「信頼」と「説得」でトランプ大統領の「取引外交」に対抗できるのか、「日米同盟不変の原則」はアメリカ側の土俵なのだ、安倍政権はトランプ政権の「下駄の雪」でしかない、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(9)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その40)

安倍首相は1月28日夜、トランプ米大統領と電話で協議し、2月10日にワシントンで日米首脳会談を開くことで合意した。首相は大統領就任に祝意を伝えたうえで「就任直後から精力的に活動し、トランプ時代の幕開けを強烈に印象づけた」と表明し、「大統領のリーダーシップによって米国がより一層偉大な国になることを期待している。信頼できる同盟国として役割を果たしたい」「大統領の一挙手一投足に世界が注目している」「政権発足後、経済面での期待が高まっている」と話しかけた(持ち上げた)という。協議後、首相は記者団に「電話協議で経済や安全保障の課題などにおいて、日米同盟の重要性について確認をした。2月10日の日米首脳会談では経済、安全保障全般において率直な意見交換をしたいと思っている。有意義な意見交換をしたいと考えている」と語った(日経新聞、1月29日)。

 安倍首相は昨年11月、大統領選直後にトランプ私邸を訪ねて会談し、「同盟は信頼関係がなければ機能しない。トランプ氏はまさに信頼できる指導者だと確信した」と天まで持ち上げている。しかし、その直後にトランプ氏から「TPP離脱」表明を突き付けられて面目を失い、かつ大統領就任後は「TPPから永久離脱」との大統領令までが発動されるなど、もはや絶体絶命の窮地に立たされている。それでいながら、なおその後も「トランプ大統領を説得する」などと言い続けているのだから、およそ現実離れした人物だと言わなければならない。

 真相は、アメリカの目下の同盟者である安倍首相が、トランプ大統領の如何なる発言に対しても反論しようとしない(できない)ことにある。首相は1月24日、参院代表質問でTPPの意義を「21世紀の世界のスタンダードとなることが期待される」などと強調し、トランプ大統領が「永久離脱」を宣言した大統領令に署名する前も後も相変わらず同じ口上を繰り返している。原因は「米国を刺激したくない」(政府関係者)ので、トランプ氏への反論ができないのである(朝日新聞、1月25日)。

だが、ここにきてさすがの安倍首相ももはや逃げられなくなったのか、トランプ大統領がTPPに代わる2国間の通商協定交渉に入ることを要求していることに屈服して、通商問題を含めた日米経済関係を首脳会談の議題とすることを電話会談で確認したという(毎日新聞、1月29日)。朝日新聞も同じく次のように報じている(同)。
―日本政府は、トランプ氏から求められれば、米国との二国間の通商交渉を受け入れる考えだ。首相は訪米に麻生太郎副総理兼財務相を同行させる方針で岸田文雄外相の同行も検討する。日米関係を最重視している姿勢を強調する狙いだ。
―来月の首脳会談では、トランプ氏が日米間の通商交渉を求めるとともに、具体的な要求も突き付けてきかけない。とりわけ自動車貿易については繰り返し発言している。(略)安全保障についても、トランプ氏の出方は見通せない面がある。官邸幹部は「トランプ氏が大統領選中に言及した在日米軍駐留経費の負担増などを、通商交渉と絡めて突き付けてくることは十分あり得る」と警戒する。

公明党自民党の「下駄の雪」になってから久しい。いまや自民党からどんな無理難題を突き付けられても、公明党は「下駄の雪」よろしく「付いていくほかない」目下の存在に甘んじている。安倍政権も同様だ。「日米同盟は不変の原則」と強調する安倍首相にとっては、トランプ政権からどこまでも付いてくる「下駄の雪」と見なされても仕方がない(アメリカには下駄はないので、「靴底の雪」とでもいうべきか)。

おそらく安倍首相は、これまでのどの首相よりも日米関係の難しい局面に立たされるだろう。なにしろ相手は国際関係においても外交交渉においても「常識」が通じない相手なのだ。日米間に横たわるのは弱肉強食の「ジャングルの法則」であり、取引関係においては「ベニスの商人シャイロック」に比すべき獰猛な人物が相手となるのである。このような人物に対して「信頼」を旨とし、「説得」で事に当たるなどというのはタワ言以外の何物でもない。必要なのは獰猛な相手と渡り合えるだけの気力と知力であり、それは「自主独立」の立場と見識からしか生まれてこない。(つづく)