内閣支持率と自民党支持率の下落がリンクし始めた、〝頭のすげ替え〟だけで政治危機は脱出できない、岸田内閣と野党共闘(その25)

 前回に引き続き、メディア各紙の世論調査の動きをみよう。9月19日発表の毎日新聞と日経新聞の世論調査には共通した傾向が見られる。第1は、内閣支持率が2021年10月の政権発足後最低に落ち込んだこと。第2は、内閣支持率と自民党支持率がリンクして下落していることである。この傾向が同時にあらわれているのはこれまでの世論調査では見られなかったもので、現局面の政治情勢を読み解くうえで重要な判断材料だと言える。

 

 毎日新聞によれば、岸田内閣の支持率は29%で1か月前の36%から7ポイント下落した。岸田内閣の支持率がいわゆる「危険水域」と言われる30%を下回るのは、2021年10月の政権発足以降初めてのことだ。前回はこれまでにない大幅な下落(16ポイント)だったから、今回の調査と合わせると僅か2カ月の間に内閣支持率が52%から29%への続落したことになる。「どこまで落ちるのか」がわからない状況になってきている。一方、不支持率は64%で前回54%から10ポイント増、前々回の17ポイント増と合わせると、27ポイントの増加となった。要するに、2カ月で支持率が半分近くに減り、不支持率が倍近く増えたのである。これは、余りにも急な変化だと言わなければならない。

 

 加えて注目されるのは、自民党の政党支持率が同時並行して下落していることだ。前回調査では34%から29%へ5ポイント減、今回調査では29%から23%へ6ポイント減となり、現在の調査法によると2020年4月以降で最低となった。前回と今回を合わせると、自民党支持率は34%から23%へ11ポイント減(3分の1)となり、「保守岩盤層」といわれる自民党支持層にも大きなひび割れが生じてきていることがわかる。

 

 日経新聞はどうか。日経の世論調査は、「重ね聞き」(最初の質問で支持、不支持を回答しなかった人に対して「どちらかと言えば」と重ねて聞き、両方の回答を合計して算出する)といわれる手法なので、毎日新聞よりは支持率が高く出る。それでも今回は43%で前回の57%から14ポイント低下し、2021年10月の政権発足後最低となった。また、不支持率は前回32%から17ポイント増の49%となり、政権発足後初めて不支持が支持を上回った。自民党支持率は、前回46%から9ポイント減の37%となり、同様に政権発足後最低となった。自民支持率の9ポイントという下落幅は、第2次安倍政権が発足した2012年末以降で最大の数字だったのである。

 

これら世論調査の全てが、「政権発足後初めて」と言われるような傾向を示しているのはなぜか。そこには、これまで余り知られていなかった旧統一教会の実態が赤裸々に暴露され、とりわけ自民党支持層を中核とする保守層に衝撃的な影響を与えているからであろう。長年旧統一教会を研究してきた日本宗教学会元会長の島薗進東大名誉教授は、日経新聞の「旧統一教会と政治」(9月15日)、毎日新聞の「政治と旧統一教会問題、日本の岐路」(9月16日夕刊)の中で次のように指摘している。

 

日経新聞のインタビューでは、宗教について無関心な政治家が、教義や世界観にあまり頓着せず、選挙応援など実利面を評価して関係を結ぶ...といった姿勢が、「社会的にはさほどの支持も得られていない宗教団体が大きな影響力を持ち、国民生活にも累を及ぼす一因となった」として、次のように言う(抜粋)。

「自民党と旧統一教会は、教団が1968年に設立した反共産主義の政治組織、『国際勝共連合』を軸にして接近した。宗教団体としての実績がまだあまりないにもかかわらず、『反共』という点で一致しているから共闘できると考えたのはあまりにも安易だった。教団はその後も合同結婚式や霊感商法で批判を浴び、教組の文鮮明氏も米国で脱税の実刑判決を受けた。にもかかわらず、92年には文氏が政治的判断で日本入国を許されている。旧統一教会の教えには、日本は特別の罪を負っているがゆえに、韓国あるいは教団の教組に貢献しなくてはならないという内容が含まれている。選挙に協力してもらえるからというだけで、自民党の政治家がそのような教団と関係を持っていたのは、日本の政治史上の汚点だ」

 

