北朝鮮情勢緊迫化のなかでの世論調査、対外軍事攻撃に対する国内世論や内閣支持率はどう変化したか、国民世論は「脱安倍」へと着実に向かい始めた(21)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その52)

 北朝鮮平壌では4月15日午前、故金日成(キムイルソン)国家主席の生誕105周年を祝う軍事パレードが行われた。朝鮮中央テレビがパレードを生中継して金正恩朝鮮労働党委員長などの首脳部の面々や新型ミサイルなどを生々しく映し出し、軍事力の強化を印象づけた。また翌16日には、ペンス米副大統領の訪韓に合わせて(失敗はしたが)弾道ミサイルを発射するなど、相変わらずの挑発行動を繰り返している。

一方、訪韓中のペンス米副大統領は17日、ソウルで韓国大統領代行の黄教安首相と会談し、「北朝鮮はこの(北東アジア)地域の米軍の力を試さない方がいい」(軍事挑発すると北朝鮮は大変なことになるよ)とのこれまでにない直接的な表現で北朝鮮を牽制した。ペンス米副大統領は同日、北朝鮮との軍事境界線に接する非武装地帯(DMZ)の警戒所を訪れ、現地での演説では北朝鮮への対応について「すべての選択肢はテーブルの上にある」とあらゆる軍事的行動を排除しない強硬姿勢を改めて示した。

 安倍政権は17日、北朝鮮が日本領海内に弾道ミサイルを発射した場合、自衛隊への防衛出動の発令が可能となる「武力攻撃切迫事態」に認定する方向で検討に入ったという。核・ミサイル開発を進める北朝鮮による挑発行為が増長するなか、適切な防衛態勢を整える必要性があると判断したらしい(読売新聞4月18日)。北朝鮮情勢の緊迫化を「千載一遇の機会」として利用し、一挙に軍事態勢を強化するつもりと見える。それはまた国民の警戒心を煽り、強硬姿勢を打ち出すことによって国民世論を引き付けようとする宣伝作戦の一環でもある。

 前回の拙ブログで、私は次のように指摘した。―かねがね北朝鮮の脅威を強調して国内世論を操作してきた安倍政権にとって、これほどの好機はない。アメリカのシリア攻撃は、安倍政権にとっては「森友疑惑」から国民の目をそらす前項の機会(神風)であり、かつシリア攻撃に乗じて北朝鮮批判の世論をさらに高め、一挙に軍事力増強を実現する一石二鳥の機会が訪れたというわけだ。それはまた、低下し始めた内閣支持率を回復させるために、政策の重点を内政問題から外交問題に転換させる一大契機としても認識されているに違いない―。

 こんな折も折、朝日、産経は4月15、16両日、読売は14〜16日に北朝鮮情勢緊迫化の最中に世論調査を実施した。安倍政権にとっては「最高」の条件の下で行われた世論調査がどのような結果になったかは、これからの世論動向を考えるうえで大きな参考材料になる。まずは3紙の質問項目と回答結果をみよう。

朝日の調査項目16問の内訳は、内閣・政党支持4問、「共謀罪」3問、森友疑惑2問、沖縄米軍基地2問、北朝鮮関係2問、教育勅語・シリア攻撃・宅配サービス各1問となっている。質問は「共謀罪」に重点が置かれ、単なる賛否だけではなく、その内容に踏み込んで意見を求めているのが特徴だ。

北朝鮮関係については「ミサイル発射や核開発に脅威をどの程度感じるか」「トランプ政権の北朝鮮に対する軍事的圧力の姿勢を支持するか」の2問だが、前者は「強く感じる」56%、「ある程度感じる」34%、後者は「支持する」59%、「支持しない」25%であり、回答者の大半が北朝鮮情勢に脅威を感じ、トランプ政権の「軍事外交=力による平和主義」を支持していることがわかる。このことは取りも直さず、安倍政権の掲げる「日米同盟ファースト」に国民世論が傾斜する背景になっている。

読売は14問のうち、内閣・政党支持3問、北朝鮮関係3問、安倍経済政策2問、森友疑惑2問、東京都関係2問、「テロ準備罪」・シリア攻撃各1問である。北朝鮮関係については、朝日と同様に「北朝鮮の脅威をどの程度感じるか」「アメリカの軍事的圧力を評価するか」に関しては、前者は「大いに感じる」60%、「多少は感じる」33%、後者は「評価する」64%、「評価しない」27%といずれも同じ結果が出ている。

しかし読売調査の真骨頂は、アメリカのシリア攻撃や北朝鮮への軍事圧力に同調する安倍政権に関する国民世論の動向を確かめ、安倍政権がこれから踏み出そうとしている「武力攻撃切迫事態」への対応、すなわち自衛隊の対外武力行使を可能にするような世論状況をつくり出そうとすることにある。それが「日本は、外国からミサイル攻撃を受けることが明らかな場合に、事前に相手国の基地などを攻撃する能力を持つことを、検討すべきだと思いますか、思いませんか」という質問である。回答は「思う」58%、「思わない」35%だから、読売にとってはまさに「わが意を得たり」という結果になったのだろう。

産経は15問のうち、内閣・政党支持2問、北朝鮮関係3問、シリア攻撃2問、韓国慰安婦問題2問、憲法改正2問、「共謀罪」・天皇退位・日米2国間貿易交渉・小池都知事各1問である。産経は、読売以上にシリア攻撃や北朝鮮情勢を利用してわが国の軍事態勢強化とそれを可能とする改憲に誘導しようとする姿勢が露骨であるが、それが端的に表れたのが「自民党北朝鮮が実際に日本に向けて弾道ミサイルを発射した場合、2発目以降の弾道ミサイルを発射させないように敵基地反撃能力の保有を検討するよう政府に進言した。あなたの考えに近いものは次のどれですか」との質問だ。

これに対する回答は、「北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射していなくても、発射する具体的な構えを見せた段階で北朝鮮の基地を攻撃すべきだ」31%、「北朝鮮が実際に弾道ミサイルを日本に向けて発射したあとに限るべきだ」45%、「北朝鮮が実際に弾道ミサイルを発射しても、日本は北朝鮮の基地に反撃すべきでない」19%という恐るべきものになった。アメリカのシリア攻撃が、国際法や国連決議のいずれにおいても「違法」だと国際的に批判されているその時、憲法9条を遵守する日本が「敵基地」に「先制攻撃」を加えることの是非を問う世論調査が堂々と実施される事態は戦慄すべきものがある。

このような世論状況が安倍政権の内閣支持率とどう連動しているのか、また今後の情勢の変化に応じて変動するのか、それとも依然として高止まりで推移するのか、次回はそれを考えてみたい。(つづく)