多数者革命は「強く大きな党」ではなく「信頼と共感の党」でなければ実現できない、130%の党づくりは〝永遠の目標〟に終わるだろう、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その15)、岸田内閣と野党共闘(80)

 日本共産党の第29回党大会(2024年1月15~18日)が終わった。党大会は目玉とされた女性初の田村智子新委員長を選出して「刷新」のイメージを演出したが、志位委員長が空席の議長に就任し、常任幹部会委員を兼務することが判明してその期待は一気にしぼんだ。志位氏が不破氏と同じく93歳まで常任幹部会委員を務めるとすれば、この先23年間も「志位院政」が延々と続くことになる。拙ブログで「『表紙=女性委員長』だけを換えても『中身=志位体制』が変わらなければ意味がない」と書いたのは、そのことである。

 

 党大会翌日19日の朝日、毎日両紙は、奇しくも同じ趣旨の社説を掲げた。朝日は「共産党新体制、党を開く変革伴わねば」、毎日は「共産新委員長に田村氏、開かれた党へ体質刷新を」というもの。朝日はさらに踏み込んで「時々刻々」で全頁の解説記事を掲載し、「低迷の共産 刷新を演出」「歴代最長 増幅した不満」「議長に残る志位氏『院政』の見方」との見出しで、その内情を詳しく伝えた。一言で言えば、田村氏へのバトンタッチに関しては「志位氏の影響を大きく受ける」「実際には何も変わらない」との声が根強いというものだ。

 

 大会の模様は赤旗で連日報道され、全体を貫くキーワードは「強く大きな党をつくる」ことだった。「多数者革命を推進する強く大きな党を」と題する田村副委員長の中央委員会報告は、次のような論旨で組み立てられている(赤旗1月17日)。

 (1)多数者革命を進める主体は主権者である国民であり、国民の一人ひとりが政治や社会を自ら変えようとしてこそ社会の変革は成し遂げられる。多数者革命には「国民の自覚と成長」が不可欠である。

 (2)しかし、「国民の自覚と成長」は支配勢力の攻撃と妨害によって自然に進まないので、支配勢力の側の主張を打ち破る理論と運動が必要になる。

 (3)「国民の自覚と成長」を推進するには、そのための理論と運動を担い、不屈性と先見性を発揮する党の存在が不可欠である。政治変革の必要性が国民の認識になり、革命の事業に広範な国民の支持を集め、統一戦線に国民多数の結集を進めていくことに共産党の役割がある。

 (4)民主集中制の組織原則は、多数者革命を推進するという党の役割から必然的に導かれる。民主集中制の見直しを求める意見に共通しているのは〝革命抜きの組織論〟になっていることである。革命の事業は、支配勢力による熾烈な攻撃や妨害を打ち破ってこそ前途を開くことができる。この攻撃を打ち破って社会変革を成し遂げるためには、民主集中制の組織原則はいよいよ重要性と必要性を増している。

 (5)党指導部の選出方法は民主集中制の組織原則と一体不可分である。党指導部を党員による直接投票で選ぶことになれば、候補者は自分を支持する多数派をつくるために活動することになり、必然的にポスト争いのための派閥・分派がつくられていく。党の中で誰を支持するのかという議論が行われ、対立が生じ、主張や行動がバラバラになっては国民に対する責任が果たせない。とりわけ支配勢力の攻撃を打ち破って、多数者革命を推進する日本共産党にとっては、派閥や分派をつくらないことが死活的に重要である。

 

 ここにはかなり思い込みの激しい(手前勝手な)理屈が並んでいる。第1は国民の自覚と成長は支配勢力の攻撃と妨害によってなかなか進まないという国民に対する根強い「愚民観」の存在、第2は共産党(だけ)が支配勢力の主張を打ち破る理論と運動を担えるという独善的な「前衛党」の意識、第3は革命の事業を推進するには党の統一と団結を支える組織原則が不可欠という「民主集中制」の絶対化、第4は党指導部を党員の直接投票で選ぶことは派閥・分派の発生につながるという「統制的思考」など、そこには驚くべき権威主義的体質が露呈している。

