「数値目標」偏重では党勢伸びず、〝乾いた雑巾〟はもう絞れない、日本共産党9中総の志位委員長のあいさつを読んで、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その2)、岸田内閣と野党共闘(67)

 2023年10月5,6日に開かれた日本共産党第9回中央委員会総会(9中総)の冒頭、志位委員長は第29回党大会(2014年1月15~18日)に向けたあいさつで、「第29回党大会成功、総選挙躍進をめざす党勢拡大・世代的継承の大運動を、文字通りの全支部運動に発展させ、『130%の党』という目標を達成するための全党の深い意思統一をはかることにあります。そのために9中総として、全国の支部・グループのみなさんにあてて総決起を訴える〈第二の手紙〉を送ることを提案したいと思います」と述べた(赤旗10月6日、以下同じ)。

 

 「大運動」の到達点と強化方向については、「私たちの運動の到達点は『130%の党』という目標にてらせば、大きな距離を残しています。同時にこの3カ月間の取り組み(入党1870人)によって、党大会までの残りの3か月間の頑張りいかんでは運動の飛躍をつくりだすための重要な土台を築いてきたことをみんなの共通の確信にして、ここで飛躍に転じることを訴えたいと思います」と言い、その可能性を次のように強調した。

  ――第一は、党建設の根幹である党員拡大で、ほぼ止まってしまった運動を起動させ、入党の働きかけの自覚化・日常化がはかられつつあることであります。全党の奮闘によって、3カ月間で2万1653人の方々に入党の働きかけを行い、1870人の新しい同志を党に迎い入れました。(略)しんぶん赤旗の読者拡大では、7月は日刊紙、日曜版とも前進をかちとりましたが、8月、9月はわずかに届かない結果になりました。(略)「大運動」で入党の働きかけに踏み出した支部は毎月約2割程度です。読者拡大で成果をあげた支部は毎月約2~3割程度です。半数以上の支部がこの運動に立ち上がれば大きな飛躍が起こります。全支部の運動にすれば目標達成の展望が一挙に見えてきます。(略)そのために第9回中央委員会総会として、すべての支部・グループのみなさんにあてて、「大運動」への総決起を訴える「第二の手紙」を送ることを提案します。

 

ここには、幾つかの「レトリック」(修辞・粉飾)が施されていることに注意したい。まず第1は、党勢拡大目標の「130%の党」は第28回党大会(2020年1月)に決定されたものであり、その成果は実数を報告しなければならないにもかかわらず、「大きな距離を残している」といった曖昧な表現でぼかされていることである。これまでの中間報告(赤旗2022年8月2日、23年1月6日、2月~10月の毎月3日頃)で明らかにされた実態は、以下の通りである。

(1)第28回党大会(2020年1月)、党員27万人余、赤旗読者100万人

  • 2023年1月、党員26万人(2020年1月~2022年12月、入党1万1364人、死亡者・離党者〈推定〉2万1660人、差引1万人余減)、赤旗読者90万人(10万人減)
  • 2023年1月~9月、入党3684人、死亡者・離党者〈推定〉5340人、差引1654人減、赤旗読者4万8508人減
  • 2023年10月現在、党員26万人弱(前大会時比1万人余減)、赤旗読者85万人(同15万人減)

 ※死亡者数の推定方法は、第28回党大会発表の過去3年間死亡者数1万3823人、年平均4607人を適用して算出した。

※推定離党者数は、27万人余(2020年1月)+入党者1万1364人-死亡者(年平均4607人×3年=1万3821人)-離党者=26万人(2022年12月)の計算式を用いて、ここから3年間の離党者7543人、年平均2514人を算出した。

 

つまり、第28回党大会を目前に控えた2023年10月現在の党勢は、前大会(2020年1月)に比べて、党員1万人余減の26万人弱、赤旗読者15万人減の85万人余(15万人減)と後退しており、「130%の党=党員35万人、赤旗読者130万人」の目標に対して党員74%(4分の3)、赤旗読者65%(3分の2)の水準に低迷している。このような実態を隠蔽して、志位委員長は最近3カ月の入党者1870人を例に引いて、「党大会までの残り3カ月の頑張りいかんでは運動の飛躍をつくりだすための重要な土台を築いてきた」と言うのだから、これはもう「レトリック」の域を通り越して、立派な「フェイク」(偽物、まやかし)の部類に入ると言わなければならない。こんな根拠のない方針を堂々と述べるのは、もはや本人自身が真偽を確かめる能力を失っているからだろう。

