無理が通っても道理は引っ込まない、国会審議の中で次々と暴露される森友疑惑の真実、立憲民主を軸とした新野党共闘は成立するか(14)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その101)

 おそらく国会審議が始まるまでは多寡を括っていたのだろう。森友・加計疑惑の追及は野党共闘の分断でこのまま沈静化する、もうこれ以上の新しい材料は出てこない、従来通りの答弁を繰り返していればそのうちに時間が過ぎていく、内閣支持率も上向いているなどなど、楽観的観測が安倍政権を覆っていた。

 NHKの国会討論会でも、野党の発言は立憲民主党希望の党民進党共産党と分散し、これまでの自公与党と野党の対決構図は一変した。与党側の発言が自公+維新となって一段と強化されたのに対して、野党側は発言内容も力点の置き方もバラバラで著しく精彩を欠け、司会者の機械的な仕切りも相まって討論会とは言えない有様だ。これでは、安倍政権が思うがままに事態は改憲一直線へと進むのではないか―、と懸念していた。

 だが、国会前半の生ぬるい与野党攻防の空気が一変したのは、2月1日参院予算委員会での辰巳議員(共産)の鋭い追及だった。佐川前理財局長が一貫して否定してきた森友学園との交渉関連文書が財務省に存在することを太田現理財局長が一転して認め、会計検査院には文書の発見が遅れたので検査中に提出しなかったと答弁した。それまでは交渉記録の存在に「気付かず」、会計検査院報告書が出される直前(1日前)に「発見」して提出したというのである。

 しかも太田理財局長は、これらの関連文書の存在に早く気付いていれば、財務省の主張はもっと早く理解されたはず、「発見が遅れたのは誠に残念でならない」とまくし立てた。そして、その舌の根も乾かないうちに公表されていない関連文書が新たに存在することを認めるのだから、これは三百代言どころの話ではない。これからまだまだ「新しい気付きと発見」が続き、そして相変わらず「発見が遅れて残念だ」と言うのだろう。

私はこのやりとりを国会中継で見ていて、役人とはかくも平然とウソをつくものかと心の底から憤慨した。これまで数多くの国会中継を見てきたが、これほど酷い答弁に接したのは初めてだからだ。太田局長当人は何一つ良心の呵責を感じていないのだろうが、しかし答弁席に並んでいた関係省庁の役人たちの表情は険しかった。心の中ではきっと財務省の答弁を苦々しく思い、上は財務相から下は理財局長まで腐っていると心底思っていたに違いない。

加えて、森友学園の籠池前理事長夫妻が近畿財務局の役人たちと国有地払い下げについて協議した新たな音声データも発見された。その中には、安倍首相夫人の昭恵氏が籠池前理事長に財務省で担当室長と面会した直後に電話をかけ、「どうなりました? 頑張ってください」との応援メッセージが録音されていた。ところが、安倍首相はこの音声データの発言内容について問われると、籠池発言は信用できないとしてこれも逃げの答弁ばかり。昭恵夫人のことについてはすべて自分が答えるとした前言を翻して、いっこうに説明しようとしない。辰巳議員に追い詰められて漸く昭恵夫人に聞くと答えたが、額に汗が滲んでの苦し紛れの答弁だった。

どれだけの人が国会中継を見ていたかはわからないが、この情景を目前にすれば、首相が「黒を白」と強弁していることはもはや明々白々だろう。安倍首相が事実を以て反論できず、すり替えとごまかしを重ねて逃げる以外、もう道がないところまで追い詰められている様子がよく分かるのだ。そんなこともあってか、最近は報道機関に対する安倍首相の感情的な誹謗中傷も度を増してきている。とりわけ朝日新聞は「目の敵」らしく、事あるたびに裏付けを取らないで記事を書いていると非難している。

どうやら、安倍首相はトランプ大統領にますます似てきたようだ。トランプ大統領は、自分に不都合な記事を書かれると「フェイクニュース」だと決めつけて関係報道機関を非難する。挙句の果ては記者会見の席上でも関係記者の質問を拒否し、答弁すらしない。トランプ大統領と「100%共にある」安倍首相も、これに倣って気にいらない報道機関を早晩締め出すかもしれない。また国会審議でも、辰巳議員のような追及に対しては「フェイク質問だ」と決めつけて答弁を拒否するかもしれない。

 安倍首相の信条には、「無理が通れば道理が引っ込む」という言葉が固く刻み込まれているのだろう。安倍首相の国会答弁も国会運営も全てこのことを裏書きしている。だが、世論を見くびってはいけない。「無理が通っても道理は引っ込まない」こともあるのである。安倍首相は追い詰められてきている。「無理が道理に屈する」日はそれほど遠くないところまで来ている。(つづく)