オーバツーリズムからアンダーツーリズムへ、新型コロナウイルス肺炎はこれからの京都観光に深刻な影響を与えるだろう、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(25)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その202)

 

 京都市長選が終わってから2週間余り、内外情勢が激変している。この間、月刊誌『ねっとわーく京都』への寄稿のため拙ブログを休んでいたが、僅か2週間で京都を取り巻く状況はすっかり変わってしまった。あまりの変化の速さに付いていけなのか、門川市長は相変わらず「挑戦と改革」を百年一日の如く言い続けているが、時代錯誤も甚だしいのではないか。いったい何に向かって挑戦するのか、何を改革するのか、ご本人がまったくわかっていないからだろう。

 

 その証拠に、京都市が2月13日に発表した2020年度当初予算案は、一般会計が4年ぶりのマイナスとなる緊縮予算(7840億円、前年度比1.3%減)で、「観光課題解決先進都市」を掲げる京都市としては余りにも寂しい内容となった。それに目玉政策が「観光マナー対策3400万円」などというのは、祇園や嵐山などの観光地が「ガラ空き」状態になっている現在、いまさら「季節外れ」のメニューとしか言いようがない。この期に及んで、誰もいなくなった観光地でマナー対策を強化することにいったいどんな意味があるのか、誰かに尋ねてみたい。

 

事態は極めて深刻なのである。新型肺炎の感染拡大が本格化しつつある現在、京都を取り巻く観光事情はこれまでとは根本的に違うフェーズ(局面)に移行したと考えなければならない。市長選前の「宿泊施設お断り」といった場当たり的口上はいまや何の役にも立たなくなったのであり、これまでとは真逆の対策が求められるようになってきたのである。

 

端的に言えば、それは観光政策における「オーバツーリズム」対策から「アンダーツーリズム」対策への歴史的転換とも言えるだろう。門川市政が3期12年にわたって煽りに煽ってきたインバウンド政策を総決算しなければならない時がやってきたのであり、安倍政権の観光立国政権の尻馬に乗って膨大な観光需要を見込み、その「受け皿」である宿泊施設を遮二無二増やしてきたツケが一挙に回ってきた...のである。

 

これからはホテルや民泊の稼働率の低下が大問題となり宿泊料金の値下げ競争が始まり、経営状態が悪化するといった事態が至る所で発生するだろう。5万室を超える京都市内の宿泊施設の過剰状態が一挙に露わになり、過当競争のなかでホテルや民泊は撤退するか倒産するか、いずれかの道を迫れられることになる。廃業したホテルや民泊はその後どうなるのか、空きビル・空き家となってまち全体のゴースト化を引き起こしはしないか、心配でならない。

 

京都新聞は2月12日、「観光『日本離れ』の危機、新型肺炎 中国人客激減」「欧米・国内客も...自治体対応苦心」と題する大型記事を掲載した。記事は注意深く地元京都のことには触れていないが、全国各地の自治体が直面している苦境が詳しく紹介されており、これを読めば京都が今後どんな事態に遭遇するか容易に想像できる。さわりの部分を抜粋しよう。

 

「新型コロナウイルスの感染拡大で、日本の観光が縮小の危機を迎えている。訪日外国人旅行者のうち最大の割合を占める中国人客の激減はもはや不可避だが、専門家は欧米などでも『日本離れ』が起きる恐れがあると指摘。日本人の国内旅行も停滞が懸念され、各地の自治体も苦慮している」

「中国政府は春節(旧正月)休暇中の1月27日、海外への団体旅行と、旅行会社がホテルや航空券を手配する『パッケージツアー』での個人旅行を禁止した。2019年の訪日中国人客は959万人で、国・地域別で最多の3割を占めた。観光庁の調査によると、中国人客のうち団体旅行は約3割、パッケージツアー利用は約1割を占め、現在の禁止措置が続けば、合わせて約4割の訪日がストップする計算だ」

 

この記事の注目すべき点は、今回の新型肺炎の感染拡大が中国人客のみならず欧米訪日客の減少も招き、併せて国内旅行者の減少を引き起こす恐れがあると予測していることだ。自然災害の多い日本は、世界からかねて「災害危険国」と見なされることが多かったが、今回はこれに新型肺炎の「感染当事国」との印象が加わるのだから、その影響は想像を超えるものがある。京都では今後、外国人観光客の中核を占めていた中国人客が途絶えるばかりか、欧米観光客や国内観光客までが同時に減るという、いわば「三重苦」ともいうべき試練に向き合わなければならなくなったのである。

 

門川氏が「市民の安心安全と地域文化の継承を重要視しない宿泊施設の参入はお断りしたい」(2019年11月20日)と表明した時点で、すでに市内の宿泊施設は目標4万室を1万室も超えて5万室に達しており、過剰状態は明らかだった。門川氏は、供給された宿泊施設は今さらリストラできないが、それでも今後の施設増加をコントロールすれば、たとえ稼働率が低下しても何とかソフトランディングできると多寡を括っていたのである。

 

そこへ降りかかったのが、今回の新型コロナウイルス肺炎の感染拡大だった。政府は2月15日、新型肺炎の国内流行に備え、これまでの水際対策重視から転換して検査や治療ができる医療機関を拡充するなど、重症者を減らすための対策を加速させる方針を決めた。全国各地に新型肺炎が広がるなかで「今後の国内流行は避けられない」(厚生労働相)ことを認め、方針転換せざるを得なくなったのだ。この時点で日本は明らかに新型肺炎の「感染警戒国」から「感染当事国」へ移行したのであり、今後は世界各国から「渡航制限国」に指定されることもあり得ると覚悟しておかなければならない。

 

京都観光にとっても、このことは極めて重大な局面に差しかかったことを意味する。安倍政権と同一歩調で走り続けてきた門川市政の前提が一挙に崩れ、観光客の「日本離れ」「京都離れ」が本格化する日が現実のものになってきたからだ。すでに宿泊施設の多くで訪日客と国内客の減少によるキャンセルが発生しており、小規模施設では採算割れが続出していると言われている。このような事態を放置したままでは幾ら「挑戦と改革」を叫んでも空しく響くだけで、事態を回避することはできない。

 

 次回は、日銀京都支店の最新の『管内金融経済状況』(2020年2月10日)の経済観測や、りそな総合研究所の研究レポート、『新型肺炎がインバウンド市場に与える影響』(2020年2月12日)の内容を紹介する。(つづく)