野党連合政権構想と「赤旗危機」のギャップをどう埋めるのか、京都で2019年参院選の結果を巡る討論会があった(4)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その169)

8月上旬に拙ブログを書いてからもう1カ月近くになる。別にサボっていたわけではないが、他の原稿に時間をとられていたのでまとまった時間が割けなかったのだ。気軽に書くのがブログだと分かっていても、私の場合はどうしても政治評論のような内容になるので簡単に書けない。新聞を丹念に読んでデータを具体的に分析し、納得できるストーリーが見つかるまではなかなか筆が進まないのである。

 

言い訳はこれぐらいにして本題に入ろう。今回は「赤旗」(2019年8月28日、29日)に連続して掲載された2つの対照的な記事についての感想と分析である。前者は「野党連合政権構想について、志位委員長会見 一問一答から」、後者は「『しんぶん赤旗』と党財政を守るために」(財務・業務委員会責任者)というものだが、両者の間には〝夢と現実〟と言えるほどの大きな(隔絶した)ギャップがある。このギャップを埋めない限り「夢」は到底実現できないと思うが、そのカギとなる「第3の記事」が見つからないのである。

 

志位委員長の記者会見の要点は、国会で多数を占める野党連合政権を実現するためには、(1)政権をともにつくるという野党間の確かな政治的合意が必要であること、(2)政策については、政策的一致点を確認して魅力あるものに充実させるとともに、不一致点については政権運営の障害にならないようにきちんと処理して政策合意をすること、(3)総選挙での選挙協力とりわけ小選挙区における候補者調整は、政権合意を基礎に進めたいこと―の3点である。

 

この呼びかけは、過去3回の国政選挙(2016年参院選、2017年衆院選、2019年参院選)における野党共闘が一定の成果を挙げたものの、政権合意を抜きにした選挙協力であったために、結果は共産の一方的サービス(候補者降ろし)に終わり、共産自体は党勢の後退を余儀なくされるという苦い経験と反省に基づくものだろう。

 

共産からすれば大義のある呼びかけのつもりだろうが、野党間の思惑や取引が「百鬼夜行」とも言える現在の状況の下では、このような呼びかけが各党にすんなりと受け止められるとは考えにくい。有体に言えば、政権合意が必須条件の与党でないから「野党」なのであり、各党バラバラなのが野党の自然な姿である以上、結局のところ「本気の野党共闘」は各党の命運が尽きる、あるいは命運が尽きる恐れがあるギリギリのところまで行かなければ実現しないのではないか。

 

それでは、野党共闘が現実味を帯びる状況とはどういうものか。政党の消長を測る指標が選挙であることは言うまでもないが、それ以外は世論調査における政党支持率の推移が目安になる。この場合、野党共闘が実現する条件と言えば、(1)野党第1党が相当水準の支持率を確保し、(2)野党各党の支持率合計が与党支持率に迫る勢いを見せ、(3)無党派層が「野党寄り」になる場合などを挙げることができるが、これらいずれの条件を取って見ても現状は程遠い状況にあると言わなければならない。

 

直近のNHK世論調査(2019年8月2~4日実施)によれば、与党支持率は自民36.1%、公明4.0%で40.1%、これに維新3.8%を加えると与党勢力は43.9%になる。これに対して、野党第1党の立民は僅か7.2%で自民の5分の1しかなく、これに国民1.5%、共産3.0%、社民0.8%、れいわ1.2%を足しても、野党勢力は13.7%で与党勢力の3分の1にも届かない。

 

加えて自民支持層に匹敵する比重を占める無党派層34.8%は、必ずしも全体が野党寄りとは限らない。2019年参院選の出口調査(共同通信)によれば、全投票者数に占める無党派層の割合は20%で6割弱しか投票に行かず、しかも投票先は、与党側が自民24%、公明7%、維新12%で計43%、野党側が立民21%、国民7%、共産11%、社民3%、れいわ10%、計52%とそれほど違わなかった。与党側4、野党側5の割合で無党派層34.8%を割り振ると、与党側15%、野党側19%となり、全体としては与党側59%、野党側33%と2倍近い大差がつく。

 

NHK世論調査には、野党の選挙協力に関する質問項目がある。回答は「野党4党の連携を次の衆院選挙でも続けた方がよい」27%、「続けない方がよい」19%、「どちらともいえない」44%というもので、多くの有権者が判断に迷っている状況がうかがえる。有権者は野党共闘が掲げる政策にたとえ賛同であっても、与野党間の余りも大きい力関係の差からして、それがどれだけ現実性があるかどうかを疑っているのである。

 

上記の志位委員長の記者会見によれば、「政権をともにする政治的合意、政権が実行する政策的合意、選挙協力の合意の3点がそろえば、野党共闘が本当に力あるものになる。国民のみなさんに『野党は本気だ』『本気でいまの政権を変えて新しい政権をつくろうとしている』と〝本気度〟が伝わって、選挙で勝つことができると考えている」などと強調しているが、ことはそう単純ではないだろう。多弱野党がどれだけ耳障りのいいことを言ったとしても、有権者の多くは、実行力のない野党が集まるだけでは政権を安心して託すわけにはいかない、と考えているのではないか。

 

これは鶏と卵の関係かも知れないが、そうなると野党各党がそれぞれ支持率を格段に上げなければ野党共闘にも現実味(リアリティ)がなく、有権者には相手にされない状況がいつまでも続くことになる。私の周辺では、支持率が二桁の政党ならともかく、僅か3%の政党が「野党連合政権構想」を呼び掛けることに驚いている人が多い。身の程を知らずの「大言壮語」だと見られているからであり、これは呼びかけられた他野党にも共通する空気だろう。

 

問題は、共産に野党連合政権構想を実現できるだけの体力があるかと言うことだ。8月29日付の赤旗には、党財務責任者の悲痛な訴えが掲載されている。「日刊紙・日曜版の読者が8月1日の申請で100万を割るという重大な事態に直面し、この後退が『しんぶん赤旗』発行の危機を招いている」というのである。訴えはこうも続けられている。

「『しんぶん赤旗』の事業は党の財政収入の9割を占めるという決定的な役割を担っています。『しんぶん赤旗』の危機は、党財政の困難の増大そのものです。『しんぶん赤旗』の後退は、中央も地方党機関も財政の弱体化に直結します。党の役割が大きくなり、党活動の強化が求められているそのときに支えとなる財政が足りない―これほど悔しいことはありません」

 

この事態は「悔しい」といった個人的感情レベルのものではなく、疑いもなく党組織存亡の危機が訪れているということではないか。政党交付金を拒否して党運営を続けてきた共産にとっては未曽有の危機であり、「全党の力で『しんぶん赤旗』と党の財政を守る」ことが果たして可能か、その現実味ある議論が問われている。次回は、党勢が衰退してきた推移を分析しよう。(つづく)