安保法案反対世論など「どこ吹く風」といわんばかりに国会では強行採決の日程が着々と進んでいる、だが、強行採決は安倍政権に致命的打撃を与えて安倍首相を退陣に追いこむだろう、大阪都構想住民投票後の政治情勢について(5)、橋下維新の策略と手法を考える(その43)

 安倍首相が自民党若手(安倍チルドレン)勉強会での報道弾圧発言や沖縄県民を侮辱する百田発言などに対して謝罪したその日、7月3日の衆院特別委員会では8日に一般質疑、10日に安倍首相が出席しての集中審議、そして13日には採決の前提となる中央公聴会を開催することが決まった。本来ならば、国会審議が何日も止まってもおかしくないような由々しき事態なのに、まるで何事もなかったかのように安保法案強行採決の日程が着々(粛々)と進んでいく。安倍首相にとっての国会は、もはや「議論する場」ではなくて「多数決で採決する場」としか映っていないようだ。

 だが、これとは逆に国会の外では安保法案反対の世論がますます高まっている。安保法案反対の国民世論が強固であることは、早くからマスメディア各社の世論調査によって指摘されていたが、それが今年5月、6月段階で決定的となり、7月段階では(もはや読売新聞でさえも認めざるを得ないような)確固とした国民世論として形成された。つまり安保法案反対→安倍内閣不支持→自民党不支持という世論の流れがいま加速度的に進行しつつあるのである。それを余すところなく立証したのが、7月6日発表の読売世論調査(7月3〜5日実施)だろう。

 安保法案が国会で議論されている真最中の世論調査なのだ。「社会の木鐸」として最も国民世論の動向に敏感でなければならないマスメディアは、自らが実施した世論調査の結果を第1面で詳しく分析し、政権に対して国民世論の在り処を示さなければならない(その責任がある)。しかし、読売紙読者は驚いたことだろう。調査結果に関する記事は2面中段でさりげなく掲載され、しかも見出しが「新国立『見直すべき』81%、本社世論調査 内閣支持率低下49%」と小さくしか書かれていないのだ(私も探すのに苦労した)。

産経新聞の6月世論調査のときもそうだったが、読売新聞も自らが実施した世論調査によって、これまでの主張すなわち安保法案を成立させて憲法を改正するという「社是」が否定される―――と言う「究極の自己矛盾」に陥っているのである。だから書きようがなくて調査結果の数字だけを並べ(分析がまったくない)、しかも見出しには今回だけの質問の「新国立競技場設計の見直し」を持ってくると言う本末転倒の紙面づくりしかできない。編集局(デスク)として恥ずかしい限りだ。ならば、読売紙に代わって私が調査結果を分析しよう。各項目の数字は、読売調査の直近の数字(5月→6月→7月)の流れを比較したものである。

●安保関連法案の整備に「賛成」46%→40%→36%、「反対」41%→48%→50%
●安保関連法案を今国会で成立させることに「賛成」34%→30%→25%、「反対」48%→59%→63%
安倍内閣を「支持する」58%→53%→49%、「支持しない」32%→36%→40%
自民党「支持」43%→38%→35%

 まるで絵に描いたように安保法案に反対する世論が増え、それとは逆に安倍内閣支持率と自民党支持率が下がってきているではないか。いわば、両者は「シーソー」の関係になったのであり、産経・読売紙が望むような世論状況すなわち安保法案を推進する安倍内閣自民党が世論の支持を受けるような状況がもはや過去のものとなり、事態は逆転したのである。

 このことは、同じ7月6日に発表された毎日新聞世論調査(7月4、5日実施)ではもっとはっきり出ている。毎日紙は1面で「安倍内閣不支持上回る」と大きく伝え、「安倍内閣の支持率は13年3月に70%に達した後、徐々に低下し、14年6月以降は40%台半ばで横ばい状態が続いていた。今回の42%は衆院選のあった14年12月の43%をわずかに下回り、第2次、第3次内閣では最低を記録。一方、不支持率は初めて40%台になった。(略)安保法案に対する世論の批判や、言論圧力問題への反発が内閣支持率低下につながったとみられる」と明快に分析している。

 おそらくここ数日の間に、マスメディア各社の7月世論調査の結果が出揃うことになる。安倍政権は7月15、16日あたりに衆院特別委員会での強行採決を「予定」していると言うが、国民世論が「安保法案反対」のピークに達している状況の下での強行採決がいかなる世論の反発を呼び起こすかは全く予想できない。安倍首相は7月6日の政府与党連絡会議で「政権与党におごりや油断が生じれば、国民の信頼は一瞬にして失われる。原点に立ち返って信頼回復にまい進する」と述べたというが、彼の念頭にあるのは自民党若手勉強会での報道圧力発言など党内のことだけで、国民世論のことなど全く眼中にはないらしい。

 だが、安倍政権への「国民の信頼」は一瞬にして失われるどころかすでに失われている。安保法案の採決強行は「安倍内閣退陣」の引き金となり、やがては来年参院選での「自民党大敗」へと波及していくだろう。(つづく)