京都はいま究極の〝オーバーホテル〟状態なのに、なぜ門川市長はホテル誘致を止めないのか、コロナ禍でも突き進む京都観光(番外編2)

毎月インターネットで送られてくる『京都市観光協会データ月報』を見ると、業界関係者ならずとも目を背けたくなるような数字が並んでいる。最新号(2021年4月)によれば、新型コロナ発生前の2019年4月、新型コロナ発生直後の2020年4月、そしてパンデミックが依然として収まらない今年4月の市内主要ホテルの延べ宿泊数の推移は、以下の通りである。

2021年4月現在、調査対象ホテルの市内全体のホテル・旅館に占める比率は、施設数で29.6%(94施設/317施設)、客室数で48.7%(16,997室/34,897室)。民泊(簡易宿所)の数字はいっさい含まれていない。当該資料は、市内宿泊施設の全体状況を示すものでもなく、ホテル・旅館の全体状況を示すものでもないが、京都の宿泊施設を代表する主要ホテルの数字が毎月速報されることによって、京都を訪れる国内外宿泊客の動向を知るうえで貴重な資料となっている。

 

                2019年4月     2020年4月      2021年4月

                                                                    (前年同月比)    (前々年同月比)(1)外国人延べ宿泊数   36万7809泊      1198泊(▼99.8%)     848泊(▼99.8%)

(2)日本人延べ宿泊数   24万5255泊 3万0119泊(▼87.7%) 15万1107泊(▼38.4%)

  (3) 総延べ宿泊数    61万3064泊 3万1317泊(▼94.9%) 15万1955泊(▼75.2%)

  (4) 客室稼働率                    89.9%       5.7%         20.6%

 

 新型コロナウイルス発生前の2019年4月、京都はインバウンドブームの〝絶頂期〟だった。市内主要ホテルの総延べ宿泊数61万3千泊のうち、外国人客36万8千泊(60.0%)、日本人客24万5千泊(40.0%)で、稼働率は89.9%という「満室状態」だったのである。ところが1年後には、外国人客は突如蒸発(▼99.8%)してしまい、日本人客もほぼそれに近い状態(▼87.7%)になり、稼働率は5.7%という〝どん底〟に陥った。そして今年4月、外国人客はまるきり戻らず(▼99.8%)、日本人客は若干回復したものの(▼75.2%)、稼働率は依然として20.6%に落ち込んだままである。

 

もう1つの数字を見よう。こちらの方は市内全体の宿泊施設数の推移である。2018年旅館業法改正によりホテルと旅館の区別がなくなったため、宿泊施設数はホテルと旅館が一括されて計上されている。インバウンドブームが爆発する前の2014年度末から2020年度末にかけての宿泊施設(ホテル・旅館および簡易宿所)の推移は、以下の通りである。

 

          ホテル・旅館       簡易宿所          合計       開業 廃業

        施設数  客室数     施設数  客室数    施設数    客室数

2014年度 542(100)  26,260(100)   460(100)   2,929(100)   1,002(100)  29,189(100)  106  --

2015年度 532( 98)  26,297(100)    696(151)   3,489(119)   1,228(123)  29,786(102)  255 29

2016年度 550(101)  27,753(106)  1,493(325)  6,134(209)   2,043(204)  33,887(116)  838 23

2017年度 575(106)  29,172(111)  2,291(498)  9,247(316)   2,866(286)  38,419(132)  909 86

2018年度 624(115) 33,608(128)  2,990(650) 12,539(428)  3,614(361)  46,147(158)  919 171

2019年度 656(121) 36,243(138)  3,337(725) 17,228(588)  3,993(399)  53,471(183)  663 284

2020年度 679(125) 39,729(151)  3,104(675) 16,454(562)  3,783(378)  56,183(192)  422 632

 

