くことは、真珠湾訪問の宣伝効果を損なうとの政治的判断(官邸)が下されたからであろう。

だが、別のところで首相の真珠湾訪問の効果を著しく損なう事態が発生した。それは、「歴代首相はじめて」という表看板が実は「そうではなかった」ことが判明したからである。12月24日の『日刊ゲンダイ』は次のように報じている。
 ――26〜27日に行われる安倍首相のハワイ・真珠湾訪問。大新聞・TVは当初、「現職首相の訪問は初めて」と大騒ぎだったが、1951年9月の当時の吉田茂首相の真珠湾訪問が表面化すると、「アリゾナ記念館を訪れるのは初めて」と一気にトーンダウン。(略)そもそも、歴代首相の真珠湾訪問は吉田だけじゃない。22日付の米国『ハワイ報知』新聞は〈鳩山一郎、岸両首相も訪れていた〉との大見出しで、鳩山が1956年10月29日に、岸はアイゼンハワー大統領との会談で訪米した際の57年6月28日に、それぞれ真珠湾を訪れていた――と報じた。鳩山、岸ともに当時の新聞紙面を写真入りで紹介し、わざわざ〈公式の訪問とみられる〉との見解も添えている。

 その後、安倍首相の真珠湾訪問に関する記事はめっきり減ったように感じる。明日、明後日あたりにはまた大盤振る舞いが始まるかもしれないが、「歴代首相はじめて」が「歴代首相4番目」となると、ニュースバリューとしてはガタ落ちになること請け合いだ。また解説記事にしても単なるご祝儀記事で済ますことは許されなくなり、過去3人の首相と今回の安倍首相の真珠湾訪問の意義はいったいどこが違うのかを深堀しないと、読む値打ちがなくなる。

 そうなると、今回の安倍首相の真珠湾訪問の意味はなにか、何が目的なのかが改めて問われることになり、儀礼的な戦没者慰霊だけでは済まされなくなる。沖縄米軍オスプレイ事故に蓋をして、真珠湾訪問に出かけることの意味が改めて問われることになるのであり、延いては安倍首相の「地球俯瞰外交」の意義が問われることになるのである。

 いま沖縄ではいったいどのような事態が進行しているか。それを最も的確に伝えているのは、12月23日付の日経新聞、「米軍北部訓練場返還、政府の式典粛々、抗議集会は熱気、オスプレイ撤去求める」の記事だ。
 ――米軍北部訓練場(沖縄県国頭村、東村)が一部返還された22日、沖縄県内で政府の記念式典と、新型輸送機オスプレイの事故への抗議集会がそれぞれ開かれた。翁長雄志県知事が政府式典に欠席し、抗議集会に参加する異例の事態。淡々と進む式典、怒声が上がる集会と対照的な様相をみせた。

 安倍首相の真珠湾訪問は、数日もすれば国民の脳裏からは消えるだろう。真珠湾攻撃の犠牲者の慰霊は大切だが、その教訓を現在に生かす政治的行動を伴わなければ、単なるセレモニーに終わってしまう。一方、沖縄は日々オスプレイをはじめ軍用機の事故と向き合い、深刻な不安にさいなまされている。一過性の記念式典や慰霊訪問で、沖縄米軍オスプレイ事故の帳消しができるほど事態は甘くないのである。(続く)