籠池国会証人喚問は国民の注目を集め、国際ニュースとなって世界を駆け巡った、森友学園疑惑はいまや安倍政権を揺るがす疑獄事件へと発展している、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(17)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その48)

 この2、3日はテレビの国会中継に釘付けだった。言わずと知れた森友学園疑惑がそのお目当てだ。なかでも3月23日の森友学園籠池理事長の証人喚問は圧巻だった。参院では例によって西田自民党議員(京都選出)が質問に立ったが、籠池証人を嘘つき呼ばわりして脅かすだけで、事態の究明につながる質問は何一つしなかった。その一方、財務官僚とのやりとりでは、西田議員が「こういう事実があるか」と聞くと理財局長が「ございません」とオウム返しする。一連の応答の後、「国有地売却で政治家の関与はなく手続きにも問題はなかった」と勝手に決めつけて終わり...。まあこんな具合なのだ。

 その一方、証人席の籠池理事長は余裕綽々だった。署名に手を震わせることもなければ、臆した様子もない。むしろ、ここ一番の大勝負に臨む勝負師の気迫さえ感じられる。籠池理事長は大阪では「天性の詐欺師」と言われているだけあって、度胸も据わっている。だから、自分だけを悪者にして逃げようとする政治家たちの名前を次から次へと挙げ、安倍首相夫人とのメールや電話での生々しいやりとりも容赦なく暴露した。極め付きは、首相夫人付きの女性官僚からファックスで送られてきた森友学園要望事項に関する一連の経過と結果を知らせた返答文書だろう。

これで、籠池理事長夫妻から安倍首相夫人への要望 → 首相夫人付き官僚の財務省国交省など関係省庁への照会 → 関係省庁からの回答 → 首相夫人付き官僚からの籠池理事長へ返答という一連の「口利き」ルートが判明した。何しろこのルートは首相夫人につながる「ホットライン」なのだ。籠池理事長夫妻が「命綱」と考えても不思議ではない。「命綱を断ち切られれば死ぬほかはない...」。籠池夫人が安倍首相夫人に訴えた気持ちがよくわかるというものだ。

籠池証人喚問の国会中継の視聴率は、関東では16%、関西では18%にもなったらしい。この種の番組としては異例の高視聴率だ。お陰で裏番組が軒並み吹っ飛んだという。全国の世帯数はおよそ5500万世帯だから、1000万近い世帯がこの国会中継を観ていたことになる。それだけではない。最近は録画しておいて時間のある時に観る人が急激に増えているので、これらを合わせると国民の4分の1ぐらいは観ていたことになるのではないか。事実、当日大阪であった研究会の後で立ち寄った居酒屋のお兄ちゃんは、国会中継を録画しているので家に帰ってから観ると言っていた。そこの女将さんも「下手なドラマよりもなんぼか面白いでっせ」と大評判なのだ。森友学園疑惑はいまや国民的関心事なのである。

森友学園疑惑をロッキード事件とのアナロジーで「アッキード事件」と呼んでいるジャーナリストも多い。ロッキード事件とは、端的にいえば「総理大臣の犯罪」である。森友学園疑惑を早くから「アッキード事件」とネーミングした鋭い嗅覚には驚くが、それが急速にリアル感を増している事態の展開の速さにも驚く。当初は「森友学園と関係があるなら国会議員も総理大臣も辞める」と啖呵を切っていた安倍首相も、事態を軽く見ていたからこそ大見得を切ったのであって、これほどのことになるとは予想だにしていなかったに違いない。自業自得とはいえ、安倍首相は今頃恐らく大失言だったと後悔していることだろう。「アベ友」で名高い田崎某テレビコメンテイターも、「言わなければよかった」と首相の気持ちを代弁して一緒に後悔している。彼らがグルになって国民を甘く見ていたツケが(ようやく)回ってきたのである。

自公与党および維新の会はいまや身に降りかかる火の粉を振り払い、事態の幕引きを図るのに必死だ。籠池理事長から「梯子を外した」として集中砲火を浴びている松井大阪府知事などは逆に居直り、「証人喚問に出てもいい」との攻勢に出ている。「攻撃は最大の防御」という若い時から喧嘩に負けたことがない経験を活かしての発言だろう。ならば、松井知事国会証人喚問はぜひ実現してほしい。おそらく関西での国会中継視聴率は20%以上に跳ね上がり、居酒屋での酒飲み話にも一段と弾みがつくに違いない。

安倍首相にとってもう一つの難題は、森友学園疑惑が国際的に拡がることだ。「地球儀外交」を掲げ、内閣支持率が下がるとみるや不要不急の外交日程を組んで世界を飛び回り(国民の税金で)、帰国後には御付きのNHK政治部記者を従えてニュース番組で得々と語るというこれまでの定番手法が難しくなってきたのである。外国首脳とにこやかに握手を交わすには、それなりの国際的評判を背景にしていなければならない。しかし、安倍首相はトランプ大統領との親密関係を誇示することで世界の物笑いになり、今度は「ウルトラ・ナショナリスト」(極右、国粋主義者)絡みのスキャンダルともなれば、地球儀外交の影も薄くならざるを得ないだろう。

3月23日の国会証人喚問後に開かれた日本外国人特派員協会での籠池理事長記者会見は、国内外の約70社の記者が集まり質問の集中砲火が続いた。その会見模様は各社電子版として即世界中に広がり、英紙ガーディアンは「安倍晋三夫妻、ウルトラ・ナショナリスト国粋主義)学校に寄付の疑い」とも見出しで一連の事態を報じ、米CNNは、日の丸を背景に籠池氏と安倍夫妻、稲田朋美防衛相を組み合わせた写真を使い「名誉校長」「防衛相との関わり」などの項目を立てて詳報した。「外国メディアにとって最大で唯一の関心は、安倍首相が生き残るかどうかだ」、「首相の退陣につながるとすると重要な国際ニュースになる。それだけ国会での証人喚問は劇的だった」というのが記者たちの感想である(朝日新聞2017年3月24日)。

 今後、政局はどう動くか予想もつかない。安倍政権があくまでも白を切り、自公与党と維新の会が結託して幕引きを図るというシナリオはもはや崩れて使えない。とすれば、残るカードは安倍首相の辞任か、それとも総選挙か、あまり多くのカードは残されていない。少ないカードで「一か八か」の大勝負に出るかどうか、全ては安倍首相の胸先三寸に懸かっている。(つづく)