観光立国政策の破綻が明らかに、安倍政権崩壊の危機迫る、安倍内閣支持率下落と野党共闘の行方(27)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その204)

 

 内閣府が2月17日に発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値が1.6%減(年6.3%減)に落ち込んだことを契機に、その後のメディアの論調はガラリと変わった。各紙(2月18日)が伝えた記事の見出しは、以下の通りだ。

 〇毎日新聞、「凍える消費 GDP直撃、年6.3%減、5年半ぶり大幅マイナス」「新型肺炎 追い打ち、2期連続マイナス予想も」

 〇朝日新聞、「景気 腰折れの懸念、GDP落ち込み 政府『想像以上』、増税後の消費回復鈍く」「新型肺炎拡大 追い打ち、月例報告 政府の判断注目」

 〇読売新聞、「増税・暖冬・豪雨・米中摩擦...頼みの内需 急減速」「個人消費―2.9%、設備投資―3.7%、新型肺炎 追い打ちも」

 〇京都新聞、「増税打撃 想定超え、GDP年6.3%減、政府対策も消費冷え込み」「新型肺炎 日本経済に試練、上場企業6.6%減益へ、2年連続 業績悪化」

 

 各紙は、昨年10月の消費増税に暖冬と台風が重なった上に、足もとでは新型肺炎の拡大が企業業績や消費、観光のさらなる重しになると指摘している。要するに、「政府はこれまで、消費増税後の景気落ち込みから短期間で抜け出し、プラス成長の軌道に戻るシナリオを描いてきた。しかし、その実現は、新型肺炎の拡大で見通せなくなっている」(朝日2月18日)ということだ。

 

 これに輪をかけたのが2日後の2月19日、政府観光局が発表した今年1月の訪日外国人旅行者数だった。旅行者数は266万1千人と前年同月比で僅か1.1%の減少に過ぎなかったが、すでに4カ月連続で前年割れが続いており、韓国人客の大幅減(1月59%減)も止まらず、春節休暇中(1月24日~2月2日)に限ると中国人客が2割も落ち込んだとあって大騒ぎになったのである。これも各紙の見出しを見よう。

 〇日経新聞、「訪日客4000万人 はや暗雲、今月以降 新型肺炎で中国人客激減、1月 韓国人客減り前年割れ」「社説、中国人観光客への過度の依存からの脱却を」

 〇読売新聞、「新型肺炎 中国便縮小、訪日客 2月激減必至、1月 4か月連続減」

 〇産経新聞、「訪日4000万人目標厳しく、中国人客 春節2割減」

 〇京都新聞、「新型肺炎 東アジアで『訪日忌避』、人・モノの動きに影、『観光立国』へ打撃」「来日中国人 春節2割減、1月訪日客 4カ月連続前年割れ」

 

 日経新聞を除いて大手各紙は、まだこの事態に対する本格的な論評を始めていない。しかし、これまで政府のインバウンド政策に対して後押しすることはあっても批判することのなかった日経が逸早く方針転換したのだから、事態は相当深刻だと踏んでいるのだろう。その一部を抜粋・要約して紹介しよう。

 「新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が、日本の観光産業に大きな打撃を与えている。中国人は日本を訪れる外国人観光客の約3割、消費額では4割近くを占める。『観光公害』に悩まされていた京都も人がまばらだ。新型肺炎によって観光立国の盲点があぶりだされた」

 「政府が『2020年に訪日客4千万人』の新目標を掲げた16年、戦略の危うさを指摘することがあった。18年に3千万人を突破し観光立国の実現に向けて順調に成長しつつあるようにみえたが、その半分以上が中国人と韓国人といういびつな構造だった。日韓関係の悪化で韓国人が激減した19年夏以降、中国人依存は加速した」

 「新型肺炎が収束すれば観光地はにぎわいを取り戻すだろう。だが訪日客の数を追い求め、中国にプロモーションをかける従来型の誘客策では、想定外の事態が起きるたびに振り回される。それでは観光が日本経済の柱にはなりえない。(略)観光公害や訪日客の旅行消費の伸び悩みなどインバウンド政策はさまざまな問題が浮上していた。危機はチャンスである。今こそ新型肺炎の教訓から学ぶべきだ」

