〝自滅〟した野党共闘、比例票狙いの各党立候補も不発、泉健太立憲代表はその責任を取らなければならない、岸田内閣と野党共闘(その20)

 6月20日以降、拙ブログは事実上「開店休業」状態だった。連載中の原稿の締め切りが迫っていたこと、阪神淡路大震災の「新長田再開発事業」に関する検証報告のフォローに追われていたこと、〝灼熱地獄〟の京都の暑さに身体が対応できずダウンしたことなど、理由はいくらでも挙げることができるが、最大の理由は「気が進まなかった」ことだ。

 

 事実、参院選がスタートして以来、聞こえてくるのは気が滅入るニュースばかり。各紙の選挙予想を見ても、「自民大勝」「維新躍進」「立憲不調」「共産低迷」といった見出しがズラリと並んでいて、読む気もしない。これでは、最初から勝負が決まっている「田舎競馬」のレース予想みたいなもので、選挙の雰囲気がいっこうに盛り上がらないのも当然だろう。

 

 しかし、与野党が有権者の審判を受ける選挙は〝結果〟が全てである以上、その分析はあくまでも選挙結果(事実)に基づいて行わなければならない。まずは、党派別比例代表得票・得票率の結果である。前回の2019年参院選と比較すると、総得票数は5007.2万票から5302.7万票に5.9%増加した。そのことを前提に、前回からの各党の得票・得票率がどのように変化したかを見よう。

 

【2019年参院選得票(率) 2022年参院選得票(率・ポイント) 増減(率)】

 単位:万票

  総計 5007.2(100%) 5302.7(100%)      △295.5(△ 5.9%)

  自民 1771.2(35.4%) 1825.6(34.4%・▲1.0) △ 54.4(△ 3.1%)

  公明  653.6(13.1%) 618.1(11.7%・▲1.4) ▲ 35.5(▲ 5.4%)

  維新  490.7( 9.8%) 784.5(14.8%・△5.0) △293.8(△59.9%)

  国民  348.1( 7.0%) 315.9( 6.0%・▲1.0) ▲ 32.2(▲ 9.2%)

  立憲  791.7(15.8%) 677.1(12.8%・▲3.0) ▲114.6(▲14.5%)

  共産  448.3( 9.0%) 361.8( 6.8%・▲2.2) ▲ 86.5(▲19.3%)

  れいわ 228.0( 4.6%) 231.9( 4.4%・▲0.2) △  3.9(△ 1.7%)

  社民   104.6( 2.0%) 125.8( 2.4%・△0.4) △ 21.2(△20.3%)

  その他 171.0( 3.4%) 362.0( 6.8%・△3.4) △191.0(△ 3.8%)

 

(1)得票・得票率は、前回に引き続き自民が「ダントツ1位」で1825万票(34%)を獲得した。次いで、784万票(15%)を獲得した維新が、立憲677万票(13%)、公明618万票(12%)を抜いて2位に上がった。国民315万票(6%)、共産361万票(7%)は、いずれも票を減らして見る影もない。

 (2)総得票数は前回から295万票(増減率△6%、以下同じ)増えたが、その増加分は維新293万票(△60%)にほぼ吸収された。減少したのは、公明35万票(▲5%)、国民32万票(▲9%)、立憲114万票(▲15%)、共産86万票(▲19%)である。公明は「体力低下」が原因とされるが、国民、立憲、共産3党の場合は「野党共闘の崩壊」による〝自滅〟が原因だろう。

 (3)野党のだらしなさに愛想をつかした無党派層の票が、れいわ・社民のような少数政党、そして雨後の筍のように出てきたN党や参政党などの諸派にまわった。既成政党とりわけ「ゴタゴタ」を繰り返して野党のイメージを台無しにした玉木雄一郎国民代表や泉健太立憲代表は、その事実を認めて責任を取らなければならない。

 

 玉木・泉両氏は、投開票日の翌日、選挙結果を連合の芳野会長に別々に報告に行ったというが、一体何を話したのだろうか。今回の参議院選で、連合は立憲と国民候補を合わせて55人を推薦したものの、22人しか当選しなかった。このうち、比例代表では、傘下の産業別労働組合の出身者9人が両党に分かれて立候補し、1人が落選した。連合の芳野会長は、記者会見で「非常に厳しい結果になった。推薦した全員の当選という目標を実現できなかったので、責任は重いと思っている。今後、選挙の総括をまとめるなかでしっかり議論していきたい」と述べたという。そのうえで、立憲民主・国民民主両党間の連携が限定的になったことに関連して「両党が大きな塊となり、戦いやすい形に持っていきたいという思いは今も変わらないので、両党への働きかけは続けていきたい」と語った(各紙7月12日)。

 

 「いったいどの面下げて......」と言いたいところだが、自民麻生副総裁やその他幹部としばしば酒席をともにし、自民の選挙ポスターの前の記者会見で「自民との会合は政策実現のため」といけしゃあしゃあとのたまう御仁のこと、今回の国民・立憲の惨敗は痛くも痒くもないのだろう。「共産とは手を組まない=野党共闘からの排除」という公約通り、共産を2割近い得票減(86万票)に追い込んだことで、連合として大満足なのではないか。

 