 

第2は、「130%の党」の展望については、「たられば」の仮定の論理で目標達成があたかも実現可能であるかのような言い回しがされていることである。現在は全支部の「2~3割」しか活動していないので、これが「半数以上」あるいは「全支部」の活動にすれば、目標達成の展望が一挙に見えてくるというのである。だが、党員目標一つをとってみても、全支部が立ち上がれば残り3カ月で展望が見えてくるなどいうのは、全くの「まやかし」にすぎない。仮に全支部(実働支部の4~5倍)が活動しても「1870人×4~5=7480人~9350人」程度の数にしかならず、27万人に手が届くかどうかといったことにしかならない。26万人の現勢から35万人の目標達成へいったいどう「飛躍」させるというのか、威勢のいい空文句は却って事態を悪化させる。

 

第3は、支部の「半数以上」あるいは「全支部」を立ち上がらせるというが、それが「第二の手紙」で実現できるなどと思うのは、「机上の空論」以外の何物でもない。第28回党大会以来、党中央からは繰り返し同様に指示が出されてきたにもかかわらず、これまで一度も実現したことがなかった。それが「実働率2~3割」という現実なのであり、そこには「動きたくとも動けない」事情が横たわっているからだ。言い換えれば、これほど党組織の高齢化が進み、支部会議すら開けない深刻な事態が全国に広がっているというのに、これを「半数以上」「全支部」などいった架空の条件を並べて「やればできる」などというのは、よほど現実を知らないか、現実を知らずに号令をかけるだけの精神主義者だけだ。〝乾いた雑巾〟はいくら絞っても水一滴も出ない――というが、これが古来からの厳然たる真理であり、組織原則だろう。23年もトップの座にいながらこんな自明の理一つ分からないようでは、志位委員長は一刻も早く退場した方がよい。

 

 こんな折も折、日経新聞10月8日の「直言」欄で旧日本軍の『失敗の本質』を解明した野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)のインタビュー記事が載った。野中氏はその中で「数値偏重では革新起きず」という興味深い問題提起をしている。関係する部分だけを要約すると、次のようになる。

  • 数値目標の重視も行き過ぎると経営の活力を損なう。多くの企業がPDCA(計画→実行→評価→改善)を大切にしているというが、Pの計画とCの評価ばかりが偏重され、Dの実行とAの改善に手が回らない。
  • 行動が軽視され、本質をつかんでやり抜く「野性味」がそがれてしまった。野性味とは我々が生まれながらにして持つ身体知だ。計画や評価が過剰になると劣化する。計画や数値目標は現状維持の経営には役立つかもしれないが、改革はできない。
  • 計画や手順が前提だけに、環境の変化や想定外の事態に直面すると、思考も停止する。高度成長期には躍進の原動力だったとしても、今では成長を阻害する原因だ。

 

この指摘は共産党にもそのまま当てはまる。「党勢拡大目標=数値目標」を至上目的として重視し、「拡大計画=PLAN」と「点検=CHECK」ばかりが偏重されると、行動(党活動)が軽視され、本質(改革)への野性味(情熱)が失われるようになる。それは高度成長期には「躍進」の原動力だったが、今では成長を阻害する原因に転化している――まさに、その通りではないか。ソ連・東欧の共産主義政権の崩壊や中国の天安門事件の勃発など、国際的な環境変化や国民の「共産党離れ」など想定外の事態に直面すると思考停止状態に陥り、それ以降は「壊れたレコード」のように「党勢拡大」だけを言い続ける状態が続いてきた。次期党大会がそこから脱却する機会になるか、相変わらず「計画」と「点検」だけの「民主集中体制」が継続されるのか、共産党はいま存亡の岐路に立っている。(つづく)