トランプ相場と沖縄米軍オスプレイ全面飛行再開で始まった2017年、安倍首相の年明け解散見送りは予想外の波乱を呼ぶことになるかもしれない、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その35)

 今年最初の取引となる1月4日の東京株式市場の大発会では、日経平均株価が昨年の終値を超える最高値となり4年ぶりに上昇した。言わずと知れた「トランプ相場」の影響だ。株価の上下は内閣支持率に直結するというから、安倍首相の顔色もよくなるわけだ。同日の年頭記者会見でも「アベノミクスを吹かしながら、経済をしっかり成長させていくことが私たちの使命だ」と大いに気炎を上げた。

 「アベノミクス=安倍相場」で株価が上がっているのなら首相が気炎を上げるのも頷けるが、株式市場にずぶの素人である私などは、「トランプ相場」なのだからそんなに喜んでいいのかと思ってしまう。なにしろ業界では「トランプ相場は大統領就任式で終わる」といった観測が飛び交っているのである。もっと警戒心を強めてもいいはずだ。

 すでに「トランプ圧力」で、フォードがメキシコ工場の建設計画を取り止めたことが話題になっている。トヨタをはじめ日本の自動車企業トップは平然を装っているが、内心は穏やかでないはずだ。日本への波及がドミノ式に起これば、ただでは済まないことは一目瞭然だろう。経団連など経済団体が警戒を強めているのはそのためだ。

その一方、在日アメリカ軍は、先月の事故で中止していたオスプレイの空中給油訓練を今日1月6日から再開すると通告し、日本政府は例によって「わかりました」と言って直ちに受け入れた。菅官房長官の記者発表(1月5日)によると、アメリカ軍が住宅の上空では訓練飛行を行わないことを確認したとして、再開を受け入れたとしている。しかし、菅官房長官の発表は米軍の通告を鵜吞みしただけで、事故原因の究明を求めたものでもなければ、訓練再開の延期を求めたものでもない。まるで米軍スポークスマンのエージェント(代理人)といった役割だ。沖縄県の翁長知事は「県民の声を無視して米軍の要求を最優先する政府の姿勢は、信頼関係を大きく損ねるもので強い憤りを感じる」と述べたが、悲しいことに現実はその通りなのである。

2017年が経済と政治(軍事)の両方で「アメリカ頼み」「アメリカ追随」で明けたことは、今年の日本の暗い行先を暗示する。トランプ大統領が本格的に活動をスタートさせれば、真っ先に日本の自動車産業が標的になり、沖縄駐留米軍の経費全額負担が外交交渉の舞台に上がるだろう。その時、安倍政権はいかなる戦略をもって事態への対応に当たるのか、そのシナリオがまったく見えてこない。おそらく「トランプ圧力(恫喝)」に抗しきれず、揉みくちゃにされるのが落ちではないか。

首相の年頭記者会見を受けて、朝日新聞は「首相、秋以降の解散探る、経済・外交、当面は優先」(1月5日)との観測を示した。だが、優先課題である経済・外交でいったいどんな成果が期待できるというのか。今月下旬には日米首脳会談、その次には日露首脳会談を予定しているというが、日程は決まっても成果が得られるとは限らない。むしろ無理難題を押し付けられて、後退に後退を重ねるといった事態の可能性の方が大きい。

安倍首相が年明け解散を見送ったのは大きな誤りだった、と思う。首相は当初、日露首脳会談で領土問題が進展すると判断して衆院解散・総選挙を予定していたが、それが「ゼロ回答」に終わり、共同宣言すら出せない状況に追い込まれた。だが、この段階で解散の決断ができなかったのは痛かった。結果は、テレビ各社をハシゴして「お詫び会見」するという惨めな形となり、総選挙に打って出ようにも出られない破目に陥ったのである。

衆院解散・総選挙は秋以降というが、その時にどのような情勢が展開しているか確かな予想は難しい。しかし「トランプ相場」が一段落して株価が下落することは疑いようがないし、沖縄ではいつオスプレイ事故が再発するかもわからない。また南スーダンでは、自衛隊が危険な場面に遭遇することも十分予想される。そして、日露の共同経済活動の交渉は遅々として進まない――ざっと言って、こんな情勢が予想できるのではないか。

加えて、注目されるのは総選挙の前に行われる東京都議選の動向だろう。小池知事は新党結成して40名前後の候補者擁立を考えているらしいが、これに「寝返り公明党」が加担するとなると、自民党もオチオチとしていられなくなる。前回都議選で全員当選という信じられない結果を出したことが、今度は裏目に出て逆に大量落選につながる恐れもある。自民党東京都連が(首相官邸に牽制されて)小池新党に対して思い切った行動を取れないことが選挙準備を遅らせているのである。

東京都議選は「総選挙の前触れ」だといわれる。都議選の結果がその後に行われる総選挙に多大の影響を与えるからだ。都議選で自民党公明党が本格的に対決するとなると、総選挙での自公共闘にひびが入る可能性もある。少なくとも東京選挙区での影響は避けがたい。定員数の多い東京選挙区でもし自民党が大敗するようなことがあれば、解散を見送った安倍首相の政治責任が問われる場面も出でこよう。

それに、現在もたついている野党共闘も少しは進展を見せるかもしれない。そうなると、自民党議席減は相当数に及ぶと各紙が予想している。民進党野田幹事長は1月4日、党本部の仕事始めの挨拶で民進党が置かれている状況を「背水の陣ではない。すでに水中に沈んでいる」(毎日新聞、1月5日)と言ったという。「蓮根」と自称する野田氏のこと、自らのことを言ったかと思いきや、党全体の選挙準備の遅れを厳しく指摘したのである。まさか民進党単独で勝利できるとは考えていないだろうから、「水中」から脱出するオプションの1つとして野党共闘が浮かび上がってくると、安倍自民党の形勢はますます悪くなる。

いまからでも遅くない。秋以降に衆院解散・総選挙を見送るよりは1月解散に打って出る方が安倍政権にとっては好結果をもたらすだろう。これが敵に塩を送る思いで書いた安倍首相への私の年頭メッセージである。(つづく)