安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(1)、支持率下落は一時的現象か、本格的下落のはじまりか、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その178)

 

 安倍首相主催の「桜を見る会」や「前夜祭」をめぐって俄かに政治情勢が流動化してきた。安倍首相自身の狼狽ぶりが尋常でないことは、ぶら下がり記者会見に(自ら進んで)何度も応じていることでもわかる。それもエビダンス(証拠)を一切示すことなく「問題はなかった」と弁明するのだから、聞いている方がしらけるのも無理はない。

 

 一方、真相究明のための国会審議の方は「国対が決めること」として逃げまわり、自ら進んで説明責任を果たそうとしない。任命した閣僚の辞任(更迭)に際しても本人が説明責任を果たすべきとして、首相自身は任命権者の責任を一切語らなかった。辞任した閣僚の方は予定通りその後ダンマリを続いているので、これでは何が問題で閣僚が相次いで辞任(更迭)したかが全て闇の中だ。

 

 こんなことは世論が絶対に許さないだろう...と思って、その後の世論調査の結果を注視していたところ、最初に出た11月12日発表の時事通信社(11月8~11日実施)の結果を見て心底驚いた。安倍内閣の支持率が2閣僚の辞任や大学入試への英語民間試験の導入見送りなど政権の不手際が相次いだにもかかわらず、前月比4.3ポイント増の48.5%、不支持率は同3.6ポイント減の29.4%となり、支持率が上昇していたのである(マジか!)。この結果は時事通信の方も意外だったのか、「一方、政府は13日に首相主催の『桜を見る会』を来年度は中止することを決定したが、調査期間とは重なっていない」とわざわざ注釈を付けている。

 

 全国紙など大手メディアが一般的に採用している世論調査は、「RDD方式」(ランダム・デジット・ダイヤリング)といわれるもので、乱数表に基づいて無作為に電話番号をつくり、固定電話と携帯電話に電話をかけ、18歳以上の有権者に質問して回答を得るというものだ。これに対して時事通信社の世論調査は、全国18歳以上の有権者に個別面接方式で調査するので回収率も高く、調査精度も高いとされている。今回も、調査は台風19号の影響を受けた一部地域を除く全国18歳以上の男女1986人を対象に個別面接方式で実施され、有効回収率は62.5%だった。 

 

 閣僚が1週間のうちに不祥事で相次いで辞任するという深刻な事態にもかかわらず、内閣支持率が逆に上がるといった現象はとうてい信じ難いが、結果がそうなのだから現実として受け止めるしかない。「国民がバカだから」などと言ってしまえば思考(分析)はそこで完全停止するから、原因を探るしか次に進む道はないのである。

 

 もっとも安倍首相の方はこの結果を逸早く知らされていて、胸をなでおろしていたのではないか。13日に首相が来年度の「桜を見る会」を中止すると急きょ発表したのは、時事通信社の世論調査をみて「大したことはない」と判断したからだろう。問題の「桜を見る会」を中止して幕引きすれば、国民はすぐに忘れると(この時点では)多寡を括っていたのである。事実、政党支持率の方は、自民が前月比2.6ポイント増の30.1%で断トツ1位を維持し、それに比べて立民は同2.7ポイント減の3.1%で公明3.7%を下回る始末、その他野党はいずれも2%以下で見る影もない。「支持政党なし」の無党派層が55.5%を占める状況が動かなければ(俗に言う「山が動く」状態)、安倍政権はこれからも〝安泰〟と踏んでいたのである。

 

 ところがその後、これまで50%台の高支持率(質問の仕方で各紙の数字は変わる)を維持してきた読売新聞と産経新聞の世論調査に少し異変があらわれた。前回と比較すると、読売(15~17日実施)は「支持する」が55%から49%へ6ポイント減、「支持しない」が34%から36%へ2ポイント増、産経(16、17日実施)は「支持する」が51.7%から45.1%へ6.6ポイント減、「支持しない」が33.0%から37.7%へ4.7ポイント増となり、時事通信とは逆の結果が出たのである。支持率40%台の朝日新聞(16、17日実施)も「支持する」が45%から44%へ1ポイント減、「支持しない」が32%から36%へ4ポイント増となった。首相が来年度の「桜を見る会」中止を決定してから、程度の差はあれ支持率が下落し、不支持率が上昇したのである。