 

言っていることは尤もで頷けるところが多い。さはさりながら、マスメディア自体が安倍政権の観光立国政策の問題点についてこれまでどのような批判をしてきたかについて、この社説はまったく触れていない。後付けの批判なら誰でもできるのだから、これまでの論調の推移を紙面審査委員会などで検証してもらいたいものだ。参考までに、安倍政権が観光立国政策を打ち出した頃の日経新聞(特に大阪本社版)の開催記事を挙げておこう。政府で観光立国政策についての議論が始まった頃から、掲載記事はインバウンド一色になっていたのである。

 

「関西 インバウンド旋風」と題する関西経済特集(2015年12月4日)には、「百貨店・ホテル フル回転、『爆買い通り』地価押し上げ、民営・関空飛び立つ、訪問外国人 1000万人へ」との大見出しが躍り、熱狂ともいえる記事が紙面を覆っていた。その一部を紹介しよう。

 「関西経済でインバウンド(訪日外国人)の存在感が高まっている。訪日客の増加に伴い、消費だけでなく生産、投資に波及してきた。表玄関となる関西国際空港も民営化への道筋が決まった。インフラ整備などに課題は残るが、インバウンド対応が関西経済の成長の牽引役になりつつある。三菱UFJリサーチによると、2015年に関西を訪れる外国人は前年比52%増の730万人の見通し。首位の関東(1132万人)に及ばないが、中部(285万人)に差をつけている。世界的な観光地を多数抱えることが背景にある。16年は860万人と一段と増える見通しだ。関西を訪れる外国人は消費も積極的。15年は6948億円と14年比68%増、16年は8764億円と15年比26%増を見込む。全国の2割に相当する。とりわけ関西は消費意欲の旺盛な中国人客の比率が全国より高く、1人当たり消費額の増加につながっている」

 

同紙はまた大阪商工会議所との共催で、連続シンポジウム「関西経済圏の進路」を2015年10月から16年2月にかけて3回、同じく連続シンポジウム「関西の未来」を17年4月から12月にかけて4回、計7回も開いている。メインテーマはいずれも政府の成長戦略と関西(大阪)の役割に関するもので、関西でのインバウンドの成長に大きく期待を掛ける内容になっている。

 

日経キャンペーンの特徴は、インバウンドの急成長を背景に21世紀の関西の未来をバラ色一色に描こうというもので、シンポジウムの主役にはツーリズム産業とIT産業関連の経営者やイデオローグが起用され、インバウンドが飛躍的に発展していくための展望やシナリオが華々しく打ち出されている。これらの論調は今から半世紀前、1960年代から70年代にかけて一世を風靡した〝未来学ブーム〟を彷彿(ほうふつ)とさせる。

 

当時、地盤沈下を続けていた関西経済を回復させるためには、巨大コンビナート開発が不可欠との大キャンペーンが展開され、大阪湾一帯にわたって白砂青松の海岸が次々と埋め立てられていった。臨海工業地帯を造成して重化学工業を発展させることが湾岸自治体の至上命題となり、地域開発のメルクマールは工業出荷額と国民総生産(GNP)の増大一本やりとなった。後に大問題となる公害問題や自然破壊などの負の側面は、一切無視されていたのである。

 

政府の観光ビジョンを推進する日経キャンペーンもまた、ほぼ同様のシナリオで展開されている。工業出荷額をインバウンドに、GNPをインバウンド消費額に読み替えれば、シナリオはほとんど変わらない。その論調は、インバウンドが増えれば増えるほど、関連消費が増えれば増えるほど、国や地域の経済は発展するという単純な〝インバウンド信仰〟を身にまとったものにすぎない。そこには、オーバーツーリズムが都市の品格を貶(おとし)め、地域のサステイナブルな発展を妨げるといった危機感もなければ、過剰観光が地価高騰を招いて「街の空洞化=居住基盤の破壊」につながるといった問題意識も見られない。(つづく)