新型コロナ再拡大で東京五輪はどうなる? 総選挙はどうなる? 菅内閣と野党共闘の行方(27)、改憲派「3分の2」時代を迎えて(その252)

 2021年3月30日、各紙朝刊は、全国で新型コロナ再拡大の傾向が鮮明になりつつあると報じた。今年1月8日から始まった緊急事態宣言が、大阪府、兵庫県、京都府で2月28日に解除されたのに引き続き、3月21日には首都圏など全国で全面解除になった。全国の感染者数(1週間平均)は3月9日の679人まで減少したが、それ以降は再び増加に転じ、3月28日時点では1713人に達している。注目されるのは、感染者数が34都府県で前週よりも増加しているように、これまで緊急事態宣言の対象地域だった大都市部だけでなく、地方でも急増していることだ。なかでも、直近1週間(3月22日~28日)の10万人あたりの新規感染者数は、宮城県38人、沖縄県31人と大阪府20人、東京都18人を大きく上回っている。

 

 大阪府の吉村知事は、これまで感染防止対策よりも経済活動を重視する姿勢で知られる。今回の緊急事態宣言に関しても「前倒し解除」に最も積極的だったのが吉村知事であり、兵庫県、京都府の両知事が(情けないことに)それに引っ張られる形で解除した。ところが、新規感染者数の前週比は、大阪府2.11、兵庫県1.62と急上昇し、このままでは「倍々ゲーム」のように感染者数が急増する事態に直面することになったのである。一方、これまで感染者が少なかった東北や四国でも急速な増加がみられる。宮城県では、村井知事が2月23日から「GoToイート」キャンペーンを再開したことをきっかけに、感染者数(1週間平均)は3月28日時点で134人へと爆発的に増加した。その影響はお隣の山形県にも波及し、3月に入ってからの感染者数累計は320人を超えている。

 

 「マッチポンプ」という言葉がある。マッチポンプとは、自らマッチで火をつけておいて、それを自らポンプで水を掛けて消すと言う意味で、偽善的な自作自演の手法や行為のことを指している。菅政権も「GoToトラベル」キャンペーンの推進で新型コロナ感染の火を着け(マッチ)、それが手に負えなくなると今度は緊急事態宣言を発出して水を掛ける(ポンプ)という行為を繰り返してきた。だが、問題は大元の火が消えていないことだ。火が完全に消えるまで水を掛けないで緊急事態宣言を解除するものだから、解除した瞬間から燻っていた火元が再び燃え上がり、リバウンドが広がることになる。吉村知事や村井知事などは、菅政権の手法を小出しに繰り返しているというわけだ。

 

こうなると、新型コロナウイルスワクチンに期待するほかないが、この点でも菅政権は決定的に出遅れている。厚生労働省のまとめによると、3月23日時点での接種実績は全国で僅か69万9千回。政府が先行接種する医療従事者は約485万人、続く65歳以上の高齢者は約3600万人、基礎疾患のある人は約820万人、高齢者施設などの職員は約200万人というのだから、接種予定者5100万人のうち1.4%しか接種が行われていないことになる。ワクチン接種は2回行われることになっているので、接種は国民の間で僅か0.7%しか行き渡っていないことになる。政府は6月末までにこれらの接種を終え、夏以降から16歳以上の成人を対象に接種を始めるというが、ワクチン供給が世界的に逼迫している中で、果たして予定通り進むかどうか疑わしい。

 

3月25日から東京オリンピック聖火リレーがスタートした。私のように1964年東京オリンピックの華々しい聖火リレーを知っている者には、その淋しい光景に愕然とするほかない。テレビ報道などもその日だけで、その後はほとんど画面に登場しない。聖火リレーが今どこを走っているのか、どこまで来たのか、次はどこかなどもわからないし、国民の関心もそれどころではないのである。毎日毎日、新型コロナウイルスの感染状況に国民が気を奪われているような状況の下では、東京五輪に対する関心が日々薄れていくような気がする。

 

東京オリンピック2020は、2021年7月23日から8月8日まで開催されることになっている。パラリンピックは、8月24日から9月5日の予定だ。しかし、ワクチン接種が高齢者だけでも6月末に終わらず、7月にずれ込むようなことになると、オリンピック開催時までに果たして新型コロナ感染を抑え込めるかどうかが危うくなってくる。しかも、今後は変異ウイルスが主流になるというのだから、それまでにワクチン接種の対象にならない子供や若年層への感染が懸念される。

 

国際的にも懸念が広がっている。公益財団法人「新聞通信調査会」が3月20日に発表したところによると、新型コロナウイルス感染症が世界的に収束していない中での東京五輪・パラリンピック開催の是非を海外5カ国で尋ねた世論調査結果(2020年12月~2021年1月に面接か電話で調査、各国約千人ずつ回答)は、「中止すべきだ」「延期すべきだ」との回答の合計が全ての国で70%を超え、特にタイでは95.6%、韓国で94.7%に達した。このほか、中国は82.1%、米国は74.4%、フランスは70.6%の順だった(共同通信2021年3月21日)。

 

 こうしたなかで、立憲民主党の枝野代表は、党の役員会で「東京は完全に感染のリバウンドに入り、一足早く緊急事態宣言を解除した大阪は第4波と認めざるをえない。検査拡大や補償もなく国民にただお願いするだけでは、暮らしも経済もめちゃくちゃになってしまう。対策を変えない政府や地域は、やはり政治そのものを変えるしかなく、国会の内外で戦っていきたい」と述べた。また、安住国対委員長も菅内閣に対する不信任決議案の提出を検討する考えを重ねて示し、新型コロナウイルス感染の第4波を防げなかった場合を挙げ、「内閣総辞職に値する。そのために取り得る行動はちゅうちょなく取る」と記者団に述べた。安住氏は、ワクチン接種の遅れが生じても「政治責任を問う行動を取らなければならない」と強調した(各紙3月30日)。このような野党の動きに対して、自民党二階俊博幹事長は「不信任案なら解散」と早期解散をぶち上げ、3月29日の記者会見では、「私は解散権を持っていないが、野党が不信任案を出してきた場合、直ちに解散で立ち向かうべきだと菅首相に進言したい」と明言した(同上)。

 

自民党内からは「選挙は早い方がいい」「5月が菅政権のピークだ」の声も上がっているというが、5月頃にはゴールデンウイークの影響で新型コロナウイルスの第4波が猛威を振るっている可能性が高い。ワクチンの本格接種も始まっていない中で総選挙に踏み切れば、国民の批判は菅政権に集中する。また、東京五輪開催も危うくなる。さて、菅政権はどうする、立憲民主党はどうする―、次回はそこに焦点を当てて考えてみたい。(つづく)