霊長類学者でありながら、関東軍731部隊軍医将校の「さる実験(人体実験)」に関する学位論文の検証を一貫して拒んできた山極京大総長、山極壽一京大総長の虚像と実像(その2)

 メディアでは「ゴリラ研究の第一人者」と紹介される山極氏が、関東軍731部隊軍医将校の「さる実験(人体実験)」に関する学位論文の検証を一貫して拒み続けてきたことはあまり知られていない。2018年2月に結成された「満洲731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」(以下「求める会」という)は、連続企画「研究者が戦争に協力する時、731部隊の生体実験をめぐって」を開催し、京大関係者や市民に問題の所在を訴える一方(※)、京大当局に対して事態解明の要請行動を数知れず繰り返してきた。

 

※第1回(2019年6月)、講演「731部隊の生体実験をめぐって」、松村高夫・慶応大学名誉教授、第2回(2019年10月12日)、シンポジウム「軍医将校学位論文への疑義」、西山勝夫・滋賀医科大学名誉教授、池内了・名古屋大学名誉教授、松宮孝明・立命館大学法科大学院教授、第3回(2019年11月9日)、霊長類研究者の意見を聴く会「どんな“さる”だったのだろう」、好廣真一龍谷大学名誉教授

 

 だが、メディアやジャーナリズムの世界では雄弁極まりない山極氏が、「求める会」の要請には沈黙を押し通し、また会見に応じることもなかった。京都大学を代表する立場にあるにもかかわらず、大学としての社会的責任はもとより霊長類学者としての良心をも顧みないその態度は、氏の実像を物語るものとして長く記憶に留められるだろう。以下2つの文章は、私が「求める会」の声明にあたって作成した原案である。声明文本文は「求める会」のホームページを参照されたい。

 

【資料1】

総長離任に際し、当会との会見を要請します

2020年2月

満洲第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会

 

時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。貴下が2014年10月の総長就任以来、6年間にわたり京都大学における自由の学風を継承し、人類の幸福と平和に貢献する教育研究活動を発展させるため、日々努力を重ねてこられたことに深い敬意を表します。

 

私たちは、日本学術会議の「軍事的安全保障研究に関する声明」(2017年3月)及び京都大学の「軍事研究は行わない」とする軍事研究に関する基本方針(2018年3月)に賛同する立場から、京都大学関係者が731部隊のような非人道的軍事研究に再び携わることがないよう、「満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会」(2018年1月)を結成し、2年余にわたって検証を求める活動を続けてきました。(※添付資料1、要請書、活動経過)

 

当会の検証を求める要請に対し、野田亮京都大学研究倫理・安全推進担当副学長(医学系研究科大学院教授)は2018年7月26日、公式面談の席上において「皆さんの要請書を深く受け止める」「過去を変えることはできないが、未来に生かすようにしたい」「未来に生かすということは、現在の問題として捉え、過去の検証をすることも含まれている」「皆さんの言われたことを執行部で検討する」「9月にその結果を会に報告する」と述べられ、9月18日には野田副学長から「予備調査を開始する」との通知がありました。

 

私たちは、野田副学長の真摯な対応を心から歓迎し、予備調査に必要な関係資料の提出をはじめ全面的な協力を表明しました。しかし、年が明けた2019年2月8日、野田副学長から「本調査は実施しない」との通知があり、その理由は「当該学位論文の使用された動物がサルであるということを明確に否定できるほどの科学的合理的理由があるとは言えず、実験報告の捏造・改ざんであるとまで断定できない。」というものでした。(添付資料2、予備調査結果通知)

 

当会は、直ちに「学位論文における研究活動上の不正行為に関する調査結果について(2019年2月8日通知)に対する異議申し立て」(2月19日)を書面で行い、学術的根拠を示して誠意ある回答を待ちましたが、野田副学長からは「異議申し立て」に応じない旨の連絡がありました(3月15日)。またその後、当会の関係資料の情報開示請求(6月8日)に対して大学当局からの然るべき対応がなく、開示された資料のほとんどが「黒塗り」で判別のつかないものでした。(※添付資料3、異議申し立て文書、情報開示請求文書、黒塗り資料など)

 

以上の経過からもわかるように、この間の大学当局の対応は京都大学の自由の学風にふさわしいものとは言えず、また「軍事研究は行わない」とする基本方針に照らしても到底納得できるものではありません。日本学術会議会長や国立大学協会会長の要職を歴任され、かつ大学当局の最高責任者であり、京都大学を代表する学者でもある貴下が、このような事態をいったいどう考えておられるのか、率直なご意見をうかがうことができれば幸いです。

 