 この数字を見ると、京都の宿泊施設が2016年度以降「爆発的」とも言える勢いで増加したことがわかる。なかでも、簡易宿所(民泊)の増え方が凄まじい。2014年度末を基準にすると、簡易宿所の施設数と客室数は2019年度末でピークに達し、僅か5年間で施設数は7.3倍(3337軒)、客室数は5.9倍(1万7228室)に激増した。ホテル・旅館の方は、それほどの倍率ではないものの2020年度末においてもなお増加が続いており、2014年度末を基準にすると施設数は1.3倍(679軒)、客室数は1.5倍(3万9729室)に達している。

 

2016年と言えば、門川市長が『京都市宿泊施設拡充・誘致方針~観光立国・日本を牽引する安心安全で地域と調和した宿泊観光を目指して~』(2016年10月)を打ち出した年である。京都市産業観光局の『平成27年(2015年)京都観光総合調査』によると、京都の外国人延べ宿泊客数は、2012年以前は50万人から100万人の間で緩やかな増減を繰り返していたが、2013年の113万人を起点にして、それ以降は2014年183万人(1.6倍)、2015年316万人(2.8倍)と年々急増していた。

 

折しも安倍政権の下での成長戦略、『明日の日本を支える観光ビジョン―世界が訪れたくなる日本へ―』(2016年3月)が策定され、これまでのインバウンド目標である「2020年2000万人、2030年3000万人」が一挙に「2020年4000万人、30年6000万人」に倍増された。国の目標をそのままスライドすると、京都市の外国人宿泊客数は5年後の2020年には440万人(2015年の1.4倍)となり、京都市独自の推計によればさらに「630万人」を上回るとのことだった。門川市長は、「安心安全で地域と調和した宿泊観光」を実現するため、、2015年現在の客室約3万室を「2020年までに約1万室新設する」との方針を打ち出した。

 

京都市の宿泊施設拡充・誘致方針は、前代未聞の「お宿バブル」(京都新聞)を引き起こした。2015年度末3万室(2万9786室)だった客室数は、簡易宿所(民泊)が導火線になって爆発し、僅か2年で目標4万室に近づき、2020年度末には5万6千室に達した。5年間で3万室のほぼ倍近い2万6千室の客室が新たに供給され、目標4万室を大きく上回った。

 

2019年11月、『みずほリポート』は新型コロナ発生の兆候もなく、東京五輪が予定通り2020年に開催されることを前提に、「2020年東京五輪開催年のホテル需給の試算」を発表し、次のような予測を示した。

(1)全国の2018年延べ宿泊者数実績値は5億3800万人(日本人4億4373万人、外国人9428万人)、2020年東京五輪開催時予測値は5億4409万人(日本人4億4036万人、外国人1億373万人)でほとんど変化しない。

(2)京都府(京都市が9割以上を占める)の2018年延べ宿泊者数実績値は2085万人(日本人1418万人、外国人660万人)、2020年予測値は2110万人(日本人1408万人、外国人703万人)とほとんど変化しない。

(3)全国の客室ストック数2018年実績値は149万室、2020年予測値は162万室、伸び率8.7%。京都府(同上)の2018年実績値は4.7万室、2020年予測値は5.6万室、伸び率19.3%である。京都府の伸び率19.3%は全国第1位、大阪府18.9%(第2位)、東京都15.5%(第3位)を上回っている。

(4)全国の客室稼働率は2018年実績値63.2%、2020年予測値58.8%と4.4ポイント低下し、京都府は2018年実績値64.7%、2020年予測値56.0%へと8.7ポイント(前年第2位)低下する。ポイント低下数は、大阪府10.4(第1位)、東京都8.2(第3位)である。

 

つまり、新型コロナ発生など考えられもしない「平常状態」で迎えるはずだった2020年東京五輪開催時においても、京都のホテル需給状態はすでに全国でも突出した〝オーバーホテル〟状態にあったのであり、それが新型コロナの発生によって壊滅的な危機に陥ったのである。京都観光協会月報2021年4月号は、「2021年5月以降の客室稼働率の予測値は、4月の20.6%から徐々に下がり、7月には10.7%にまで落ち込む見込みである。緊急事態宣言の再延長が検討されており、今後の情勢次第ではさらに下振れする可能性がある」と警告している。次回は、簡易宿所(民泊)について考えたい。(つづく)