〝政界再編の序曲〟は既に始まっている、京都では府議会で維新・国民、京都市議会では維新・京都・国民の合同会派が結成された、衆参5補選、統一地方選挙後半戦の結果から(3)、共産党党首公選問題を考える(その11)、岸田内閣と野党共闘(46)

 統一地方選の波紋が全国に広がっている。京都では〝政界再編の序曲〟ともいうべき動きが早くも始まった。日本維新の会と国民民主党、地域政党京都党の3党の京都市議らが4月28日に記者会見し、京都市議会(定数67)で新会派「維新・京都・国民市会議員団」(18人)を結成すると発表したのである。新会派は共産(14人)を上回る第2会派となり、自民(19人)に匹敵する勢力となった。京都府議会(定数60)でも、維新と国民の府議が新会派「国民民主党・日本維新の会京都府議会議員団」(13人)の結成を届け出た。新会派は自民(28人)に次ぐ第2会派となり、共産(9人)は第3会派に後退した(各紙4月29日)。

 

 維新・国民を中心とする新会派結成の裏には、国民府連の前原誠司代表(衆院京都2区選出議員)の強い働きかけがあったとされる。前原氏はかねてより「非自民・非共産の中道勢力の結集をめざす」として維新との協議を進めてきた。国民は、昨年7月の参院選で維新の新人候補を推薦して立憲現職の支援を見送り、維新は今回の府議選・京都市議選で国民現職がいる選挙区に候補を立てなかった。維新と国民の「共闘」の地ならしは既に昨年(以前)から始まっており、それが今回の統一地方選を契機に一挙に具体化したというわけだ。

 

 京都の政治情勢はここ数十年来、「非共産vs共産」という2極対決構造を軸に展開してきた。国政選挙で「野党共闘」が成立したときでさえ、京都では国民はもとより立憲も共産とは一線を画して共闘に応じようとしなかった。立憲と国民は、首長選挙では自民・公明と一体となった「オール与党体制」を構築し、連合京都がそれを裏で支えてきた。立憲と国民は、国政では「野党」として自民・公明との対決を標榜しながら、京都では「与党」として自民・公明とともに行動することに何の矛盾も感じなかった。立憲と国民は、京都ではまさに「鵺(ぬえ)」のような存在だったのである。

 

 保守的風土の根強い京都の「オール与党体制」の下で、それでも共産が府議会、京都市議会の第2会派として一定の影響力を発揮してきたのは、革新自治体時代に蓄積された政治実績に加えて、共産が(伏魔殿のような)得体の知れない「オール与党体制」に対する有力な批判勢力として認識されてきたためである。言い換えれば、京都では「鵺(ぬえ)」のような立憲・国民両党に代わる革新的政治勢力として、共産は一定の期待を有権者から託されてきたと言える。

 

 2021年総選挙では、これまで京都1区で12回の連続当選を果たしてきた自民党の重鎮、伊吹文明氏(衆院議長経験者)が引退することになり、これまで万年2位に甘んじてきた共産党の穀田恵二氏(比例区当選、衆院国対委員長、選対委員長)への当選の期待が高まった。折しも国会では維新を除く野党共闘が成立したこともあり、京都でも(国民は別として)1区に候補者擁立をしない立憲が穀田氏の支持に回ってもおかしくなかった。しかし、連合京都の強い反対があったからか、立憲幹事長の要職にあった福山哲郎氏は、共産との政策協定にも選挙協定にも頑として応じようとしなかった。

 

 この時点で、共産は1区での立憲の票欲しさに、政策協定も選挙協定も結ばないまま京都3区で独自候補を降ろして立憲現職の泉健太氏を推すという決定的な誤りを犯した。京都府委員会からは多数の幹部が党中央委員会の要職に起用されている。その意味で京都は、共産が「閣外協力」を含む史上初めての野党共闘を実現するための「実験台」ともいうべき役割を与えられていたのであり、野党共闘の立役者である穀田選対委員長をどうしても当選させたかったのであろう。しかし、選挙結果は悲惨なものだった。京都3区での独自候補の見送りによって共産の選挙運動は勢いを失い、本命の1区では自民新人候補に大差をつけられて敗北した。共産のなりふり構わぬ立憲への「すりより」に対して多くの革新支持層が嫌気をさして棄権し、共産は手痛い打撃を被ったのである。

 

2017年総選挙の京都1区の得票数は、伊吹文明8万8106票(得票率47.3%)、穀田恵二6万1938票(33.2%)、希望の党女性新人候補3万6134票(19.4%)だった。2021年総選挙では、自民新人候補が8万6238票(得票率40.4%)でトップ当選し、穀田氏は6万5201票(30.5%)と得票数では前回を少し上回ったものの、得票率では後退した。それどころか、維新女性新人候補が6万2007票(29.0%)と肉薄し、穀田票との差はわずか3千票余りだった。維新の京都全体の比例得票数は10万6945票(得票率10.06%)、京都1区ではその3倍近い得票率を獲得したことになる。連合京都や国民支持層が維新に投票したことはもちろんだが、無党派層や立憲支持層の相当数が投票しなければこれだけの票は出ない。この時点で、無党派層や革新支持層の「共産離れ」はすでに始まっていたのである。

 

立憲と国民はこれまで知事選、京都市長選とも自民、公明、立憲民主との相乗りで候補者を推薦し、維新は相乗りに加わらず野党の立場だった。維新・国民を中心とする統一会派の結成は、こうした首長選挙の構図を一変させる可能性がある。ただ国民が支持母体とする連合京都は維新の唱える「身を切る改革」に反発しており、連合京都の原会長は4月27日、産経新聞の取材に「目に見えない壁が国民民主との間にできたように感じる」「連合は府政、市政を(推薦する議員を通じ)与党の立場で支えるのが基本姿勢だ。統一会派の行政や市長選への対応を注視している」と述べたという(産経新聞4月28日)。

 

とはいえ、統一地方選総括シリーズのまとめとして、京都新聞(4月27日)は「維新の台頭により、首長選で長らく続いた『非共産対共産』の2極対決が、3極構図へ大きく変わろうとしている。京都政界は激動期に入った」と締めくくっている(「決戦 京都のこれから」下)。国民府連の前原代表は、もはや立憲や連合京都と手を切ってでも維新と合流しようとしていることは明らかだ。事実、国会でも「自公維国」の手で重要法案が次々と成立しており、維新と立憲の国会共闘は「今は昔」の話になっている。4月30日のNHK日曜討論「憲法記念日特集」でも、維新馬場代表や国民玉木代表は自民・公明顔負けの改憲論を展開し、憲法に緊急事態条項や自衛隊を明記することなど強硬発言を繰り返した。

 

 こんな情勢のなかで、大手紙の論壇の中にも変化があらわれている。朝日新聞の曽我編集委員は、「政治の変動期が迫りくる予感がする。この統一地方選と衆参5補選で兆したのは、野党第1党の交代の可能性だ。日本維新の会の躍進と立憲民主党の退潮は明暗が際立つ」(4月30日「日曜に想う」)と冒頭で指摘している。また、4月28~30日に実施された日経新聞世論調査は、「立民、維新のどちらに期待するか」の質問に対して、回答は「維新」51%、「立民」27%、政党支持率は「維新」13%、「立民」9%だった(日経新聞5月1日)。同じく4月29,30日に実施された共同通信世論調査の政党支持率でも、「維新」が前回に比べて5ポイント増の12.2%だったのに対して、「立民」2ポイント減の7.6%だった(京都新聞5月1日)。事態は急速に変化している。次回は変化の特徴と行く先について考えてみよう。(つづく)