 一方、泉健太立憲代表もこれに劣らず鉄面皮ぶりだ。泉氏は12日の党執行役員会で、参院選の総括を8月中旬までにとりまとめる方針を明らかにしたものの、自らは〝続投〟することを前提に立て直しを図る考えを表明した。立憲は今回、現職が立った岩手、新潟、山梨で議席を失うなど6議席減の17議席の獲得に終わった。野党第1党の座は辛うじて維持したものの、比例票では維新を約100万票下回った。勝敗を左右する1人区で、野党は4勝28敗の惨敗だった。泉氏はこの日の会合で、敗北に終わった昨秋の衆院選を念頭に「我々にとって、非常に厳しいところからのスタートという戦いだった」と説明し、「歯を食いしばって難局を乗り越えて、もっともっと国民のために働く必要がある」と述べた。この発言に対して、出席者からは辞任要求は出なかったというが、小川淳也政調会長は「今回の敗北は執行部に責任がある。人心の一新を図るべきだ」と主張したという(朝日新聞7月13日)。

 

泉氏に野党第1党を率いる識見も器量もないことは、今回の選挙で白昼のもとに明らかになった。リーダーの識見は「引き際」に発揮されるというものである。自らの器の大きさを客観視できないようなリーダーは、もうそれだけで指導部の任に非ずというべきだろう。泉氏がこのまま立憲代表の席に居座るようでは、立憲の将来はない。8月中旬までの選挙総括をまとめる前に、泉氏がなすべきことは潔く代表の座を降りることである。

 

同様のことは、立憲以上の惨敗を喫した共産にも当てはまる。日本共産党中央委員会常任幹部会は7月11日、例によって「参議院選挙の結果について」との声明を発表した(しんぶん赤旗7月12日、要約)。

「比例代表選挙で、日本共産党は『650万票、10%以上、5議席絶対確保』を目標にたたかいましたが、361万8千票、得票率6.8%にとどまり、改選5議席から3議席への後退という、たいへんに残念な結果となりました。常任幹部会として、こうした結果になったことに対して、責任を深く痛感しています」

「昨年11月の第4回中央委員会総会決定で、私たちは、党員拡大でも、前回参院選時の回復・突破を目標に掲げて奮闘しました。しかし、党勢は前回参院選時比で、党員92.5%、日刊紙読者92.0%、日曜版読者91.4%にとどまりました。私たちは、今回の参議院の最大の教訓はここにあると考えています。どうやってこの弱点を打開していくか。全党のみなさんの知恵と経験に学びたいと思います。どうか率直なご意見・ご提案をお寄せください」 

 

いつもなら、全党の議論を待つことなく常任幹部会の上からの決定を「総括」と称して学習させるのが指導部の常套手段であるが、さすがに今回の結果はそれを許さなかったのであろう。指導部がいくら叱咤激励しても党組織が動かなくなり、結果として得票数も得票率も〝過去最低〟の水準にまで落ち込んでしまったことの衝撃があまりにも大きいからである。前回の参議院選の比較だけでなく、衆院選も含めてここ数回の選挙結果の推移を辿ってみると、まるで「崖から転げ落ちる」ような勢いで共産の得票数、得票率が減少している状況が浮かび上がる(『前衛』2022年2月臨時増刊)。

 

【衆参選挙における共産党比例代表得票数、得票率の推移、2014~2022年】

(単位:万票)

  2014衆 2016参 2017衆 2019参 2021衆 2022参

  得票数  606.2  601.6   440.4  448.3  416.6   361.8

  得票率  11.3% 10.7%   7.9% 8.9%  7.2%  6.8%

 

 その根本的な原因は、常任幹部会声明がいうように〝自力不足〟にあるが、これを克服することは容易なことではない。一つは党組織が著しく高齢化していること、もう一つは若者が「共産離れ」をしていて寄り付かないことだ。共産党の機関紙「しんぶん赤旗」では、連日(1年365日)機関誌拡大、党員拡大などのキャンペーンを続いているが、どれもこれも同じ文句の繰り返しで見るのもうんざりする。疲弊した党組織をいくら𠮟咤激励しても効果がないことはわかっているのに、百年一日の如く繰り返しているのをみると、これ以外の発想や方策はもうないのかもしれない。

 

 常任幹部会が、「今回の選挙結果について深く責任を痛感している」のであれば、「全党のみなさんの知恵と経験に学びたい」などと他人事のように責任転嫁をせず、自らがそれにふさわしい責任を取ることから始めなければならない。せめても志位委員長が長年独占してきたトップの座を清新な指導者に譲り渡し、指導部を一新するぐらいのことがなければ、共産の再生は難しいだろう。また、「戦時共産主義」の残滓ともいうべき「民主集中制=上意下達」の党組織を依然として維持し、90歳を越える超高齢幹部が定年制もなく常任幹部会に居座るようでは、若者の眼には共産は「化石」同然の存在としか映らない。〝魁より始めよ〟が組織改革の鉄則であって、他人に意見を求めて時間稼ぎすることではあるまい。

 

これまでも再三再四、「選挙結果は厳しかったが、政策は間違っていなかった」との同じような口実で、志位委員長がもし責任を取らないようなことが起これば、若者の眼には共産は改革を拒否する「永遠の保守政党」としての烙印を押されるだろう。オールドリベラリストたちも志位委員長の顔は「三度まで」と引導を渡すだろう。

 

赤旗の死亡告知欄には、連日高齢党員の名前が平均して数名掲載されている。年間累計数では千数百名を下ることはないと言われている。生物学的法則を党員魂の喚起で覆すことはできない。指導部はもとより党組織を一新しなければ、共産党は生物学的に〝自滅〟する以外の道が残されていない。(つづく)