2025大阪万博誘致は安倍首相と維新の〝共同作戦〟だった、大阪ダブル選挙での維新敗退は安倍政権崩壊の引き金になるか(2)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その146)

 

 

松井知事が府議会で万博誘致を表明した頃(2014年9月)、大阪万博はまだ「夢物語」だった。ところが、都構想が住民投票で否決され(2015年5月)、橋下市長が辞任して維新が政治危機に陥ってからは、万博誘致は大阪維新が生き延びるための最大の政治懸案となった。松井・吉村両氏が都構想再挑戦を掲げてダブル選挙に当選した直後から万博誘致活動が本格化し、恒例の安倍首相や菅官房長官との年末会談(会食)の中で具体化の話が始まった(2015年12月)。この時から、大阪万博は事実上の国家事業としてスタートすることになったのである。

 

 安倍首相と菅官房長官が一地方首長にすぎない松井氏ら維新幹部と異例の会談を重ねる背景には、(1)維新を改憲勢力の一翼に組み入れる、(2)安倍政権の成長戦略である「観光立国政策」にカジノ産業を導入するため、大阪万博誘致を「隠し玉」として利用する―との意図が見え隠れする。安倍政権が大阪維新の要請に対して渡りに船とばかり乗ったのは、大阪万博が「カジノ誘致」の千載一遇の機会になると見込んだからだ。万博会場となる大阪湾の埋立地は、市街地から隔離された無人島なのでカジノ誘致反対運動も起こりにくい、開発主義の「負の遺産」である使い道のない不良資産を処理するとあれば世論の賛成も得られる―と踏んだのである。そして維新との会合からわずか1年半、異例中の異例ともいうべきスピードで万博誘致が閣議了解されたのである(2017年4月)。

 

 カジノ産業の合法化は、関係業界にとって長年の悲願だった。その道筋をたどると、民主党政権時代に自民・民主・公明など超党派議員による「国際観光振興議員連盟」(以下、「IR連盟=カジノ連盟」という)が結成され(2010年)、安倍政権登場後はその勢いが一気に加速した。まず、維新が先陣を切って「IR推進法案」を提出し(2013年6月、審議未了)、続いて安倍政権の『日本再興戦略改定2014』の中に「統合型リゾート(IR)の検討」を明記されて政府の基本方針となった(2014年6月)。これを受けて自民・維新などによる「IR推進法案」が再提出され(2015年4月)、与党公明の反対を押し切って同法案が可決された(2016年12月)。それから1年半後、今度は大阪万博誘致に間に合わせるため、安倍政権は国会審議で満足な答弁もせず、強行に次ぐ強行日程で「IR整備法」を成立させた(2018年7月)。これは、2018年11月の博覧会国際事務局総会(パリ)を目前に控え、大阪万博誘致を実現するには、「カジノ・シンジゲート」の国際的後押しを得る必要があったからである。

 

 こうした国会審議の経緯をみると、維新と安倍政権が共同作戦で「カジノ産業合法化」と「統合型リゾート(IR)実現」を追求してきたことがわかる。しかし、それが「絵に描いた餅」にならないためには、具体的な候補地が準備されなければならず、しかも国民世論と当該地域の支持を得なければならない。IR推進法の成立直後に閣議了解された2025大阪万博誘致は、まさにカジノ産業合法化のための「隠し玉」であり、「いのち輝く未来社会のデザイン・大阪構想」という耳障りのいいキャッチコピーで地域世論を包絡しようとする維新の政治戦略でもあった。

 

 だが、大阪万博誘致にはもう一つの顔がある。大阪万博は、東京オリンピック後の景気浮揚策の切り札であり、地盤沈下を続ける関西経済を復活させる決め手だなどと喧伝されているが、その素顔があらわになったのは、アメリカの独立系非営利報道機関『プロパブリカ』の報道がきっかけだった。東京新聞はその模様を次のように詳しく伝えている(2018年10月12日)。

 

 「トランプ米大統領が2017年2月に安倍晋三首相と米南部フロリダ州で会談した際、自身の有力支援者が経営する米カジノ大手『ラスベガス・サンズ』に日本参入の免許を与えるよう検討を求めた、と米メディアが報じた。首相は直前の首都ワシントンでの日米首脳会談ではカジノに関する話はしていないと国会で答弁しているが、フロリダでのやりとりは説明していない。今月下旬召集の臨時国会で論点に浮上する可能性がある」

 「首相は17年2月10日、ワシントンのホワイトハウスでトランプ氏と初の首脳会談を行った後、一緒にフロリダ州パームビーチに移動。翌11日にかけて、トランプ氏と再度の会談や夕食会、ゴルフを行った。調査報道専門で信頼性が高いニュースサイト『プロパブリカ』によると、トランプ氏はパームビーチの別荘で首相と会った際、大口献金者のシェルドン・アデルソン氏が会長を務めるラスベガス・サンズの日本へのカジノ進出に関する話題を提起。首相は『情報を提供してくれてありがとう』と謝意を示したという。首相はフロリダ訪問前のワシントンでの米国商業会議所主催の朝食会で、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備推進法が施行されたと紹介。その席にはアデルソン氏もいた。首相は今年7月の参院内閣委員会で、ワシントンでの首脳会談に関し『トランプ氏との間で(カジノを巡る)やりとりは一切なかった』と明言した。6月の衆院内閣委では『外国首脳の推薦に従って事業者を採用することはあり得ない』とも語っている」

 「アデルソン氏は17年9月、カジノ誘致を目指す大阪府庁を訪問した際、日本のカジノ事業で厳しい面積規制を導入しないよう記者団に訴えた。7月に成立したIR整備法には、政府案に当初盛り込まれていた面積上限の数値は含まれず、結果的に米側の要望に沿う内容になった。菅義偉(すがよしひで)官房長官は11日の記者会見で米国で報道された内容について『首相が国会で答弁した通りだ』と繰り返した」

 

 これらの報道からすると、安倍首相と維新の共同作戦は一見着々と進んでいるかのように見える(見えた)。だが、そこに降って湧いたのが維新の「入れ替わりダブル選挙」である。維新が敗退すれば「カジノ誘致」が頓挫しかねない、安倍首相のトランプ大統領との約束が反故になる。こんなことを憂慮した菅官房長官は、了解を求めに訪れた松井知事に対して翻意を促したと言うが、松井氏は聞き入れなかった。公明との「子どもの喧嘩」が「大人の喧嘩」になり、維新はもはや引くに引けない状況に追い込まれていたからだ。

 

 維新と対決する小西・柳本両候補の選挙公約をまだ見ていないのではっきりしたことは言えないが、どうやら「カジノ誘致」の項目は取り下げないらしい。これに対して野党陣営はどう出るか。明確な「カジノ誘致反対」の公約を迫るのか、勝手連的に支援する形で触れないでおくか、まだ態度が決まっていないと言う。また、安倍首相が小西・柳本両候補と会って激励したのは、「カジノ誘致」が条件だったのか、それとも形式的な会見だったのか、本当のところは分からない。いずれにしても選挙戦が始まれば真相は見えてくる。次の機会に報告したい。(つづく)