立憲民主党と共産党がこのままの状態では参院選で〝共倒れ〟する、「政治対決の弁証法」ではなく「国民世論の弁証法」による総括が必要だ、岸田内閣と野党共闘(その8)

 こんな後ろ向きの感想を年末に書く破目になるとは夢にも思わなかった。2021年10月衆院選が終わって以降、立憲と共産との間で野党共闘に関する総括の話がまったく進んでいない。それに比べて連合芳野会長の発言は過激一方になる始末。まるで〝反共のカラス〟(カナリアと言いたいところだが)のように、「立憲と共産の選挙協力は間違っている」「連合と共産は相いれない」「次の参院選は立憲と国民の挙力でやってほしい」などと喚き立てている。

 

12月16日の中央執行委員会で公表した連合の衆院選総括では、「『野党共闘』は(共産党)綱領にもとづく統一戦線の一つの形であり、共産主義社会実現のための手段であることは明白」とし、「『野党共闘の足を引っ張るな』と批判される所以は全くない」と突っぱねた(朝日12月20日)。要するに、立憲が選挙で負けたのは立憲の「支持率の低さ」でもなければ、政党としての「自力のなさ」でもなく、全ては共産との選挙協力に原因がある――というのが、連合の見立てなのである。

 

 芳野会長はまた同日の記者会見において、まるで立憲の後見人であるかのような口調で「共産との決別」が必要だとの考えを立憲新執行部に伝えると言明した。会見の主な内容は次の通りだ(朝日12月17日)。

 ――自民党幹部が衆院選の勝因は「連合が立憲民主党と共産党の共闘を否定したからだ」と発言した。

 「連合としては、立憲を基軸に国民民主党と連携しながら選挙戦を戦うのはこれまでもそうだし、これからもそうなる。立憲と市民連合、共産との関係で連合組合員の票の行き場がなくなったのは事実としてあったのではないか」

 ――参院選で共産との選挙区調整は容認するのか。

 「連合としては、立憲と国民民主でやっていただきたい」

 ――共産を含む野党共闘は「あり得ない」と言うが、野党共闘という言葉には選挙区調整も含むのか。

 「選挙区調整は与野党一対一の構造をつくる戦略としてあり得る。調整は、立憲と国民民主の間でやっていただきたい。その先は政党がやることだ」

 

これに対して元民主党幹事長の輿石東氏は、日経新聞(オピニオン欄「野党立て直しの処方箋」12月20日)において「労組との関係 問い直せ」との見出しで連合とは異なった見解を表明している(抜粋)。つまり、見直すべきは「野党共闘」ではなくして「労組との関係」だと言いたいのだろう。

「政党にとって労働組合はあくまでも応援団であり、そもそも立場が異なる。そこを混同してはいけない。政党は政策の実現のために政権を取るのが最終目標だ。一方、労組は暮らしを守るための集まりであり、賃上げや労働時間といった生活に関する要求で団結している。平和な国づくりといった大きな目標では一致できても、個別の要求は労組ごとに違って当然だ」

「立憲民主党は揺れのとまらないヤジロウベエのようだ。右を向いて連合の顔色をうかがい、左を向いて共産党を気にする。揺れてばかりで前に進まない。これでは国民は支持しようとは思わない。先の衆院選で立民が議席を減らしたのは共産党と組んだからだという人がいる。それが理由のすべてではない。支持率が上がらないのは詰まるところ、ヤジロウベエに政権を任せられない、と有権者が感じているからだ」

 

その後、立憲内での議論がいっこうに進まないことに業を煮やしたのか、各メディアからは立憲の奮起を促す記事が相次いでいる。毎日新聞(オピニオン「記者の目」12月17日)は、宮原記者(政治部)が「社会の問題掘り起こせ」とのタイトルで、「衆院選敗北で引責辞任した立憲民主党の枝野幸男前代表の後任に泉健太氏が選出された。泉氏は『対決型』から『政策立案型』への転換を通じて党再建を進める考えだ。だが、私は代表選の取材を通じて『党のイメージを変えるだけでいいのか』との思いを抱いた。泉執行部になっても党勢回復の兆しは見えていない。来年夏に参院選が迫る中、対応が急がれる」「立憲が今注力すべきは『対決か提案か』の路線問題以上に、自らの理念を磨き、行政や社会の問題点を掘り起こすことだろう」と指摘する。

 

朝日新聞も大型記事「記者解説、野党共闘 問われる立憲」(12月20日)のなかで、南記者(政治部)が「参院選を前に国会運営での野党の足並みがそろわず、立憲民主党新代表に早くも試練」「本質的な問題は野党第1党の魅力不足。野党共闘という戦術を否定することは早計」「『人権尊重』『多様性』などの理念を体現する布陣と、課題解決への実践が必要」と、立憲の弱点をわかりやすく解説している。つまり、東京五輪が開かれた1964年、当時の成田社会党書記長が党機関紙で同党が弱い理由を3点挙げたことを紹介して、立憲の弱点は一つ目が選挙期間前からの地域住民への働きかけが弱いという「日常活動の不足」。二つ目に組織としての実体がなく、議員がいるだけという「議員党的な体質」。三つ目が「労働組合依存」だと端的に指摘した。三つ目の労働組合依存は、連合の意のままに振り回される立憲執行部に対する批判であることはいうまでもない。

