「表紙=女性委員長」だけ換えても「中身=志位体制」が変わらなければ意味がない、共産党はいま存亡の岐路に立っている(その14)、岸田内閣と野党共闘(79)

 2024年1月15日から始まった日本共産党第29回党大会が、久しぶりでマスメディアの注目を浴びているようだ。私が定期購読している朝日、毎日、日経の各紙は1月16日、総合面や政治・外交面のトップ記事扱いで党大会を大きく報じた。以下は、見出しとリード文の紹介である。

 

〇「23年ぶり党首交代か、共産党大会始まる」(朝日新聞)

 ――共産党の第29回党大会が15日から4日間の日程で、静岡県熱海市で始まった。歴代最長となる23年にわたり、党首を務めてきた志位和夫委員長(69)の交代論が取り沙汰されており、党首人事が最大の焦点になる。幹部人事は最終日の18日に決まる見通しだ。

〇「在任23年志位氏 去就焦点、共産党大会、世代交代求める声」(毎日新聞)

 ――4年ぶりの共産党大会が15日、静岡県熱海市で始まった。18日までの大会期間中、最大の焦点は在任期間が23年を超える志位和夫委員長(69)の去就だ。近年、国政選挙で共産の議席減が続き、党員から指導部の世代交代を求める声が上がっている。

〇「共産・志位氏の去就注目、委員長在任、23年で最長、得票減、野党共闘も岐路」(日経新聞)

 ――共産党の党大会が15日、静岡県熱海市で4年ぶりに始まった。歴代最長の23年間在任する志位和夫委員長の交代の有無が最大の注目点となる。次期衆院選に向けて続投論がある一方、党勢回復を目指して世代交代を期待する声もある。「野党共闘」の再構築に向けた方針も定義する。

 

 一読してわかるように、各紙のいずれもが志位委員長の「交代の有無」が最大の焦点だと論じている。その理由は力点が異なるが、志位委員長の在任期間が「長すぎる」という点では共通している(要旨)。

 ――共産は2016年参院選で野党共闘を実現させ、存在感を高めた。ところが、立憲民主党と政権枠組み合意を結んだ21年衆院選では議席を減らした。22年参院選でも議席を減らし、昨春の統一地方選の議員選では議席の1割超にあたる計135議席を失った。1994年に36万人だった党員数は、高齢化などの影響で今年1月時点で25万人と4分の3まで減少。退潮傾向に歯止めがかからない状況に、党幹部から「志位氏は長すぎる」との苦言が漏れ、昨年は党内から公然と党首公選制を求める声が上がった(朝日新聞)。

 ――共産党は12月、決議案に対する党員約340人の感想や意見などをまとめた冊子を発行した。2000年11月から23年以上にわたり共産を率いてきた志位氏に対し、厳しい意見が目立つ。「党首の任期が長すぎることは、若い世代に違和感を抱かせ、国民的理解を得るのは難しくなっています。最長で『3期9年』などとする制限を制度化することを提案します」「衆院選、参院選、統一地方選と3回続けての後退の責任と除名処分対応の責任を明確にし、党のイメージを変えるためにも、志位委員長の退任を始めとする党中央の大幅な人事刷新を求めます」「日刊紙配達参加者の8割が70代以上という状況で、将来にわたって配達体制を継続できる展望がありません」などなど、指導部人事に加え、党運営を巡る改革についても厳しい意見が出された(毎日新聞)。

 ――共産党の意思決定は中央委員会という200人ほどの組織でする。事実上のトップが委員長で書記局長、副委員長と合わせて「党三役」を構成する。議長は常設ではない。党大会で志位氏の去就が焦点になるのは、党員が1990年の半分ほどの27万人程度に減少し、機関紙赤旗の読者数も1980年の355万人から2020年の100万人に落ち込み、国政選挙の比例得票数も2016年参院選600万票から2022年参院選は400万票を割り込んでいるためだ。共産党と他の野党の関係も岐路にある。共産党は次期衆院選に向けて立憲民主党に共闘を働きかけているが、立憲は慎重姿勢を崩さず、維新や国民民主は外交・安全保障などの考え方が根本的に異なる。共産党内では若手や女性を要職に起用し、刷新感を演出すべきだとする意見があり、後継者の1番手と目されるのが政策委員長の田村智子氏だ。しかし、仮に志位氏が委員長から退いても、現在空席の議長に就くとの見方もある。議長は形式上、党内最高位のポストとして扱われてきた(日経新聞)。

 

 さすがの志位委員長もこうした内外の世論にもはや抗しきれないと観念したのか、昨年11月の中央委員会総会では通常は委員長が行う「幹部会報告」と「結語」を田村副委員長に譲らざるを得なかった。また、今回の党大会でも開会のあいさつでも、「大会決議案の中央委員会を代表しての報告は、田村智子副委員長が行います」(赤旗1月16日)と述べたように、志位委員長退任と共産党初の女性委員長誕生はほぼ確実とみられている。だが問題は、その後の志位氏の去就であろう。志位氏がこのまま潔く政界から退くことなど(到底)考えられない以上、現在空席の「議長ポスト」に就任する可能性が限りなく高いと思われるからである。

 

 周知の如く、志位委員長の前任者である不破委員長は、志位氏に委員長ポストを譲ると同時に中央委員会議長(2000~2006年)に就任し、議長退任後も93歳の現在に至るまで常任幹部会委員の位置から退こうとしなかった(今回は肉体的限界で退任せざるを得ないだろう)。このことが巷間言われる「不破院政」の政治基盤となり、21世紀になってからも共産党が高度経済成長時代の運動方針を時代の変化に応じて転換できない足枷となってきた。不破氏が委員長退任後も志位委員長の方針に対して「僕は違うな」と悉く口を挟み、志位氏がノイローゼになった話は余りにも有名だ。志位氏が「志位院政」を敷くことによって田村委員長の方針に介入するとすれば、志位委員長の「議長就任」は悪夢の再来でしかない。

 

「君たち、表紙だけ替えても中身が変わらなければ意味はないよ」と言ったのは、農林官僚出身で政府の数々の要職を務めた伊東正義である。伊東は1989年の竹下内閣崩壊後、自民党総裁に押されたが固辞して引き受けようとしなかった(国政武重『伊東正義、総理のイスを蹴飛ばした男――自民党政治の「終わり」の始まり』岩波書店、2014年)。属する政党も政治情勢も違うが、伊東の政治家としての矜持には学ぶべき点が多いのではないか。今からでも遅くない。志位氏には国政武重氏の著作を一度でもいいから読んでほしい。(つづく)