岸田内閣の支持率急落に見る世論の構造変化、政党支持基盤に地殻変動の予兆があらわれている、岸田内閣と野党共闘(55)

 6月17、18両日に実施された朝日新聞、毎日新聞、共同通信の世論調査結果を見て、いつもとは異なる気配を強く感じた。岸田内閣の支持率が急落したことに加えて、自民・公明連立政権に対する否定的評価がはっきりとあらわれていたからだ。自公連立政権の継続・解消を巡る質問に対して、朝日は「続ける方がよい」32%、「解消する方がよい」55%、毎日は「続けるべきだと思う」17%、「続けるべきだとは思わない」67%、共同は「連立政権を継続するべきだ」29.4%、「解消するべきだ」59.6%となり、いずれも否定的意見が肯定的意見を大幅に上回っている。

 

 朝日の「する方がよい」といった微温的な質問に比べて、毎日は「すべきだと思う」「すべきだとは思はない」との断定的口調で回答を求めている。通常なら微温的な質問の方が断定的な質問よりも多くの回答を集めるのだが、今回の場合は毎日の方が回答者の気分を的確に捉え、明確な回答を引き出したように思える。毎日では「続けるべきだとは思わない」67%が実に「続けるべきだと思う」17%の4倍に達し、全ての年代で「思わない」が「思う」を上回った。性別でも男性の7割、女性の6割が「思わない」と答えており、支持政党別では自民支持層においても「思わない」が6割に上った。つまり、年齢、性別、支持政党を問わず、自公連立政権は「続けるべきだとは思わない」と回答した人が多数を占めたのである。

 

 もう一つの注目点は、与党支持層の中でも自民支持層と公明支持層の回答がはっきりと分かれていることだ。自民支持層では、朝日が「継続」49%、「解消」42%、共同が「継続」48.8%、「解消」44.8%と賛否がほぼ拮抗しているのに対して、公明支持層は両紙とも「継続」が大半(8割前後)を占めている。自公連立政権の目下のパートナーとして「おこぼれ」に与ってきた公明支持層が「継続」を支持しているのはわかるが、公明を「集票マシーン」として存分に利用してきた自民支持層からこれほどの否定的意見が出たことは意外だった。メディアは、その原因を次期衆院選の候補者調整(東京)を巡る自公の対立に基づくものと考えているようだが、事態はそれほど簡単なものではない。

 

自民と宗教団体の関係はもともと根が深い。安倍派を中心として統一教会との抜き差しならぬ癒着関係が明るみに出たにもかかわらず、関係をなかなか断ち切れず「解散命令」も出せない。関係を断ち切ればこれまでの内部事情を「全部バラス」と脅かされているからだろう。公明との連立についても幾多の意見の相違がありながら、四半世紀にわたってズルズルと関係を続けてきたのはそのためだ。ところが、今回の世論調査で様相が大きく変わり、状況は一変した。自公連立政権に対する評価が否定側に傾き、自民支持層でさえが「解消すべきだ」と考えている人たちが数多くいることが判明したのである。

 

私はその背景に、創価学会の支配下にある〝宗教政党〟としての公明党に対する警戒感が自民支持層の中に急浮上してきたからだと考えている。創価学会幹部との関係が深い菅前首相などを通せば、公明との関係修復が図られるといった安易な見方もあるが、それは幹部間のことであって自民支持層が必ずしも同調するかどうかわからない。むしろ今後は、今回のような世論動向がますます強まり、朝日や共同でも毎日と同じような傾向が出てくるのではないだろうか。

 

岸田首相長男秘書官の「公邸忘年会」に関しても、長男が更迭された後で依然として厳しい世論が続いている。朝日は、長男秘書官が辞任した問題で「岸田首相にどの程度責任があると思いますか」と尋ね、「大いに責任がある」36%、「ある程度責任がある」39%、「あまり責任はない」18%、「全く責任はない」6%との回答を引き出した。国民の75%(4分の3)もの圧倒的多数が首相自身に「責任あり」と判断しているのだから、この問題はこれからも尾を引くだろう。毎日は、長男秘書官の6月1日付けの交代についての意見を求めたが、結果は「妥当だ」33%、「遅すぎた」51%、「交代させる必要はなかった」7%というものだった。これも84%という圧倒的多数が交代は当然だと判断しているわけだから、「厳重注意」で切り抜けようとした首相の認識が如何に浅はかだったを示している。

