安倍首相の真珠湾訪問は稲田防衛相靖国参拝の露払いだったのか、国内外の世論を欺く「両面外交=二枚舌外交」は必ず破綻する、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(3)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その34)

 暮れに親しいジャーナリストたちと忘年会を兼ねて忌憚のない意見交換をした。その時に一致した結論は、来年は必ず安倍政権に危機が訪れるというものだ。内閣支持率は高止まりで推移しているし、アベノミクスの破綻は明白なのに「まだ道半ば」と言えば、国民は何とか許してくれる。なのに、どうして安倍政権に危機が訪れるというのか。

意見交換会は安倍首相の真珠湾訪問前だったので、話題は安倍首相の外交評価が中心だった。日露首脳会談は不調だったが、直後に首相はテレビ各社をハシゴして懸命に弁明し、何とか失点を食い止めた。NHKなどでは御付きの女性記者を従えて熱弁を振るい、ニュースキャスターももっぱら相槌を打つなどして番組を盛り立てていた。これでは善良な視聴者は、なにか成果があった(に違いない)と思うだろう。

安倍首相の真珠湾訪問は、行く前から世論の高い支持を得ていた。8割から9割の人が「評価する」と回答しているのだから、成功間違いなしというわけだ。事実、真珠湾訪問直後の12月28、29の両日、日経新聞と読売新聞が緊急世論調査したところ、いずれも85%前後が「評価する」と回答している。内閣支持率も60%前半にまで上昇した。全てが思惑通りにいったので、休暇に入ってからのゴルフもさぞ楽しかったことだろう。

だが突如というべきか、予定の行動というべきか、安倍首相の真珠湾訪問に同行した稲田防衛相が帰国翌日の12月29日早朝、A級戦犯が合祀される東京・九段下の靖国神社に参拝したのである。稲田氏は人も知る極右主義者で初当選した翌年の2006年、「伝統と創造の会」を設立し、以降、毎年8月15日の終戦記念日靖国神社に参拝してきた。今年8月3日に防衛相に就任してからも例年通り靖国参拝を予定していたが、首相官邸が手を回してその日にわざわざ海外視察の日程を組んだため、稲田氏はジブチ自衛隊視察の現場で(靖国参拝できなかったことに)悔し涙を流したという。

稲田防衛相は参拝後「防衛大臣稲田朋美」と記帳したことを明らかにし、報道陣に「最も熾烈に戦った日本と米国が今や最も強い同盟関係にある。未来志向に立って日本と世界の平和を築いていきたいという思いで参拝した」と語ったという(各紙、12月30日)。だが、稲田氏には過去にこんな発言がある。
――国民の一人ひとり、みなさん方一人ひとりが、自分の国は自分で守る。そして自分の国を守るためには、血を流す覚悟をしなければならないのです!」(講演会での発言)
――靖国神社というのは不戦の誓いをするところではなくて、「祖国に何かあれば後に続きます」と誓うところでないといけないんです」(『Will』2006年9月号)
――真のエリートの条件は2つあって、ひとつは芸術や文学など幅広い教養を身に付けて大局観で物事を判断することができる。もうひとつは、いざというときに祖国のために命をささげる覚悟があることと言っている。そういう真のエリートを育てる教育をしなければならない(産経新聞、2006年9月4日)

 安倍首相がオバマ大統領と真珠湾を訪ね、「日米の和解」を強調したばかりの翌日、稲田防衛相が靖国参拝するという唐突な事態をどう見ればいいのだろうか。朝日新聞はこの間の事情を、「関係者によると、稲田氏はその後もなお、参拝の機会を探ってきた。韓国が国内政局で混乱し、米国が政権移行期にある今なら反発を最小限に抑えられると判断したとみられる」と分析している(12月30日)。

これだと、今回の靖国参拝は稲田氏の独自判断で行われたようにも読めるが、果たしてそうなのか。私は、安倍首相が百も承知で「ゴーサイン」を出していたという疑いを捨てきれない。自らはオバマ政権に「歴史修正主義者」と烙印を押されることを避けるため、当分は靖国参拝を自粛しているものの、それでは国内の極右支持基盤に不満が蓄積するため、代理人としての稲田防衛相に靖国参拝を実行させて「ガス抜き」させたのではないかという疑念である。

考えてみれば、今回の安倍真珠湾訪問と稲田靖国参拝は、安倍・稲田共演の「両面外交=二枚舌外交」の展開であり、国内外の世論を欺く下手な芝居(田舎のプロレスとは言わない)ではないかという解釈も成り立つ。安倍首相がゴルフ場で記者団に稲田氏の靖国参拝について問われたとき、「そのことはノーコメントで」と言って、明確な発言を避けたことが一層の疑惑を掻き立てる。稲田氏の単独行動だとも言わないし、自らの指示だとも言わないような曖昧な返答が、国内はもとより真珠湾訪問したばかりのオバマ政権やアメリカの世論に対しても果たして通じるのか、子どもでもわかることだ。

今回の日経、読売の世論調査は、稲田防衛相の靖国参拝が報じられる以前の段階で行われた。28、29日のテレビ報道や新聞各紙の好意的な論評がそのまま回答に反映している。だが、年明けにこの空気がどうなるかは誰にも予測できない。安倍首相の首脳外交は、来年早々からも切れ目なく続くという。1月中旬にはオーストラリアと東南アジアを歴訪し、下旬には訪米してトランプ新大統領と首脳会談を開催する方向で日程調整が行われているそうだ(日経新聞、12月30日)。

だが、トランプ新大統領の求める日米同盟の役割分担の見直し(駐留米軍経費の全額負担など)に安倍首相がどう対応するのか、また中国・韓国の稲田防衛相の靖国参拝への反発にどう対処するかなど、新たな問題と課題が急浮上してきている。これまでは国民の内政への不満を外交上の「成果」でかわしてきた安倍政権がこの事態をどう乗り切るのか、いよいよ決算の日が近づいてきているように思える。

おそらく年明けには、今回のような瞬間風速的な高支持率を維持することは難しくなるだろう。その時に残された手段としては、「ガラガラポン」の解散・総選挙が行われる気配が濃厚だ。内政、外交の行き詰まりを突破するには解散・総選挙で空気を一新し、生まれ変わったような顔をして出直すのが一番だからだ。安倍政権は内閣支持率が高いがゆえに解散・総選挙に打って出るのではない。高支持率が崩れて政権の見通しが不透明になってきたがゆえに解散・総選挙をするのである。(つづく)

今年も拙ブログを読んでいただき感謝に堪えません。沢山の方に寄せていただいたコメントに対してもお礼を申し上げます。みなさま、よいお年をお迎えください。広原 拝