 

 少数の革命集団が武力闘争によって権力を奪取するという「戦時共産主義」の時代ならともかく、国民主体の「多数者革命」を議会制民主主義に基づいて実現しようとするのであれば、何よりも国民の自覚と成長に信頼を置き、協力協同の関係を築くことが党の基本方針でならなければならないだろう。現に政党や労働組合、学生団体が国民の政治・社会運動を指導した時代は遠く去り、いまや自らの意思と行動で政治・社会運動に関わろうとする多様な市民組織、市民運動が随所で展開されている。これらの動きを積極的に評価できず、国民の自覚と成長が支配勢力の攻撃と妨害によって自然成長では進まないと断定することは、多数者革命の可能性そのものを否定することにもなりかねない。党首公選制などを否定する根拠として「派閥・分派」の発生を持ち出すと言った議論は、党員間の民主的討論を恐れ、党員に信頼を置けない党指導部の自信の無さを示すだけだ。

 

 党勢拡大運動の後退の原因をもっぱら支配勢力の攻撃の所為にする「たたかいの弁証法」も、党の体質や運営の欠陥を本質的に分析できない共産党の自浄能力の欠如を示している。田村報告の「『大運動』と前大会以降の党づくりの到達点と教訓」は、党大会直前(半年分)の僅かな成果をことさらに強調しているが、そのための党大会であるにもかかわらず4年間にわたる深刻な長期後退の実態分析を避けている。また「130%の党づくり」目標を5年先に先延ばしして実現するとして、あくまでも党勢拡大運動の破綻を認めていない。以下はその要旨である。

 (1)昨年6月末の8中総で「第29回党大会成功・総選挙躍進を目指す党勢拡大・世代的継承の大運動」を呼びかけ、半年で4126人の党員を迎えた。日刊紙650人増、日曜版2456人増、電子版307人増となった。

 (2)前大会からの4年間で新たに1万6千人の党員を迎えたが、現勢は25万人(27万人から2万人減)、赤旗読者は日刊紙、日曜版、電子版遇わせて85万人(100万人から15万人減)となって、長期後退から脱していない。

 (3)第30回党大会(2年後)までに、第28回党大会現勢――27万人の党員、100万人の赤旗読者を必ず回復・突破し、第28回党大会時比「3割増」――35万人の党員、130万人の赤旗読者の実現を2028年末(5年後)までに達成する。

 

 志位委員長は「開会のあいさつ」で、前大会から現在までの4年間の党員死亡者数は1万9814人(2万人)だと報告した(赤旗1月16日)。この間の入党者数は1万6千人だから、2024年1月現在の党員現勢は、27万人(2020年1月現勢)-2万人(死亡者数)-1万6千人(離党者数)+1万6千人(入党者数)=25万人(2024年1月現勢)となる。つまり、この4年間に入党者数と同数の離党者数が発生し、これに死亡者数を加えると入党者数の倍以上(2.25倍)に当たる党員が消えたことになる。下部組織には連日党勢拡大運動の大号令をかけながら、その一方離党者数の規模や実態については一切「説明責任」を果たさない党指導部の責任は重い。まるで「底の抜けたバケツ」か「ざる籠」のように、いくら水を注いでも水位が低下する党勢後退をいったいどのようにして止めるのか――この「長期後退=構造的衰退」の原因を本質的に解明し、党勢拡大運動に替わる運動方針を打ち出すことがなければ、共産党は生き残れない。

 

 結論は明白だろう。「強く大きな党」の構築が幻想に終わった今、それに替わる党づくりは「信頼と共感の党」以外にあり得ない。国民の価値観が多様化し、それにともなって政治や社会との関わり方も多様化している現在、それに対応できるソフトで開かれた体質の党づくりが求められている。そのためには「民主集中制」の組織原則の廃棄と党首公選制の実現が第一歩となる。田村新委員長がどこまで主体性を発揮し、独自性を貫けるか。志位院政の単なる「表紙」にならないよう新委員長の健闘を祈りたい。(つづく)