 

首相長男秘書官の問題がこれだけ国民の関心事になるのはなぜか。事柄は一政治家の単なる「身内びいき」問題にすぎないように見えるが、この問題の底流には〝世襲政党〟ともいうべき自民の体質に対する国民の厳しい批判がある。世界でも類を見ない支配政党(自民)の世襲化は、これまで数多く批判に晒されながらも小選挙区での候補者選別制度によってますます強化されてきた。1選挙区に1人しか候補者を擁立できない小選挙区では、議員経験者の世襲候補が自動的に選ばれることになり、それが安倍・岸一族の若い世襲議員の誕生となり、岸田首相長男の秘書官就任につながったのである。世襲候補の当人たちは、それを当然の如く考え、その特権を誇示することに喜びを感じるまでになっているのである。

 

 だが、岸田首相長男秘書官の更迭をめぐって「バカ息子!」「アホぼん!」などの言葉が飛び交ったように、この事態が自民党の劣化に直結していることは間違いない。限られた世襲一族からしか政治家が出てこないような〝世襲政党〟と宗教団体によって支配される〝宗教政党〟が手を組み、政治を恣(ほしいままに)する事態はさすがの自民支持層にとっても許しがたいことと映ったのであろう。それが、今回の一連の世論調査結果としてあらわれたのである。

 

 近代的な民主政治が、前近代的な世襲政党と宗教政党の連立政権によって支配されている事態の深刻さに改めて気付いたのが、今回の世論調査だった。目下のところ政党支持率には大きな変化は見られないが、この事態はこれまでの政党支持基盤に地殻変動をもたらすことが予測される。世論調査を担当する毎日記者は、この事態を次のように分析している(毎日新聞6月21日電子版)。

――無党派層に限って内閣支持率を算出したところ、内閣支持率は僅か11%だった。回答者全体の内閣支持率は5月の前回調査比12ポイントの下落だった。無党派層に限った支持率は15ポイント下落で、下げ幅が全体より大きかった。岸田内閣の無党派層からの支持率はこれまで、閣僚の辞任ドミノに直面した22年12月の12%が最低だったが、今回はこれを更に下回った。全体の支持率の3分の1以下にまで落ち込んだのも初めてだ。

――政党支持率は自民党29%、日本維新の会15%、立憲民主党10%、共産党6%、れいわ新選組5%、公明党4%など。「支持政党はない」と答えた無党派層は23%で、自民支持層に次ぐ第2の勢力とも言える。次期衆院選での比例代表の投票先を聞いたところ、無党派層で圧倒的に多かったのは「わからない」の60%で、回答者全体(17%)の3倍以上に達した。無党派層に代表される「浮動票」が国政選挙で一定の重みを持つ中、この層にどのように浸透を図っていくか。首相の世論を見極める力が試されそうだ。

 

とはいえ、自公連立政権に対する世論の風向きが変わったといっても、それが野党への政権交代につながると考えるのは早計だろう。目下、日の出の勢いにある維新も「不祥事乱れる維新、ハラスメント14人申告」(毎日新聞6月17日)と大々的に報じられているように、その体質は「ハラスメント政党」と呼ばれてもおかしくない粗野なものだ。野党第1党の立憲は、「保守中道政党」を目指すのか「革新野党」を目指すのか、いまだ進路がはっきりしない。「批判拒否政党」だと批判されている共産も、その体質を一新しなければ国民の支持を得ることは難しい。当分、こんな暗闇状態が続くのかと思うと気が重くなる――、これがオールドリベラリストの偽らざる心境なのである。(つづく)