 

 問題は、これが「本格的な下落のはじまり」と言えるかどうかだ。この点に関しては、今月20日で首相在職日数(通算)が歴代最長となる安倍首相の政権運営の実績に関する総合評価が判断材料になる。質問の仕方は違うが、3紙とも同趣旨の質問をしているので比べてみよう。回答の選択肢は、「大いに評価する」「ある程度(多少は)評価する」「あまり評価しない」「全く評価しない」の4択である。

 

 「肯定的評価」(大いに+ある程度)と「否定的評価」(あまり+全く)の比率を比べてみると、読売65%対33%、産経63.0%対34.9%、朝日62%対36%と驚くほど共通している。つまり、国民(有権者)の安倍長期政権の実績に対する一般的評価は2対1の割合で肯定側に傾いていて、それが支持率の一時的下落をカバーする政治的土壌(回復ポテンシャル)になっているのであろう。しかしこれから先は、各紙の政治姿勢を反映する質問が並ぶ。

 

 産経は、個々の政策について「評価する」「評価しない」を問い、(1)景気・経済対策33.0%対50.8%、(2)社会保障政策26.5%対53.1%、(3)外交・安全保障政策50.3%対33.7%との結果を示しているが、それ以上踏み込んだ質問はしていない。また、首相主催の「桜を見る会」については渦中の問題であるにもかかわらず責任を問うのではなく、「来年度の開催中止を決めた政府判断の評価」にすり替えている。つまり、首相責任につながる質問は一切避け、否定側に傾いている個々の政策評価の原因や背景を深堀することなく、歴代最長の首相在職期間に対する全体的評価を以て、安倍政権の政策評価に換えるという世論操作の意図が透けて見えるのだ。

 

読売は、安倍内閣の経済政策・アベノミクスに対する評価は一応聞いているが(経済がよくなったと実感22%、実感していない71%)、それ以外は個々の政策評価の是非を問うことを避け、「安倍内閣の政策で評価できると思うものをいくつでも選んでください」という形式で政策評価の相対化を図っている。結果は、経済政策19%、財政政策9%、高齢者向け社会保障16%、子育て支援や教育の無償化44%、外交や安全保障32%、働き方改革23%、憲法改正14%、その他・とくにない16%という漠然としたものだ(これでは政策評価に関する質問とはとうてい言えない)。また、「桜を見る会」や民間英語試験の導入問題に関しても、産経と同様に責任の所在を問うのではなく、「来年度の開催中止」「大学入試導入見送り」の政府対応が適切であったかとの評価を求めている。いずれも「もう問題は終わった」としてチャラにしようとする露骨な魂胆が表れていて、見苦しいことこの上ない。

 

 一方、朝日は安倍長期政権の実績、「桜を見る会」や民間英語試験に関する責任問題にまともに踏み込んでいる。「長期政権にふさわしい実績を上げているか」(上げている41%、上げていない44%)、「国の税金が使われている『桜を見る会』に多くの安倍支援者が招かれていたことは」(大きな問題だ55%、それほどでもない39%)、「安倍首相の『招待者の取りまとめなどに関与していない』との説明は」(納得できる23%、納得できない68%)、「英語の民間試験活用に」(賛成35%、反対49%)などである。

 

 しかし、問題の本格的な展開はこれからだろう。いくら読売・産経が「済んだこと」にして問題をチャラにしようとしても、新しい事実が次から次へと出て来るのだからとても幕引きなどはできない。今後もまた、引き続き各社の世論調査が行われるだろうから、その時の結果が現状からどのように変化するのかが注目される。

 

加えて、今月24日に行われる高知県知事選挙の結果も大きな影響を与えるだろう。共産系候補を野党統一候補にして戦われている県知事選挙は今までにも例がないだけに、関心は著しく高い。野党各党党首はともかく野田・岡田両氏までが応援に駆け付けていると言うのだから、前代未聞だと言っていいぐらいの政治現象がそこに展開している。乞うご期待である。(つづく)