 

各社の12月世論調査の結果はもっと厳しい。調査実施順に並べてみると、立憲は新代表の選出でイメーチェンジを図ったにもかかわらず、また国会代表質問で「対決型」から「提案型」へ転換したにもかかわらず、世論調査にはさしたる変化があらわれていない。泉新代表に対する期待感は、「期待しない」が「期待する」を上回り、政党支持率も依然として低迷している(維新に追い抜かれるケースも出てきた)。

【読売新聞】(12月3~5日実施、回答%)

  〇政党支持率:自民41,維新8,立憲7,公明3,共産2、国民1

  〇立憲新代表の泉健太氏に期待するか、「期待する」34,「期待しない」46

【時事通信社】(12月10~13日実施、同)

  〇政党支持率:自民26.4,立憲5.0、維新4.9、公明3.6、共産1.0,国民0.6

【毎日新聞】(12月18日実施、同)

  〇政党支持率:自民27,維新22、立憲11,共産5,公明4,国民3

  〇立憲新代表の泉健太氏に期待するか、「期待する」27,「期待しない」39

【朝日新聞】(12月18~19日実施、同)

  〇政党支持率:自民36,立憲8,維新7、公明3,共産2,国民1

  〇立憲新代表の泉健太氏に期待するか、「期待する」40,「期待しない」43

 

 一方、立憲との選挙協力を今後も堅持するという方針の共産党に対しても、世論調査の結果は厳しいものがある。共産は立憲との選挙協力が敗北に終わった原因を「野党が初めて本格的な共闘の態勢(共通政策、政権協力、選挙協力)を作って総選挙に臨んだことが、支配勢力に日本の歴史でも初めての共産党が協力する政権が生まれる恐れを抱かせ、危機感にかられた支配勢力が一部メディアも総動員して必死の野党共闘攻撃、共産党攻撃を行った」(赤旗11月29日)からだと、もっぱら政治権力構造の観点から分析している。しかし、この総括には各メディアの世論調査の結果がまったく反映されていない。各社の野党共闘に関する評価を見よう。

【共同通信】(11月1、2日実施、回答%)

 〇立憲民主、共産など野党5党は、213の小選挙区で統一候補を擁立し、当選は59人でした。5党は今後こうした共闘関係を続けた方がいいと思いますか、見直した方がいいと思いますか、「続けた方がいい」32.2,「見直した方がいい」61.5

【読売新聞】(11月1、2日実施、同)

  〇立憲民主党が今後も共産党と協力して政権交代を目指すのが良いと思うか、「思う」30,「思わない」57

【朝日新聞】(11月6、7日実施、同)

  〇衆院選では立憲や共産など野党5党が217選挙区で候補者の一本化を進めた。来夏の参院選で一本化を進めるべきと思うか、「進めるべきだ」27,「そうは思わない」51

 〇立憲と共産が安全保障政策などで主張の異なるまま、選挙協力することに問題があると思うか、「問題だ」54、「そうは思わない」31

【日経新聞】(11月10、11日実施、同)

  〇立憲民主党が共産党との選挙協力を続けるべきか、やめるべきか、「続けるべきだ」25、「やめるべきだ」56

【毎日新聞】(11月13日実施、同)

  〇先の衆院選で立憲と共産が選挙協力したが、来年の参院選でも続けるべきか、「続けるべきだ」19、「続けるべきでない」43

【産経新聞】(11月13、14日実施、同)

  〇先の衆院選で立憲民主党と共産党が選挙区で統一候補を擁立した「野党共闘』を続けた方がよいか、続けない方がよいか、「続けた方がよい」32.2、「続けない方がよい」55.9

 

 共産はこの結果をいったいどう見ているのだろうか。赤旗は都合のいい調査結果が出た時には報道するが、そうでない時には無視する傾向が多い。これでは勝った戦争は大々的に報道(宣伝)するが、敗戦には一切触れなかった戦時中の「大本営発表」と何ら変わらない。要するに、世論の動向を科学的に分析し、政策立案や選挙戦略に反映させという政党としての基本要件が欠落しているのである。

 

 政治情勢は支配権力と野党の対決だけで決まるのではない。いかなる政治権力も世論の支持がなければ権力を維持することができない。まして、権力を持たない野党が支配権力と対抗していくためには、世論の支持は不可欠である。共産は「史上初めての本格的な野党共闘」だと自画自賛する選挙協力体制が、国民世論には支持されなかったという現実を認めなければならない。国民の政治意識のありかを冷静に見ないで、これを政治権力の対決構造だけに矮小化し、あくまでも既定方針を貫こうとする態度は、大日本帝国陸軍の「失敗の本質」を再び繰り返すことになる。

 

 立憲も共産も冷静な選挙協力に関する総括が必要なのではないか。連合が言う如く「共産との選挙協力が敗因のすべて」であれば、立憲は共産と決別して独自の道を歩めばよい。共産は「政治権力との対決がすべて」であれば、「千万人と雖も我往かん」との気概で〝政治対決の弁証法〟を実践すればよい。来年夏の参院選はもうそこまで迫っている。立憲と共産が〝共倒れ〟になる日はそう遠くないのかもしれない。