貴下はまた日本を代表するゴリラ研究者として知られ、総長在任中もゴリラ研究者としてのマスメディアへの登場には際立ったものがありました。当会が731部隊軍医将校の学位授与の検証を求める活動を続けてきた背景には、当該軍医将校の学位論文が「さる」ではなく、実は「ヒト」の実験に基づくものではないかという根本的な疑問があったからです。

 

このような疑問は学術的に解明されなければならず、それはまた霊長類学研究者の果たすべき学問的使命であるはずとの観点から、当会は熊本で開催された第35回日本霊長類学会大会に参加し、好廣真一氏(龍谷大学名誉教授、元ヤクザル調査隊隊長)の「どんな“さる”だったのだろうか?―イヌノミのペスト媒介能カの実験―」の研究発表に同席しました。この研究発表は霊長類学会報告の抄録に掲載され、多くの参加者が関心を示して討論が行われました。貴下は霊長類学研究者の1人として、当該軍医将校の学位論文についてどのような見解をお持ちなのか、この点についてもご意見をうかがえれば幸いです。(※添付資料4、好廣論文)

 

以上、総長離任間際の御多忙な時期にこのようなお願いを申し上げることは誠に恐縮ですが、当会の意のあるところをお汲み取りいただき、会見の場を設けていただくことを要請する次第です。

 

 

【資料2】

京都大学総長・山極壽一氏の不誠実な態度について

~会見要請無視の姿勢が物語るもの~                      

                     2020年6月 

       満洲第731部隊軍医将校の学位授与の検証を京大に求める会

 

本会は、2020年3月3日付で京都大学総長・山極壽一氏に対し、満州第731部隊軍医将校の学位授与の検証にかかわる大学当局の対応についての見解を求めるべく、会見要請を行いました。しかしながら、要請書が総長室及び自宅に届いていることが確認されているにもかかわらず、回答期限の3月末を過ぎても返事がなく、山極氏が本会の会見要請を無視する態度であることが明らかになりました。

 

本会は、2年間にわたる大学当局との交渉を通して満州第731部隊軍医将校の学位授与の問題点を明らかにし、その詳細な事実経過を要請書に添付しました。本会の要請書を一読すれば、大学当局の理不尽な態度が明らかになるばかりでなく、その一連の対応が真理を探究する大学の社会的責任を放棄し、京都大学の自由な学風の伝統に反するものであることは明白です。

 

京都大学総長の山極氏は、大学の代表者であり大学当局の責任者として、本会の会見要請に応える責務があります。然るに、山極氏が要請書を無視して回答すら拒否したことは、京都大学総長としてあるまじき行為であり、社会に開かれた京都大学の名を汚すものです。本会は、このような山極氏の不誠実極まりない態度を強く抗議します。

 

山極氏は、総長在任中、異例ともいえるメディアとの積極的な対応が目立ちました。新聞、雑誌、テレビはもとより、出版業界とも密接な関係を持ち、その活動はコメディアンとの共著出版までに至る活躍ぶりです。これほどまでメディアへの露出には時間とエネルギーを割きながら、本会の会見要請には回答すら拒否することは、山極氏がもはや学者としての存在よりもタレント業に精を出す存在に成り下がっていることを示すものです。

 

山極氏はまたこの間、学内の重要問題に対しても一貫して背を向けてきました。タテカン問題、吉田寮生追い出し問題、琉球王朝人骨返還問題など、大学自治の原則を投げ棄て、大学として果たすべき役割を果たさず、当事者との交渉もありませんでした。その一方、山極氏とは切っても切れない関係にある京都大学霊長類研究所で研究費不正問題が持ち上がり、松沢哲郎研究所長(当時)らが5億円を超える研究費の不正支出に手を染めていたことが明らかになりました。盟友の松沢氏を定年後も京都大学高等研究院特別教授に任命したのは山極総長であり、山極氏はその任命責任を免れるわけにはいきません。

 

京都大学における一連の問題の発生は、これまで大学自治の伝統によって支えられてきた真理探究の場である大学が、一部の大学官僚及びそれに連なる有力幹部たちの手によって変質させられているところに根本原因があります。山極氏はそれを糺すことなく放置し、京都大学全体の構成員から選出された総長としての役割を果たすことができませんでした。

 

山極氏の今年10月の総長離任を目前にして、京都大学霊長類研究所の研究費不正問題が摘発されたことは象徴的です。山極総長6年間の任期中、真理探究の場としての京都大学にいったいどのような発展があったのでしょうか。また、京都大学に問われた数々の問題に対してどのような社会的責任を果たしたのでしょうか。本会は、本会の活動に賛同された多くの市民とともに、山極氏の晩節が汚されたものになったことを惜しむものです。

以上

 

次回以降は、タテカン問題、吉田寮問題、琉球人骨問題などについて解説する。