毎日新聞では紙面が大きい(全紙)こともあって、記者とのやりとりの中でその全容と本質を明らかにしている。

 〇自民党が旧統一教会や関連団体との関係について、所属国会議員179人に何らかの接点があったことを明らかにしたのは、「――形だけ何かしたことにして、批判をやり過ごそうとしてはいるのでしょう」。

〇大半の議員が教団との関係を「認識していなかった」とした点については、「――旧統一教会が『正体隠し』の巧みな教団であることは確かです。とはいえ、これだけの数の議員が相手の素性をろくに確かめもせず関係を持つというのがあり得るでしょうか。むしろ教団の正体は知っていて、『分からなかった』ことにした議員もいたのではないか。つまり、ごまかしているのではと疑いたくなります」。

〇教団との関係では本丸と言えるのが安倍氏だが、本人が亡くなったことを理由に自民党は調査に消極的だ。真相はまだ何ら解明されていない。それでもこれで幕引きするつもりなのか、記者会見で茂木幹事長は「率直に反省している」と述べている。このことについては、「――いったい何を反省しているのかがよく分かりませんね。なぜ多くの被害者を生んできた教団が長い間存続し、そして政治家に取り入るようになったのか。問題の本質に立ち入らずに『関係を絶つ』と言っても、なぜという疑問が残ります」。

〇韓国発祥の旧統一教会は1964年、日本で宗教法人として認証された。教団は68年に政治団体の国際勝共連合を設立。「反共」を媒介に安倍氏の祖父である岸信介元首相との関係を深めていったことは、今や広く知られるようになった事実である。この点について、「――文氏は米国で脱税容疑で摘発され、84年に刑務所に収監されます。ところが岸氏は米国のレーガン大統領に釈放するように手紙を書き、92年に文氏が来日した際には、自民党の実力者だった金丸信氏も骨を折りました。岸氏に源流を持つ自民党のタカ派は、勝共連合と思想的に響き合っていた。そういう状況の中でメディアが次第に委縮し、警察が捜査の手を緩めたりといった方向にいった可能性は否定できません。私たち学者も、社会に対して十分に啓発できなかったという反省がある」。

〇旧統一教会といえば、高額な壺を売りつける「霊感商法」のイメージが強いが、「――これは日本特有の現象で、そこには教団が教義の基本として重視する『堕落論』が大きく関わる。この世に堕落をもたらした『エバ国家』の日本は『アダム国家』の韓国に使える責任がある、という論理です。韓国に対して『はべる』、つまり金銭的にも人的にも奉仕するのが当然だとする教えで、日本による植民地支配の償いという意味も込められています。いわば、反日ナショナリズムというわけだが、80年代以降は対外的にもあらわになっていく」。

〇教団が政治への接近を企図した時期は、民主党への政権交代を経て自民党が政権を奪還するタイミングとちょうど重なる。「――安倍さんにとっては民主党に政権を奪われたのはトラウマになっていました。選挙に勝ち続けるためには集票力を増やさなくてはいけないと。そこで、急速に教団との関係を深めていったとみられます」。

 

これまで「日本会議」など歴史修正主義の立場に立つ自民党タカ派は、朝鮮での日本の植民地支配の意図や事実を覆い隠し、日本の戦争責任を指摘する歴史学を「自虐史観」などとして悪罵中傷を続けてきた。そして、右翼雑誌などを通して「嫌韓プロパガンダ」を大々的に展開し、国内の嫌韓感情を一貫して煽ってきた。ところが、その先頭に立ってきた安倍元首相が旧統一教会信者の手によって暗殺され、教団の実態が赤裸々に暴露されるに及んで、自民党支持層の中に大きな動揺が生まれた。自らの政権維持のためには旧統一教会の「反日ナショナリズム」に目を瞑り、日本信者の窮状を見殺しにしてきた自民党に対して、激しい不信と怒りの渦が巻き起こっているのである。

 

この事態は一過性のものではない。戦後の政治体制の根幹を揺るがすような構造的問題、すなわち自民党の政治基盤の崩壊につながるような問題と見るべきであろう。安倍元首相の「国葬」を強行しようとしている岸田政権に対する批判は、「国葬」が終わったからといって収まるようなレベルの問題ではない。それは、もはや岸田首相の首を挿げ替えても、旧統一教会と自民党の癒着関係を根本から清算しなければ解決しない問題と化している。自民党は果たして生まれ変われるだろうか。自民党支持層のみならず、多くの国民は冷めた目でその行方を注視している。(つづく)