「大山鳴動してトカゲ(の尻尾)1匹」、されど国民の疑いは晴れない、佐川氏の答弁拒否は「安倍案件」の闇の深さを物語る、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その110)

 3月27日、衆参両院での佐川証人喚問の様子を逐一テレビ中継で見た。喚問は、参院の金子委員長の尋問からはじまり、委員長から決裁文書の改ざんを「知っていたのか」「誰が、いつ、どのような動機で行ったのか」と問われると、佐川氏は「私は現在、捜査を受けている身。訴追の恐れがあるので答弁を差し控えたい」と証言を拒否した。この冒頭答弁にみられる佐川氏の答弁拒否姿勢は終始一貫して変わらず、衆院証人喚問でも最後の最後まで続くことになる。NHKニュースによれば、佐川氏の答弁拒否の回数は両院合わせて「少なくとも46回」に上ったという(私は途中で数えるのを止めた)。

一方、14件300カ所にわたる広範な公文書改ざんに関して「理財局だけで判断したのか」「財務省幹部や政治家の関与はなかったのか」との問いに対しては、佐川氏は「国有財産に関する個別案件であり、理財局の中で対応した」「財務省の官房部局や総理官邸には報告していない」と証言した。そして、「理財局長の職にあった者としての責任」を問われると、「国会で大きな混乱を招き、行政の信頼を失う事態となったことについて、誠に申し訳ない」「当時の理財局長として責任はひとえに私にある」と謝罪し、理財局単独犯行説を滔々と展開した。

要するに、政府・与党との綿密な打ち合わせの中で練られた佐川証言のシナリオは、(1)公文書改ざん事件に関して安倍首相夫妻や官邸などから指示を受けたことは一切ない、(2)公文書改ざんは財務省理財局があくまでも単独でやったこと、(3)しかし、その経緯や動機などについては捜査中なので話せない...というものだろう。つまり、安倍案件に関する疑惑の中身は一切話さないで、政府は無関係だとの表面的な結論だけを繰り返し述べるという筋書きだ。国家統治機構の根幹を揺るがす公文書改ざんという「大山鳴動」を、理財局ひいては佐川氏個人の責任に押し付けるという「トカゲの尻尾切り」で終わらせようとする作戦なのだ。

 佐川氏本人は「筋書き通りうまくいった」と思っているだろうが、それを引き出そうとした自民党議員の質問が稚拙極まりないものだった(余りのレベルの低さに呆れた)。午前中の丸川議員などは、なんら根拠を示すことなく「総理から指示を受けたことはありませんね」、「総理夫人から指示を受けたことはありませんね」と証人にわざわざ念を押す始末。これでは「喚問」というよりも「強要」であり、相手の主張を糺すというよりは質問者の意見に従わせようとする魂胆が丸見えだ。この手法を「官房長官は」「官房副長官は」「総理秘書官は」「財務大臣は」と次々と繰り返し、その都度佐川氏がオウム返しに「(指示は)ございませんでした」と答えるのだから、誰が見ても「八百長」か「やらせ」としか思えない。

 加えて、午後には別の自民党議員が「午前中は総理や官邸から指示はないとの明快な答弁をいただいた」と何回も証人に確認を求め、佐川氏からはその都度「間違いございません」との答えさせるのだから、これまた噴飯ものとしか言いようがない。こんなダラダラとした質問が続く中で委員会室では居眠りをしていた自民党議員もいたというから、よほど退屈だったに違いない。安倍首相のいう「丁寧な説明」を勉強した議員や官僚の「丁寧な質問」「丁寧な答弁」とは、およそこんなことをいうのだろう。

 さらに呆れたのは、証人喚問終了後に二階自民党幹事長が「これで国民の疑いは晴れた。明日からは粛々と予算審議や関連法案の審議に入りたい」と言い放ったことだ。「誰が、いつ、どのような動機で行ったのか」という野党質問には何一つ答えず、悉く答弁拒否した(させた)佐川氏の答弁によって「国民の疑いが晴れた」などとはよく言えるものだ。バカも休み休み言ってほしいと思う。自分たちの(低)レベルに合わせて国民を同一視するなど、この政党の驕りと劣化は今や「底なし状態」だといわなければならない。

 安倍政権(行政府)は、公文書改ざんという犯罪行為によって国会(立法府)を騙し続け、あまつさえ国会での真相究明を回避して解散に持ち込み、野党陣営の混乱に乗じて3分の2の議席を掠め取った。その上、証人喚問においても依然として答弁拒否状態に持ち込んで国会審議を空洞化し、国民の疑問に蓋をしようとしている。その背景には、安倍政権(行政府)による国会(立法府)支配はもとより、司法支配さえが視野に入っていると思わざるを得ない。

そのことは、佐川氏が衆院での証人喚問の最後に「自分の答弁拒否で事態が解明されず、野党からお叱りを受けていることは承知している。しかし、この問題は司法が解明することだ」と呟いた言葉に象徴されている。検察はすでに籠池夫妻の長期拘留という形で証言封じに協力してことからも、安倍政権は公文書改ざん事件の立件はないものとみなして政治日程を組んでおり、そのことが佐川氏の証言拒否という強硬姿勢に通じているからだ。

 だが、安倍首相も自民党も国会から一歩外に出れば、証人喚問とは別世界の世論に包囲されていることに気付くはずだ。佐川氏も財務省も国民世論が彼らの「筋書き通り」にならないことは百も承知していると思う。すでにその兆候はあらわれている。内閣支持率が急落していることに加えて、マスメディアの姿勢がこの間、日に日に変化しているからだ。昨日の証人喚問後にNHKはこれまでの報道姿勢を修正し、「書き換え」を「改ざん」と呼ぶことを決定した。また証人喚問に対するコメントも政治部デスクに限定せず、社会部・経済部のデスクを同席させて盛んに発言させている。政治部が寡黙なのに対して社会部が発言力を高めている有様は、「みなさまのNHK」の復活を感じさせる。次の展開を期待したい。(つづく)